音楽や楽器の音、それらが耳に届く直前に経由する機器、それがスピーカーである。今回紹介するのはマスタリング・スタジオやレコーディング・スタジオでもおなじみのPMCによるパワード・モニター・スピーカー、DB1S-A。その特長は“ハイコスト・パフォーマンス”ということだが、実際はどうだろうか？
軽量かつハイパワーな
デジタル・アンプ・モジュール
まずは外観。PMCのスピーカーはつやっぽく深みのある黒、という個人的な印象があるのだが、DB1S-Aはつや消しの黒でぬくもりを感じられる仕上がりになっている。全体的なシルエットは角が丸みを帯びているものの直線的で、ラウンド・フォルムの多い最近のスピーカーの中ではやや武骨さを感じるが、これは従来のPMCらしい個性が出た外観だ。キャビネットはMediteと呼ばれる特殊MDFパネルで作られている。これはMDF材の両面につき板を張り合わせたものだそうで手作業により組み立てられるとのこと。そういった精密な工作技術と特殊接着剤の使用により、キャビネットそのもののゆがみを防いで音質へのカラーレーションを極力排除しているそうだ。キャビネット背面にはアンプ部があり、その下にXLR端子のインプットと電源コネクターが配されている。そのほかパワー・スイッチと−30dB〜０dBの連続可変アッテネーターも上面に用意されている。スピーカー・ユニットは、マグネシウム合金フレームの140mmコーン・ウーファーと、同社のラージ・モニターと同様の27mmファブリック・ソフト・ドーム・ツィーターが採用された２ウェイ方式だ。精密にデザインされたクロスオーバー・ネットワークを構成するすべてのコンポーネントに高品質な銀入りはんだを使っているそうで、これもキャビネット同様手作業で組み上げられるとのこと。また、DB1S-Aに搭載された高出力のFLYING MOLE製デジタル・パワー・アンプ・モジュールは、その重さわずか650gでありながら最大出力160W（４Ω）のパワーを誇るというから驚きである。本体を持ってみると一瞬、“実はパワードではないのでは？”と錯覚してしまうほどに軽い。同クラスのモニター・スピーカーと比較すると拍子抜けするほどだ。
クリアで繊細な表現力と
疲労感の少ない素直な音質
肝心の音質はどうか。全体的な感じはかなりクリアに聴こえてきて、高域成分はサラサラとした質感になっている。ただ中域から低域にかけては少しダブついた感があり、高域の音像の輪郭の良さや解像度／定位感などの良さと比べるとイマイチどっしり感がない。全体的に音が遠くなるような印象を受けたのである。しかし、試聴したところは広めのスタジオだったので、本機のサイズを考えると少し広すぎたのかもしれないと思い、モニターのセッティングを変更してみた。今度はスピーカーの間隔をやや狭くして全体的に小さめのリスニング・ルームの環境にしてみたのだ。すると、リスニング・ポイントが近くなったせいもあるが、先程とはガラッと印象が変わった。音全体の粒立ちが良くなり、モニター・スピーカーとして十分活躍できる音になった。この新たな環境で試聴したところ、繊細な部分まで音像がはっきりと見えるようになった。ピーキーなところもないので長時間の作業でも疲労感は少ないだろう。例えばボーカル主体のスローな楽曲などでは、曲の透明感や空気感が明確に分かり、全体像をつかみやすいモニター・スピーカーだと思う。ただし、人によってそのサウンド・キャラクターには好みの分かれるところもあるかもしれない。あくまで筆者の印象だが、細やかな表現ができる一方で、急激な音の立ち上がりや押し出しのあるサウンドを大音量でモニタリングする場合はその良さを発揮しきれないように感じた。しかし自然な音量でのモニタリングでは、細部まで突き詰められる定位感と解像度を持っている。DB1S-Aは、ある程度曲の形が出来上がって全体のバランスをチェックするときに、その良さを最大限に発揮できるスピーカーではないかと思う。マスタリング・スタジオでPMC製モニター・スピーカーが多く用いられるのはこういった理由もあるのではないだろうか。個人的にはもう少し音量が出せると良かったのだが、PMCのサウンドが好みの人であれば、同クラス・サイズのモニターに比べて高品位な印象を受けるのは間違いないと思う。
SPECIFICATIONS
■タイプ／アクティブ２ウェイ
■スピーカー構成／27mmファブリック・ソフト・ドーム（HF）、140mmコーン（LF）
■周波数特性／50Hz〜25kHz
■クロスオーバー周波数／2kHz
■アンプ出力／160W（４Ω）
■入力感度／２Vrms
■入力アッテネーター／0〜−30dB（連続可変）
■入力コネクター／XLR
■外形寸法／155（W）×290（H）×283（D）mm
■重量／5.15kg（１本）
