ハイコスト・パフォーマンスな1Uタイプの8chマイク・プリアンプ

ARX8-Pre

8-Preは、その名の通り、8チャンネルのマイク・プリアンプを1Uサイズにまとめた製品だ。ARXは初めて聞くメーカー名なので、ざっと略歴を調べると、1983年にオーストラリアで創設、最初の製品はスピーカー・システムだったようだ。その後は、6チャンネルのノイズ・ゲート、4チャンネルのコンプ/リミッター、グラフィックEQ、設備用のパワー・アンプなどを作っている。興味のある人はWebページ(www.arx.com.au)をのぞいてみるといいだろう。

1Uサイズにシンプルに収められた
8チャンネル分のマイクプリ機能


8-Preの外観は大変シンプルだ。フロント・パネルでは、各チャンネル用に
●ゲイン・コントロール(10dB〜60dB)
●20dBのパッド(使用時にLED点灯)
●クリップを示すLED
●位相反転スイッチ(これも使用時にLED点灯)
がある。また、48Vのファンタムは1〜4チャンネルと5〜8チャンネルの2つのグループで送られ(パネルの左右にスイッチ有り)、これも使用時にはLEDが点く。電源はケーブルを接続すると自動的に入る形式で、パネル右端に緑のLEDがある。なお、各チャンネルの下にはスペースがあり、使用マイクなどを書き込めるようになっている。リア・パネル側では、左端に3ピンのACコネクターと、ヒューズのホルダー(上下反転で100〜120Vと220〜240Vを切り替えられる)がある。残りは、各チャンネル用のインプット/アウトプットのコネクターだ。インプットはバランス型のXLRコネクター、アウトプットはTRSフォーン(バランス型)と標準フォーン(アンバランス型)の両方が使える。このアウトプットは、省スペースと高音質を併存させるための工夫だ。

“素直でそのまま”な印象の
癖の無い音色


実際に手持ちのマイク数本とマイクプリ幾つかを使い、8-Preの使用感と音質を試してみた。本機のアウトプットは直接コンピューターのサウンド・ボードのアナログ入力に接続し、レベル調整は8-Pre側で行っている。まず数本のコンデンサー・マイクでボーカル、アコースティック・ギターなどを録音してみる。幾つかのマイクプリに比べると、8-Preの音色は“素直でそのまま”という印象だ。低音から高音まで癖の無い音色で、SN比も非常に良く、個々のマイクの違いもはっきりと表れる。真空管式のマイクプリのように音を膨らませたり、エンハンサー、EQ、コンプ/リミッター付きのマイクプリで音色をコントロールしたりといったことは一切できないが、逆に音がストレートで飾りが無く、しっかりと過不足なく録音できるところが8-Preのメリットだろう。また、他のチャンネルへの音漏れも無い。ゲイン・コントロールのツマミは小さいが、トルク(回転するときの抵抗)が軽いので、ゲインを合わせるのはやさしい。この形状だと、いったん位置を決めれば、その後ツマミが動きにくいのが利点だ。次に、ダイナミック・マイクで幾つかの楽器を同様に録音してみた。使用したのはSHUREのSM57で、こちらは音色がぴったりフィットし、太い音で録音できた。ゲイン・コントロールも30dBくらいまで上がってくるのだが、ノイズが少ないのが印象的だった。さらに、FISHMANのピエゾ・ピックアップを付けたバイオリンとギターも試してみた(ただしインプット時に標準→XLRの変換が必要)。これも全く問題の無い音色で、ピックアップで拾ったままの音を適正レベルに増幅することができる。バイオリンの方はこの後でEQ処理すれば、生録音にかなり近いニュアンスになる。余談だが、ピエゾのピックアップはここ数年でずいぶん優秀になったので、例えば弾き語りの一発録音でギターだけ後で修正するときや、ライブでドラム入りのバンドと小規模のストリングスが共演する場合に役に立つ。なお、−20dBのパッドを併用すれば、本機はライン楽器やエレキギター、エレキベース用のプリアンプとしても使用可能だ。特に、エレキギターのダイレクト録音はアンプやアンプ・シミュレーターとかなり異なる音色で、しばしば面白い効果を生むので、試してみるのも良いだろう。

宅録からライブ録音にまで対応可能で
コスト・パフォーマンスは高い


8-Preの実際の用途としては、①マルチチャンネルのコンピューターのサウンド・ボード用のマイクプリとして ②マイク・インプットの少ないデジタル/アナログ・ミキサーや一体型HDR用のマイクプリとしての2つがまず考えられる。①の場合、各チャンネルの接続を決めておき(1〜4は各種コンデンサー・マイク、5〜8は楽器類など)、あらかじめレベルを合わせておけば、コンピューター側でインプットのチャンネルを選択すればすぐに録音を始められる。②の場合も明解で、マイクを多く使うライブやバンドの生録音で8-Preは大きな力を発揮するだろう。例えば、ライン入力しかないALESIS ADATやプリアンプ部分が非力なハード・ディスク・レコーダーなどでも、本機さえあれば8本のマイクを使った高品質な録音がすぐできる、というわけである。8-Preはサイズも小さく重さも2.2kgと軽いので、省スペースにもなるし、外に持ち出すのも気楽である。同時に多くのマイクを使ったり、多くのトラックの同時録音をするといった人は、低価格/高性能の本機の購入を検討してみてはどうだろうか? コスト・パフォーマンスは確実に高い。

▲8チャンネル分のインプット(XLR)、アウトプット(フォーン)が整然と並ぶリア部

ARX
8-Pre
55,000円

SPECIFICATIONS

■インプット・ゲイン/10dB〜60dB
■PAD/−20dB
■入力インピーダンス/4kΩ
■入力ヘッド・ルーム/+23dB
■出力インピーダンス/300Ω
■最大出力レベル/+23dB
■周波数特性/20Hz〜20kHz±0.2dB
■SN比/−93dB(unweighted)、−99dB(A weighted)@20dB
■全高調波歪率/0.004%、20Hz〜10kHz
■ダイナミック・レンジ/116dB
■外形寸法/482(W)×44(H)×155(D)mm
■重量/2.2kg