YAMAHA DM7 レビュー:あらゆる環境に対応するように開発されたデジタル・ミキシング・コンソール

YAMAHA DM7 レビュー:あらゆる環境に対応するように開発されたデジタル・ミキシング・コンソール

 YAMAHAが満を持して、デジタル・ミキサーの新たな分岐点になるであろう、DM7を発表しました。既に発売されているDM3は、今や当たり前になった配信や小規模の現場において、“ド”ストレート!のミキサーで、ネットで情報が発表されるや否や各所からどよめきが聞こえてくるほど騒ぎが広がり、発売された途端、どこも引く手数多になりました。その強烈な流れに乗り、シリーズのフラッグシップ機として発表されたのがDM7です。今回は、恐らく筆者を含め皆さんが歓喜の声を上げ、今か今かと発売を待ち続けている本機のご紹介になります(プロトタイプのレビューになりますので、ここに書かれていることがすべてではありません)。

サンプリング・レートは96kHzまで対応 物理コントローラーDM7 Controlも用意

 まずは、YAMAHAが今まで開発してきたミキサーについて触れておきましょう。著者は圧倒的にCLシリーズ(以下CL)を触る機会が多く、自分でミキサーをリクエストする際にもCLを選ぶほど気に入っています。そして最近では外部のクロックを併用したり、カスタマイズしたりすることも増え、CLをさらに良いサウンドで使用できないかと、探究心を持って使っています。こういった方は著者を含め、CLまたはQLシリーズ(以下QL)のユーザーには少なくないのではないでしょうか? では、なぜそこまでしてCLやQLを使用するのかと言えば、“機材の信頼性”そして、“誰でもすぐに触れる直感的な操作性”の2点に尽きます。

 CLは全世界のプロ・サウンドの中枢を担いながら爆発的に売れ続け、QL、TFシリーズ(以下TF)が後に続き、そしてRivage PMシリーズ(以下Rivage PM)が、あのはやり病の前にリリースされました。その後はさまざまな情勢が悪化し、それに追い討ちをかけるように半導体不足に陥るなど、皆さんと同様、思うようにいかなかったのは事実です。しかし、そんな中でもYAMAHAはPA用デジタル・ミキサーを進化させ続けており、2023年の4月にはDM3が、そしてこのたびはDM7が発表となりました。

 実はDM3とDM7は、似て非なるものなのです。製品名は同じ“DM”ですが、分かりやすく言えば出世魚みたいな感じで、両者のできることは段違いに変化しています。特に異なる点として、DM7シリーズには、DM7、DM7 Compactの二つのラインナップに加え、オプションとして物理コントローラー、DM7 Controlが用意されています。

DM7、DM7 Compactの拡張オプションとして用意されているDM7 Control(オープン・プライス)。

DM7、DM7 Compactの拡張オプションとして用意されているDM7 Control(オープン・プライス)。

 拡張フェーダーにするもよし、DM7やDM7 Compactは調整室に、DM7 Controlはコントローラーとしてステージ袖に置いておくもよしです。もちろん従来のミキサーのように専用のリモート・コントロール・アプリも用意されていますが、誰しも“会場にお客さんが入ったら、うまく受信ができずイライラした”という経験をお持ちでしょう。従って、リモート・アプリに加え、DM7 Controlがコントローラーとして用意されているのは強みになってくると思います。今後、常設ミキサーのスタンダードになるのは間違いないでしょう。

 熱が入ってしまい、前置きが長くなってしまいましたが、続いてスペックを紹介します。DM7はアナログ入力が32chで120chを処理することができる一方、DM7 Compactは、アナログ入力が16chで、72chの処理が可能です。どちらも標準装備しているDante入出力は144イン/144アウト。もちろん同社のI/Oラック、Rシリーズをはじめ、ほかのDante製品とも組み合わせることができ、拡張性と柔軟性を実現しています。また、特筆すべきなのはサンプリング・レート96kHzまで対応するということ。分かりやすく“音が良くなったよ!”と言ってしまっても、過言ではありません。

 外観は、“非常にコンパクトにできている”というのが率直な感想です。CLやRivage PMを使ったことがある方なら誰しもそう思うはず。まさに小さくなったRivage PMという感じで(画面のGUIはTFっぽいですが)、まさしく“今のYAMAHAをすべて搭載した”という一台に仕上がっています。重量も23.5kgと軽く、1人で持ち上げても全く苦痛を感じませんでした。現場では助かるの一言です。

 そして、DM7を正面にして最も目を引くのは、大きなタッチ・ディスプレイでしょう。12.1インチのメイン・スクリーン×2(DM7 Compactは一つ)に加え、右側にはセットアップ機能などが表示される7インチのユーティリティ・スクリーンを配置しています。

