低価格ながらFET回路によるビンテージ感が魅力のコンデンサー・マイク

M-AUDIOLuna

M-AUDIOは今やデジタル・オーディオ/MIDIソリューションの主要プロバイダーの1つ。トップ・バリューな製品開発と先進的なテクノロジーを提供するその開発力は、国際的な数々の賞を受賞しているほどです。同社はGROOVE TUBESと共同でマイクを開発していることでも有名ですが、その両社によるコンデンサー・マイクの最新機種がこのLunaです。その実力を早速チェックしましょう。

真空管をシミュレートした
FET回路による温かみあるサウンド


まず、外観からですが、スタジオでスタンダードであるNEUMANN U87とほぼ同サイズです。ただし形状は写真の通りとても個性的。ラージ・ダイアフラム収納の大型のグリルと、細身つや消しの黒いボディがとても印象的なデザインです。実際のダイアフラムは、一般的なラージ・サイズなのですが、あえて定番となっているU87型&U47型ではない、オリジナルなデザインを選択。最近のローコスト・コンデンサー・マイクのデザインは似たり寄ったりなものが多いだけに、個人的にはこの個性が気に入りました。単一指向性で、ローカットやパッド類のスイッチが一切無いシンプルな設計となっています。マイク本体以外に黒のショックマウントと、保存などにも適したアルミ製のハード・ケースが付属しています。Lunaの特徴の1つとしては、FET(Field-Effect Transistor/電界効果トランジスター)回路を搭載していることでしょうか。FET回路とは真空管のサウンドの良い部分をシミュレートするために開発され、真空管に代わるものとして採用された古い技術です。U47FETやU87なども同技術を使ったマイクとして有名ですね。ロープライスのマイクは安価なオペアンプを採用してローコスト化を図っているものが多いですが、オペアンプとFET回路の技術的な大きな違いは、トランジスター(オペアンプ)は電流を増幅するのに対し、FETは電圧を増幅し真空管のような動作をすることです。これは真空管が本来持つ温かみあるサウンドには欠かせない重要な技術的ポイントです。また、ダイアフラムは3ミクロンと通常の半分程度の厚さのものを採用。同価格帯のマイクの中ではなかなか採用できない設計ですが、GROOVE TUBESのGTシリーズなどからの技術移植によって可能になったことでしょう。

自然でフラットな中域と
情報量豊かな低域と高域


では実際にその音をチェックしてみましょう。比較マイクはU87(オールド・タイプ)で、プリアンプにNEVE 1073を使ってのチェックです。出力差は、Lunaの方が5〜6dB大きく、現在出回っているコンデンサー・マイクとほぼ同じ出力レベルでした。早速、男性の声、女性の声、そして女性ボーカルでチェック! 普通の声、張った声、ウィスパー(ささやき声)の3つの音量で違いを聴き比べました。張った声のチェック時には、2本のマイクの特性差は非常に少なく、特に中域のフラットな感じは、U87よりLunaの方が自然な感じさえしました。また高域の感じはクセも少なく自然な伸びがあり、U87よりも若干ハイエンドに広さがあるようです。ウィスパー・ボイスでのチェックでは、いろいろと違いが出てきました。大きな違いは、マイクの“吹き”がLunaで多くなってきたことです。これはローエンドの再生能力の違いもあるのでしょう。基本的にはマイク角度の調節やウィンドスクリーンなどで若干回避できるものの、本機は極オンセッティングには向いていないかもしれません。次にアコギとアコーディオンでのチェック。ボーカルよりも少し遠めのセッティングです。ここでは、LunaとU87のダイナミック・レンジの差がもう少し出てきました。低域の情報量はLunaの方が増し、高域では倍音の伸びが若干多くなったように感じました。その分、中域での表現力が若干落ちて聴こえることがありましたが、それは相対的な聴こえ方による差かもしれません。また、両マイクのレベル差もあるのですが、S/Nの違いが表れ、遠くの小さな音の再現力はLunaの方に軍配が上がりました(もっとも、U87は20年以上前の機材なので、経年変化も含めて新品のLunaと比較するのはちょっとかわいそうですけども)。以上、本機のチェックを通して感じたことは、感度の良さからか、楽器音以外の低域ノイズなども結構収音してしまうことです。Luna本体ではローカットはできないので、プリアンプやミキサー側でローカットしてあげる必要があるでしょう。全体を通じて、個性的なデザインながらサウンド能力も十分にあるマイクだと思いました。外部機材を使ってある程度のフォローは必要ですが、逆に初心者にはシンプルで分かりやすい設計です。また個体差が許容誤差±1dB以下に保持されているため、ステレオ・マッチングが必要な場合は本機を2本購入することで簡単に実現可能です。通常のように特性の近いマイクを探してペアリングする手間が要らないというわけです。なお、今回協力してくれたボーカリストやミュージシャンたちはこのLunaの風貌に最初はちょっと驚いていましたが、サウンドは評判が良く、価格を聞いてまたビックリしていましたよ!
M-AUDIO
Luna
オープン・プライス(市場予想価格/31,350円)

SPECIFICATIONS

■指向性/単一
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■感度/16mV/Pa(−36dBV)
■最大SPL/130dB(THD=0.5%)
■外形寸法/76(φ)×210(H)mm
■重量/630g