ZOOM F8N Pro レビュー:最高32ビット・フロート録音に対応した8chフィールド・レコーダー

ZOOM F8N Pro レビュー:最高32ビット・フロート録音に対応した8chフィールド・レコーダー

 ZOOMからF8Nの後継となるF8N Proがリリースされました。48Vファンタム電源内蔵の8chマイクプリが搭載されたポータブル・レコーダーです。F8の登場から7年近くが経過していますが、高性能で価格も手ごろなため多くのユーザーを獲得してきた人気シリーズの最新モデル。今回はどのように進化を遂げたのかチェックしていきたいと思います。

複数台のレコーダーの同期セットアップや2枚のSDカードでバックアップ録音も

 インプットにはXLR/フォーン・コンボ×8系統を備え、マイク・レベルとライン・レベル(+4dB)を選択できます。アウトプットはメインがミニXLR×2系統、サブがステレオ・ミニ、それとヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)があり、メニューでルーティングを個別に設定できます。ドラマの収録時には、カメラへ送るメイン回線のほかにブーム・オペレーターにコミュニケーション用のトークバックをサブアウトからワイアレスで送るなどの工夫もできます。

 ハイパス・フィルターやチャンネルごとに独立したリミッター、逆相コンバーター、入力信号を少し遅らせるインプット・ディレイ、6秒前にさかのぼって録音できるプリレコード機能も備えています。アンビソニック・マイクに対応したモードもあり、A-FormatやFuMa、ambiXなど制作フォーマットに合わせて選択可能です。

 タイムコード入出力を備えているため、カメラや複数台のオーディオ機器との同期も可能です。音楽のマルチトラック録音でも複数台のレコーダーの同期運用ができます。これは以前のモデルでも可能なため、筆者はあまり大規模なセットアップが組めない音楽録音現場でF8×2台とF8N、F6を活用することも多いです。

 記録メディアはSD/SDHC/SDXCカードに対応し、2スロットを備えているため1枚目はマルチ・モノ+L/R、2枚目にはインターリーブで記録するなど、作業内容に合わせた個別の設定ができ、片側でエラーが発生しても2枚目がバックアップとして機能します。

リアと左側面のパネル。記録メディアとして2枚のSDカードを使用可能(写真右側のスロット)。バックアップも容易に残せる。写真左側には別売りのマイク・カプセルを取り付けることができるマイク・イン端子、タイムコードの入出力端子、付属ACアダプター接続端子、バッテリー・スロットがある

リアと左側面のパネル。記録メディアとして2枚のSDカードを使用可能(写真右側のスロット)。バックアップも容易に残せる。写真左側には別売りのマイク・カプセルを取り付けることができるマイク・イン端子、タイムコードの入出力端子、付属ACアダプター接続端子、バッテリー・スロットがある

 電源は単三電池×8本と外部DC電源入力(9〜18V)にも対応しています。筆者はムービー・カメラによく使われているVマウントのバッテリーを使うため、バッテリー1本だけで丸1日運用可能です。スタジオなど電源の取れる場所では付属のACアダプターも使えます。

デュアルADコンバーターを搭載し余計なレベル調整から解放

 F8Nと同様、別売りのミキサー型コントローラーF-Controlでもオペレーションができるようになっています。F8N Proはミキサーの機能も有していて、筆者はドキュメンタリーなどの機動力を要する収録現場で、ポータブルなミキサー・バッグにF8NとF-Controlを収めて運用しています。コンパクトに収まるので、大きさや重量の面でもストレスが無く快適。入力ゲインとフェーダーを同時に操作できるので、常に適正なレベル管理が可能であるという点でありがたいオプションとなっています。クリップを未然に防ぐAdvancedリミッター、多数のマイク使用時に便利なオート・ミックスも搭載しており、出演者が多数の場合には強力なツールとなるでしょう。

 F8N Proの売りは、32ビット・フロートで記録ができるようになったことです。デュアルADコンバーター搭載により、低いゲインの信号と大きいゲインの信号を個別にデジタル変換できるようになりました。USB経由でパソコンと接続して8イン/4アウトのオーディオ・インターフェースとして使用する場合も、32ビット・フロートでDAWとSDカードに同時記録できるようになっています。このモードではフィールド録音やドラマ、バラエティ番組の収録時に突発的な大入力が飛び込んできてもひずむ心配がありません。

 32ビット・フロート録音は同社のF6で既に実現していて、筆者も所有しています。記録された信号の音量は低レベルなのですが、DAWに取り込んでからクリップ・ゲインを24dB程度アップしたとしても階調の滑らかさは失われていません。映画やドラマ、ドキュメンタリー番組での収録時にAmbisonicsマイクを使って背景音を録音しておくと、作品の臨場感の形成に役立ちますし、32ビット・フロート録音ではワン・シーンの収録が終わるまで放っておけるので、無人での運用も可能です。F8N Proもそのような使い方ができ、さらにAPPLE iPhoneなどのアプリを用いて録音/停止などの操作をしながら入力レベルやバッテリー残量のチェックもできます。

 F6よりも良くなったと感じる点は、32ビット・フロート・モードでも入力ゲインを適正値に調整しながら記録できる点です。これにより、現場である程度レベルを整えておくことでDAWに取り込んでからも微調整で済み、余計なレベル調整から解放されます。また、突発的な大音量が飛び込んでクリッピングが発生したとしても音がひずまないという32ビット・フロート特有の恩恵も受けられるのです。表現力豊かな俳優が出演するドラマなどの収録では声のダイナミック・レンジが広く、レベル管理には本当に苦労しますが、そのストレスから解放されるという点では大変ありがたいと感じます。

 F8NからF8N Proへの進化は一見わずかなように感じられますが、さまざまなシチュエーションに対処しなければならない収録現場のエンジニアからすると、音質面での信頼性において大きな恩恵を受けることになったと言えるでしょう。コンパクトでありながらスタジオの機器に匹敵するほどの本格的な収録システムです。今後もさまざまな収録現場で活躍が期待されます。

 

土方裕雄
【Profile】1980年代から世界中で自然環境のレコーディングに携わり、TV番組やCM、展示映像、企業PR作品などの音声業務を行う。全6作のヒーリング音源“自然音シリーズ”もリリースしている。

 

ZOOM F8N Pro

オープン・プライス

(市場予想価格:148,500円前後)

ZOOM F8N Pro

SPECIFICATIONS
▪記録媒体:SDHC規格対応カード(4~32GB)、SDXC規格対応カード(64GB~1TB) ▪録音フォーマット:WAV(44.1/47.952/48/48.048/88.2/96/192kHz、16/24/32ビット・フロート、モノラル/ステレオ/2〜10chポリ、BWFおよびiXMLフォーマット対応)、MP3(128/192/320kbps、44.1/48kHz、ID3v1タグ対応) ▪同時録音トラック数:10tr(WAV、8tr+L/R)、8tr(WAV、192kHz選択時)、2tr(MP3、L/R) ▪オーディオI/O機能:最高32ビット・フロート/96kHz、8イン/4アウト ▪電源:単三電池×8本、付属ACアダプター、外部DC電源(9〜18V) ▪入出力端子:XLR/フォーン・コンボ×8系統、メイン・アウト(ミニXLR×2系統)、サブアウト(ステレオ・ミニ)、ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン) ▪外形寸法:178.2(W)×54.3(H)×140.3mm(D) ▪重量:1.2kg

製品情報