オペアンプ回路と真空管回路のバランスで音作りができる1chマイクプリ

SPLGain Station 1

SPLは、VitalizerやTransient Designerなど、スタジオでもよく見かける機材を作っているドイツのメーカーで、最近は真空管機器にも力を入れています。Gain Station 1は、SPLが最高のアナログ・クオリティを実現するために開発したプリアンプということで期待できそうです。

2種類のGAINツマミで
サウンドをコントロール


箱を開けて驚いたのは、意外と小さく感じたことです。フロント・パネルはCDジャケットよりも小さいくらいで、気軽に置ける大きさではないでしょうか。また、本機にはチューブ回路とオペアンプ回路の両方が付いていると資料に記されていたので、切り替えて使うと思っていたのですが、フロント・パネルにはCLEAN GAINとTUBE GAINというツマミがあり、CLEAN GAINにTUBE GAINで真空管サウンドを加えるという形で使用します(TUBEはOFFにできますが、CLEAN GAINはOFFにはできません)。2種類のサウンドを選べるだけではなく、バランスによって音質をコントロールできるというのは面白そうです。そのほかフロント・パネルには、MIC INPUTとHi-Z/LINE INPUTの切り替え、ハイパス・フィルター、フェーズ切り替え、48Vファンタム・スイッチ、そしてインピーダンス・セレクト・スイッチなどがあります。最近はインピーダンスを切り替えられる機種が増えてきていますが、マイク負荷を変更することにより、マイクの性能を変化させることができるので、リボン・マイクを使うときなどは効果的です。特に低域の感じが変わるのでエフェクト的に使うのも面白いかもしれません。さらに、本機はリミッターも装備しており、フロント・パネルでPeakとソフト・リミッター的効果を得られるFET回路を使用したFetという2タイプが選べます。おまけ的に付いているものかと思いきや、その効果はしっかりとしたもので、Peakで粒立ちをそろえられるのは便利ですし(コンプっぽさは出てしまいますが)、Fetを選ぶと本当にコンプ・サウンドを得ることもできます。このリミッターはOUTPUT LEVELの前に接続されているので、GAINとOUTPUT LEVELで質感などを調節できそうです。

素直で温かく存在感のある音
アナログならではの歪みも好印象


それでは、肝心の音をチェックしてみましょう。まずはボーカル。マイクはNEUMANN U87で、最初にCLEAN GAINのみを上げて聴いてみたところ、とても素直で温かい音がしました。SSLのコンソールのヘッド・アンプと聴き比べてみたのですが、SSLの方がタイトで、Gain Station 1の方がファットな印象でした。この状態にTUBE GAINを足してみると、なるほどという感じです。存在感が出て太くなりました。真空管マイクを使ったときにも似た質感が出てきます。さらに上げてみると、すごくエフェクティブな感じにもなります。各GAINツマミのバランスはいろいろと変えて試してみたのですが、個人的にはCLEAN GAINでレベルを取って、質感をTUBE GAINで足す形が一番好きな感じになりました。TUBE GAINを上げ過ぎると少し芯の無い感じになります。なお、最終段にはOUTPUT LEVELも付いているのでレベルは調整しやすくなっています。次はHi-Z/ライン・インプット端子にベースを直でつないで試してみました。印象はマイク入力と同様、クリアで抜けも良いです。やはりTUBE GAINで積極的に音作りできるのが良いですね。生ドラムも試してみたかったのですが、今回は機会が無かったので、ドラムのサンプルを入れてみました。しかも、無茶したらどうなるかと思い、CLEAN GAINを歪むくらいまで思いっ切り上げてさらにリミッターのFetタイプの方でつぶしてみると、思った通り良い感じに歪んでくれました。これはアナログならではの効果ですね。なお、今回チェックしたのはADコンバーター内蔵タイプのModel 2273ですが(ADコンバーター無しのModel 2272もラインナップ)、このモデルではデジタル出力(S/P DIF)も可能です。実際に、48kHzで試してみたのですが、癖の無いナチュラルな印象でした。なお、サンプリング・レートは44.1kHz〜96kHz、解像度も24ビットまで対応しています。さらに今回は試せなかったのですが、Model 2273ではAD IN 2という端子も利用でき、これを単体ADコンバーターの代わりに使うことも可能です。例えば、本機のアナログ・アウトをコンプやEQのインプットにつなぎ、そのアウトをAD IN 2につなぐといった使い方をすると便利なのではないでしょうか。Gain Station 1は、CLEAN GAINとTUBE GAINのバランスを変えることにより積極的な音作りができ、音色のバリエーションを広げられるマイクプリだと思います。また、デジタル環境だけでは得ることのできない量感で録ることが可能な重宝する1台ではないでしょうか。

▲リア・パネル(Model 2273)。上段に電源スイッチ類、その下にデジタル入出力端子やサンプリング・レートの切り替えスイッチ、さらにその下にはアナログ入出力端子類が並んでいる

SPL
Gain Station 1
Model 2272:189,000円
Model 2273(with A/D):214,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/1Hz〜125kHz(CLEAN GAIN:30dB、TUBE GAIN:1dB、OUTPUT LEVEL:0dB、±0.5dB)
■ノイズ/−96.4dBu(CLEAN GAIN:10dB、TUBE GAIN:Off、OUTPUT LEVEL:0dB、20〜22kHz、A-weighted)
■接続端子(Model 2273)/マイク・インプット(XLR)、AD IN 2(TRSフォーン)、HI-Z/ライン・インプット(TRSフォーン)、アナログ・アウト1(XLR)、アナログ・アウト2(TRSフォーン)、S/P DIFデジタル・アウト(オプティカル、コアキシャル)、SYNCアウト
■外形寸法/106(W)×122(H)×271(D)mm
■重量/2.65kg