デジタル入出力を備えた高音質のチューブ・コンプレッサー

MINDPRINTT-Comp

デジタル技術の発達により、自宅録音でもスタジオ録音に劣らないサウンドが作れるようになりました。しかし、テープやハード・ディスクに録音する手前では、必ずと言ってよいほどヘッド・アンプやコンプレッサーなどのアナログ機器が使用され、これらがまだまだ主流になっています。特にコンプレッサーは、録音時とミックス時におけるサウンド・メイキングの要でもあり、常に複数台必要となるアウトボードだと思います。今回はそのコンプレッサーの新機種をチェックしたいと思います。真空管内蔵の2chタイプで、130,000円というコスト・パフォーマンスに優れた価格も魅力的なMINDPRINTのT-Compです。早速、試してみたいと思います。

音質へのこだわりが生んだ機能と
シンプルな操作性


T-Compは2chのコンプレッサーで、真空管を使用し、4kHzから22kHzを2dBまでブーストできるようになっています。フロント・パネルは左から、アナログとデジタルの入力切り替えスイッチ、INPUT、OUTPUT、TUBE SAT、THRESHOLD、RATIO、ATTACKRELEASE、ADAPTIVEスイッチ、LINKスイッチとなっています。ADAPTIVEスイッチとはあまり聞き慣れないですが、これは簡単に言うとセミオート・モードで、つまみで設定したアタックとリリースを基本にして、コンプレッションを効かせるモードです。レベルにばらつきのある音源やフェード・イン/アウトしている音源に対しての補正に向いている機能です。さらにFILTERスイッチがあり、300Hz以下の音はコンプレッションさせないことも可能になっています。入出力ツマミは、クリック式では無いという点と、インプット/アウトプット・メーターのLEDが短いため、ステレオものを扱うときに、左右のレベルを合わせるのに多少の不自由さを感じました。それに、アウトの音量とサチュレーションは、コンプをONにしなくては使えないので、この辺は独立して装備してほしいところです。リア・パネルにはオプションのAD/DAコンバーターを内蔵するためのスロットと、ステレオ標準ジャックを使用するインサート端子があります。インサートはコンプの前に入るようになっています。デジタル・ミキサーのトータル・コンプとして使う場合でも、自分の好きなアナログのEQなども使えるので、使い勝手は良いでしょう。ただ、デモ機にはAD/DAが内蔵されていなかったため、デジタル接続したときの音をチェックできなかったのが残念でした。ステレオ・リンクはスレッショルド/レシオ/アタック/リリースがリンクするようになってます。シンプルな作りですが、TUBE SATやFILTERなど、とても音へのこだわりが見え、右側の窓から真空管が見えるデザイン、簡単な操作性などもとても好感が持てます。

オールラウンドに使える
癖の無い自然なサウンド


それでは音をチェックしてみましょう。今回はドラムやアコースティック・ギター、ピアノ、ボーカルなどの生音源とシンセ音源を入力してみました。印象的だったのは、生音源を通したときでした。特にアコギの場合、多少強めに設定してもFILTERスイッチを押すことで、ギターの箱鳴りを保ったまま、ピークを削ることができました。キックを入力したときは、かなりハードな設定にしても演奏時のニュアンスはしっかり残されていて自然な感じでした。個人的にはキックやスネア単体に使うよりも、ドラムの2ミックスにハードな設定でリダクションさせたときがとても良かったと思いました。レシオは3:1くらい、アタックとリリースは早めにし、7dBほどリダクションさせたのですが、ハットやシンバルなどの金物系の高音域がきれいに伸びて、とても良好な結果を得ることができました。 さらにFILTERスイッチを押すと、低音域が出てくるのでスネアが抜けても全体のニュアンスや音質が変わらず自然さは保たれたままなのです。実は今回のチェックは、あるミックスと重なったので、その最中に行なったのですが、結果的に全曲でドラムに使ってしまうくらい、大変気に入ったサウンドが得られたのです。ピアノやボーカルなどの生楽器も、演奏時の細かいニュアンスや、録り音がほとんど変わること無く自然な音を得られました。シンセに関しては可もなく不可もなくといった印象です。録り音にある程度コンプが効いているサウンドも同じような印象を受けたので、録音時やレベル補整など、質感を変えたくないときに使うと良いと思います。それと、マスター・アウトにインサートしてみたのですが、これも決して音やせすることはありませんでした。特に、歪み系の音楽に若干ハードな設定で通したら高音域が伸びて、音も太く、とても気持ち良いコンプ・サウンドが得られました。スタジオ機材で代表される、UREI 1176、1178、NEVE 33609、DBXなどの癖の強いコンプレッサーと比較すると、T-Compの音色は癖が無いような印象も若干ありますが、癖が少ない分オールラウンドに使える機種だと思います。特に生楽器がメインの曲には、かなり効果的に使えるのではないでしょうか。ただ、長時間使用していると真空管の上の辺りがとても熱を持ってしまい、それは気になりました。本機は1Uサイズですが、ラックにマウントするときは上のスペースを開けた方が良いでしょう。このコンプレッサーは、プロはもちろん、アマチュアにも十二分にお薦めできる機種だと思います。マスター・コンプにも使えるので特にアマチュアの方にもお薦めできます。オプションのAD/DAコンバーターのチェックができなかったのは残念でしたが、デジタル・ミキサーからDATなどに2ミックスを録音している方は、AD/DAコンバーターを増設して、間に挟むと真空管の温かさを付加することができると思います。とにかく、使っていてとても欲しくなってしまったほど、私は本機を気に入ってしまったのです。
MINDPRINT
T-Comp
130,000円

SPECIFICATIONS

■コンプレッション/コントロール・レンジ(1:1)、アタック/リリース(スロー/ファースト)、アタック・タイム(0.1msec〜150msec)、リリース・タイム(5msec〜2sec)
■スレッショルド/+2dB〜−28dB
■真空管ゲイン/0〜2dB(4kHz〜22kHz)
■インピーダンス/22kΩ(入力)、220kΩ(出力)
■デジタル入出力/S/P DIF(24ビット、44.1kHz/48kHz)
■外形寸法/482(W)×44(H)×238(D)mm
■重量/3.45kg