オールド真空管を採用するなどこだわりある仕様のコンデンサー・マイク

MARSHALL ELECTRONICSMXL-V69

最近は低価格コンデンサー・マイクの発売ラッシュとなっており、皆さんも選択肢の多さに悩んでいることでしょう。今回、ハイコスト・パフォーマンスで定評のある真空管マイクMXL-V77を作り出したメーカーMARSHALL ELECTRONICSから、同じ低価格帯の真空管マイクMXL-V69が発売され、チェックする機会を得ました。このマイクは“他社と同じようなものを作っても仕方ない”という考えのもと基本設計を5回もやり直したというこだわりの製品らしいです。真空管マイクであることもあり、早速期待しながら音を聴いてみることにしましょう。

低価格ながら高い基本仕様を誇り
パッケージや高級感のある外見も魅力


初めに、このマイクの市場予想価格が4万円くらいということを頭に入れておいてください。まず箱を開けてみると何とハード・ケースに入っています。本体のほかに付属品としてXLRケーブルやショックマウント、ウインド・スクリーンもあります。ショックマウントは低価格のものでよく見かけるプラスチック製の製品ではなく金属製です。さらに、このマイクはチューブ・タイプなので、別に電源ユニットが用意されています。ケースを開けたときの印象としては“この値段でよくここまでできたな〜”というものでした。次にポーチに入っているマイク本体を取り出してみると、ダイアフラム部分は金色でボディは黒です。オールドっぽい高級感のある見た目にまず納得しました。経験上、見た目も意外と大事だと思いますから、まずは合格でしょう。では、このマイクの特徴を挙げてみましょう。
●真空管は5718サブミニアチュア管を使用
●ヒーター回路にスターターを搭載したチューブに優しい設計(このクラスでは初)
●プレート電源スタビライザー搭載により、いかなる電源事情でも最大の性能を発揮
●内部ワイアリングにMOGAMI製パーツを使用仕様的には数倍以上もする価格帯のマイクと同等と言えるようです。しかし、これらの仕様が音に本当に反映されているのか? 実際に聴いてチェックしてみたいと思います。

うまく調整された低域のレスポンス
高域に伸びがあり自然で扱いやすい音


最初に残念なところが1つ。ショックマウントにマイクを装着する際、取り付けにちょっと力を要すること。使用を重ねると緩くなってくるとは思いますが、女性には最初大変なのではないでしょうか。真空管マイク特有のヒート・アップ作業についてですが、約10〜15分ほどで安定した音質が得られるようになりました。実際に音を出してみて驚いたのが、低域ノイズが少ないということです。本体を手で持つ人はまず居ないと思いますが(笑)、コンデンサー・マイクはちょっと何かにぶつけたりしただけでも“ボンボン”というウーファーが飛び出しそうな低音ノイズが発生するほど高感度です。その点、このマイクは低音ノイズが非常に少なくなっています。初め“低音が無いのか?”と心配になってしまいましたが、実際に声でチェックしてみると低域が少な過ぎるという印象は特にありませんでした。また、本製品にはローカット・スイッチは装備されていないのですが、既にハイパス・フィルターがかかっているようなサウンドなので、床からの低域ノイズや吹かれノイズが気になりにくいと思います。これは宅録環境などではうれしいところで、ハイパス・フィルターの装備されていないミキサーで使用するときにも便利でしょう。また、“ハイパス・フィルターがかかっている感じ”と言っても、変にローカットしている感じではなく音楽的なものなので、コンデンサー・マイクの欠点でもある低域レスポンスがうまく調整されているのだと思います。実際、吹き気味に声を出してみても極端に気になることはありませんでした。試しに宅録環境では低域の扱いが難しいアコギの録音をしてみました。その結果、いつも気になっているような低域感が少なくタイトな音で拾うことができました。ただ、低域がタイトな分、人によっては“膨らみが少ない”と感じるかもしれません。高域は最近のコンデンサー・マイクに多いキンキンとした硬い音の感じは無く、扱いやすい音色であると言えます。特性的には中域から高域にかけてなだらかに上がっており、コンデンサー・マイクらしい高域レスポンスを味わうことができます。また、10kHz以上の超高域も上がっており、NEVEのEQなどでよく形容される“シルキィな音質”を多少このマイクに感じました。パッと聴いた感じでは極端な音作りされていない、どちらかと言えばナチュラルな印象のサウンドです。これは録り音を細かくいじれない宅録環境では非常に扱いやすい音と言えるでしょう。特に低域のレスポンスでは、使い方次第で価格が何倍以上もするマイクが負けてしまうほどの音でレコーディングが可能でした。今回のチェックでは、男性/女性ボーカル、アコギなどで試してみましたが、オフマイク気味のセッティングよりオンマイク気味のセッティングの方がこのマイクの良さが引き出せると思います。ですのでボーカルなどでは恐れずどんどんマイクに近付いてみましょう。低域がタイトな分、近付いた方がよりチューブっぽい印象の音が録音できると思います。ただしその際にはポップ・スクリーンは使うように。唾によってマイクのダイアフラムがダメになってしまいますからね。本製品は、最近よく見かける“低価格チューブ・マイク”とはコストや音の面でも一味違った製品だと言えます。店頭でデモを行っているところもあるみたいなので、ぜひその音を確かめてみてください。4万円前後という“チューブ・マイクでは底値ではないか?”と思われるこの値段もうれしい限りです。宅録でマイクの録り音に納得いかずEQ等で音を作っている人は、1度このマイクを試してみるとよいでしょう。
MARSHALL ELECTRONICS
MXL-V69
オープン・プライス(市場予想価格40,000円前後)

SPECIFICATIONS

■指向性/単一
■動作タイプ/プレッシャー・グラデュエント
■最大SPL/140dB(THD 0.5%)
■感度/38mv/Pa
■インピーダンス/200Ω
■外形寸法/φ55×240(H)mm
■重量/500g