新技術満載のスタジオ仕様ニア・フィールド・モニター

FOSTEXNF-1

マルチトラック・レコーダーに根強いファンが多いFOSTEXだが、実は25年以上の歴史を持つスピーカー・ユニット・メーカーでもあることを皆さんはご存じだろうか。特に有名なのはFE103という10cmのフル・レンジ・モデルで、確か筆者が高校生だったころの「スピーカー自作ブーム」でもFOSTEXのユニットが入門機的な人気を持つ存在だった気がする。もちろん現在でもプロ用の巨大なシステムから水中スピーカーまでスピーカー・ユニットのラインナップはかなり豊富で、今回チェックするようなスタジオ・モニターがこれまで登場しなかったことの方が不思議に思えるほどのしにせブランドなのだ(http://www.fostex.co.jpを見てみよう)。そんな実績も踏まえた上でこのNF-1をレポートしてみよう。

HPダイアフラムなど
新開発の技術が満載


NF-1は純粋な2ウェイ・バスレフ型スピーカーで、パワー・アンプは内蔵していない。ウーファーが16cmに重さが9.1kg。YAMAHAのNS-10Mにかなり近い大きさだ。最近は曲作り用にさらに小型のパワード・タイプも人気があるようだが、録音時のメイン・スピーカーとしては、やはりこのくらいのサイズを欲しがる人が多いだろう。まず目を引くのが象徴的なウーファーのデザインだ。HP構造と呼ばれるこのダイアフラムの形状は、十分な強度を確保して素材固有の共振を分散させることで、「音の立ち上がりの速さ」「ピークやディップの少ない周波数特性」などを目指したものだ。その周りのUDRタンジェンシャル・エッジと呼ばれる部分も共振を分散し、ボイス・コイルの当たりを回避するためのデザインだ。さらにエンクロージャー内部にもHP構造をしたリフレクターが背面と底面に計2つ取り付けられており、通常のグラスウール等はほとんど詰められていないのにも驚く。「あちこちに自社新開発の技術を満載」という実に革命的な内容となっている。


またウーファー側にはネットワークが無く、ツィーターもコンデンサーのみ。クロスオーバー周波数は10kHzとかなり高めに設定されている。つまりウーファーがフル・レンジに近い扱いであり、その低域を補うバスレフ・ポートがツィーターの左右に配されているという構成。もちろん防磁設計も施され、ディスプレイなどへの近接設置も可能だ。しにせでありながらこれだけの冒険ができるというのは素晴らしいことだと思う。


はっきりした粒立ちの高域と
スピード感あるしまった低域


試聴すると、明るくて抜けが良く気持ちいいサウンドが聴けた。ツィーターのシャープに伸びた高域が特に印象的。それを支える低域の方は、バスレフらしい豊かさを持ちながらも、かなりのスピードを感じる味付けで、アップ・テンポのリズムでも、音がぐっと前に出てとても反応がいい。小口径、HP構造、リフレクターなどの相乗効果がとても素直な低域を作り出しているようだ。「フル・レンジ的な素直さを持ちながらも十分な低域を確保」とでも言えばいいだろうか。ただし今回試聴したモノは最終的な製品版ではなく試聴用サンプルだったので、若干低域の出方が違う可能性があり、ツィーターの方が少し目立ち気味だったようだ。もちろんリスニング時の耳の高さで「中域」対「高低域」の割合がだいぶ変わるので、もっと中域を聴きたければ、少し高めにスピーカーをセットすればいいだろう。逆に言えば小音量時でも、少し上方向から聴いた時の定位感は抜群なので、ヘッドフォンを使わなくても細かいパンニングが可能なぐらい音の粒立ちがいい。


メーカーによると「スタジオでの音作りに向けて、かなりフラットめにチューニングしてある」とのことだが、なかなか音楽的にも楽しめる音質だ。よくありがちな、わざとらしくて人工的な低域のスピーカーに飽きている人には、本機のスピード感は作曲などにおいてもかなり魅力的だと思う。また高低各スピーカーの接続端子が別に配置されているので、2台のアンプでツィーターとウーファーを別々に駆動するバイアンプ方式も選択可能だ。これでちょっとだけツィーターを控えめにしたセッティングにするのもいいと思った。このように細かい調整が可能な設計は、プロ・スタジオ用として実にうれしいポイントである。


モニター環境が音作りに与える影響には、かなりの個人差があると思う。モニターの音色に影響されやすいタイプの人(筆者もその1人)は、自分に合ったモニター・システムを見付けるまで、苦労も多いだろう。また理想のモニターは、個人差だけでなく作業内容でも違ってくる。作曲やアレンジのためには、「小さい音でも満足できる音質」「好きなCDや普段使っているシンセ音源などが、出音のままでもある程度良く聴こえる」といったモニターの方が作業がしやすい。


一方、実際の録音時の音作りの段階では、逆に「自分の音源の欠点を見逃さないこと」「リバーブ感が適切であること」といったチェック能力の方が問われることになる。特に後者は長い時間をかけて使い込んでみなければ判断できないファクターだ。さらに単体スピーカーは、ドライブするパワー・アンプを変えるだけでも出音がかなり違ってくる。いい音が出過ぎるパワー・アンプと組み合わせても、ミックスでのいい結果は得にくいだろう。


そういったことを踏まえ、もし現在使っているモニター・システムで、あまりいい結果が得られていなければ、幾つか他のモニターも試してみるのがいいかもしれない。そして、その選択肢の1つに、このNF-1も入れてみてほしい。


FOSTEX
NF-1
59,800円(1本)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/50Hz〜40kHz
■エンクロージャー方式/バスレフ方式
■内蔵ユニット/16cmウーファー、ドーム・ツィーター
■クロスオーバー周波数/10kHz
■インピーダンス/8Ω
■音圧レベル/89dB/W(1m)
■入力プログラム/120W
■外形寸法/240(W)×240(H)×274(D)mm
■重量/9.1kg