中高域のツヤ感と派手さが個性的な単一指向性コンデンサー・マイク

MASS-KOBOModel255

MASS-KOBOの製品というと、私はダイレクト・ボックスしか知らなかったので、このようなコンデンサー・マイクを製作していたというのはかなりの驚きでした。驚き半分、期待半分で早速、今回のリポートをお届けしましょう。

EQとコンプをかけたような
中高域に特徴のある音質


まずはスペック。ダイアフラムは1インチの金蒸着マイラー・ダイアフラムで、NEUMANN U87やAKG C414などとほぼ同等の大きさです。指向性の切り替えスイッチは無く、単一指向性のみです。同社いわく“電源、EQなどのスイッチ類を一切排除し回路を単純化するとともに高音質部品の採用によりピュアな音質に仕上げてます”ということで、それがよく分かるシンプルな構造です。周波数特性は20Hz〜16kHzで、数字だけを見るとやや高域に物足りなさを感じます。最大音圧レベルは144dB。U87よりも耐圧はあるようで、ブラスや打楽器の録音などにも期待できます。電源はファンタム電源(48V)のみになります。さて早速スタジオで使ってみましょう。無理を承知で価格帯の大きく異なるU87、C414と聴き比べてみましたが、第一印象としてはU87やC414が地味に聴こえてしまうくらいで、引けをとっている感じはしません。聴いているうちに分かってきましたが、このマイクはいわゆる“原音忠実、足さない引かない主義の音”ではないようです。それが良いか悪いかはまた別の問題ですが、ナチュラルな音という感じではなく、中高域のツヤ感や派手さが目立つ印象です。おそらく女性ボーカルがピアニッシモで息っぽく歌う楽曲などに向いているでしょう。また若干のコンプ感があるので、音楽の種類によって向き不向きがありそうです。同社のダイレクト・ボックスも確かこのような中高域のツヤ感のある音で、“なるほどMASS-KOBOの音だ”と感じました。同社によると、“U87の音にEQとコンプレッサーをかけたものがそのまま得られる”との感想が多いとのことですが、それはとても理解できます。確かに、素晴らしく原音忠実なサウンドで録音できたとしても、そのサウンドをそのままミックスするということはほとんど無いことを考えると、この味付けは正しいと言えるでしょう。試しにU87で録ったボーカルを若干のEQとコンプで味付けしたものと聴き比べてみましたが、同等とまではいかないとしても、オケの中で聴けばほとんど違いが分からないくらいに近いと思います。ということはU87と同じクオリティで使用が可能とも言えますが、この若干の味付けはオールラウンドに使えるというものではないので、それは使う人の好みや歌い手との相性にもよるでしょう。このマイクは単一指向性なのですが、割と指向性が広いため、ボーカルを録るときは部屋を選ぶように思います。しかし、それを考えて使用すれば逆にメリットにもなるはずです。またマイク自体がノイズや振動を拾いやすいようなので、若干の配慮が必要になるかもしれません。

オンマイクのスネア録音では
芯のあるロックなサウンドを実現


次にアコースティック・ギターを試してみました。これはほぼボーカルと同じ印象ですが、楽器音自体にアタックがある分、マイクが持つコンプ感がボーカルよりもサウンドに独特のキャラクターを与えてしまうかもしれません。ピアニッシモのアルペジオ演奏時の細かな指のニュアンスを拾うことなどはあまり得意ではなさそうです。逆に、ストロークなどでは、無造作にマイキングをしてもガッツのあるサウンドが得られるようです。歪み系のギターに関しては良い結果は得られませんでした。持続する大音量ではローエンドが物足りなく感じてしまい、全体的にヌケも悪く音も前に来ない印象でした。おそらく指向性が広いので、回り込みに対する位相差が出ているのでしょう。今回は試せなかったのですが、オフ気味のマイキングの方が得意とするのではないでしょうか。ピアノも録ってみましたが、若干のレンジの狭さを感じてしまいました。おそらくこれも、オケの中に入れば、よほどピアノ中心の曲でなければ気にならない範囲だと思います。オンマイクのスネア録音に関しては、自分がいつも愛用しているコンデンサー・マイクと同等かそれ以上に素晴らしく良い結果で驚きました。EQしてもコンプをかけても、かなり芯のあるロックなサウンドになります。もともとの明るいコンプ感のあるサウンドの良さが、ここでは素晴らしくポジティブに表現されていると言い切れます。スネアに良い結果を出せるコンデンサー・マイクは少ないので期待できます。今回はペアでの使用はできなかったので、ぜひ機会があればオーバーヘッドにも使ってみたいと思いました。総評としては、使い方を間違えなければ素晴らしく良い結果を出せるマイクだと思います。私の持論ですが、マイクと雨傘だけはいくら技術が進歩しても依然として50年前で進歩は終わっていると思うのです。やはり真空管のビンテージ・マイクやリボン・マイクに勝るマイクは出てこないのが現状です。そんな中で大事なのは、サウンドを含むさまざまな個性と、その個性的なマイクをどれだけうまく使うか、ということだと思うのです。その意味で、オンマイクでスネアを録るという概念は50年前には無かったことで、その音が良いというのは素晴らしい個性だと言えるでしょう。
MASS-KOBO
Model255
85,000円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一
■周波数特性/20Hz〜16kHz
■感度/−61dB(±3dB@1kHz)
■ダイナミック・レンジ/144dB
■出力インピーダンス/250Ω
■外形寸法/53(φ)×148(H)mm
■重量/280g
■付属品/専用マイク・ホルダー(SHUREタイプねじ)、スタンド変換ねじ(AKGタイプねじ→SHUREタイプねじ)、専用プラスチック・ケース