DM7のメイン・スクリーン。右上のメニュー・バーから画面を切り替えて各種設定を行う。まずは目的のパラメーターをタッチし、本体、ディスプレイの右下にあるTOUCH AND TURNノブを回して操作する仕様。そのほか、ピンチ・イン/ピンチ・アウトでEQのQを操作したり、ドラッグ&ドロップでEQとダイナミクスの順番を入れ替えたりと、さまざまな操作が可能

DM7のメイン・スクリーン。右上のメニュー・バーから画面を切り替えて各種設定を行う。まずは目的のパラメーターをタッチし、本体、ディスプレイの右下にあるTOUCH AND TURNノブを回して操作する仕様。そのほか、ピンチ・イン/ピンチ・アウトでEQのQを操作したり、ドラッグ&ドロップでEQとダイナミクスの順番を入れ替えたりと、さまざまな操作が可能

DM7の右側にあるユーティリティ・スクリーン。ユーザーが自由に機能を割り当てられるディファインド・キーや、レベル・メーター、シーン・メモリーなど、重要な情報がまとまっている

DM7の右側にあるユーティリティ・スクリーン。ユーザーが自由に機能を割り当てられるディファインド・キーや、レベル・メーター、シーン・メモリーなど、重要な情報がまとまっている

 こちらにはユーザーが自由に機能を割り当てられるディファインド・キーや、レベル・メーター、シーン・メモリーなど、重要な情報がまとまっており、すぐに確認することが可能です。ディファインド・キーは、12chごとに区切られたフェーダーの間に用意されており、それぞれに何を割り当てているのかがすぐに分かる、ネーミング用の小型ディスプレイが搭載されています。

 続いてはリア・パネルについて。電源はもちろんリダンダント(二重化)仕様です。32イン/16アウトのアナログ入出力(XLR)を装備し、AES/EBU入出力(XLR)、外部機器からタイムコード信号を受信するTC端子、ワード・クロック信号を送受信するための入出力端子(BNC)、そしてDante入出力も標準搭載しています。その右側にはさりげなくUSB-C端子も用意されていますが、なんと、DM7はコンピューターと接続すれば、18イン/18アウトのオーディオ・インターフェースとしても機能します。Dante入出力の左側に用意されたスロットは“PYカード”という仕様で、PY64-MD(MADI、64イン/64アウト)、PY8-AE(AES/EBU、8イン/8アウト)、PY-MIDI-GPI(MIDIと5イン/5アウトのGPI)の3種類が用意されています(すべてオープン・プライス)。“PYカード”は新しい規格であり、ほかのデジタル卓のスロット・カードとの互換性がないので注意が必要です。

上部は左から出力端子(XLR)×16、入力端子(XLR)×32。下部は左から、排気口、電源入力端子A/Bと電源スイッチ、AES/EBU入出力(XLR)、外部機器からタイムコード信号を受信するTC入力端子、外部機器との間でワード・クロック信号を送受信するための入出力端子(BNC)、GPI対応の外部機器との間で信号を送受信する端子(D-sub)、Danteオーディオ・ネットワークと接続するための端子、コンピューターと接続するためのUSB-C端子、ネットワーク端子(RJ-45)

上部は左から出力端子(XLR)×16、入力端子(XLR)×32。下部は左から、排気口、電源入力端子A/Bと電源スイッチ、AES/EBU入出力(XLR)、外部機器からタイムコード信号を受信するTC入力端子、外部機器との間でワード・クロック信号を送受信するための入出力端子(BNC)、GPI対応の外部機器との間で信号を送受信する端子(D-sub)、Danteオーディオ・ネットワークと接続するための端子、コンピューターと接続するためのUSB-C端子、ネットワーク端子(RJ-45)

粒立ちが滑らかで生々しいダイナミクス Split Modeで2台のミキサーとしても使える

 それでは実際に使用して性能をチェックしていきます。CL やQLなどで、サンプリング・レート=48kHzでオペレートをしている方ならばすぐ気付くこととは思いますが、音を出した瞬間に“ものすごく音が良い!!”と感じると思います。これは気のせいや思い込みではありません。後日あらためて、DM7で収録した音源でバーチャル・リハーサルをした際も、スピーカーやセッティングは違えど、全く同じ印象を抱きました。いつもと同じマイクで同じセッティングをしているのに、出てくる音には今まで再生できなかった“つや”や“空気感”があり、粒立ちが滑らかで生々しいダイナミクス……という表現が近いです。今まで行っていた音質改善のための試行錯誤や、現場で費やしていた時間、さらには周辺機器をそろえる手間も必要ありません。やはり96kHzの恩恵はこういうことだと思いますし、この価格帯で手に入るなら、DM7は大アリだと、皆さんに声を大にして伝えたいです! 操作性についても“さすがはYAMAHA”ということで、大きく迷うこともありませんでした。

 ここで、特筆すべき点を3つお伝えします。まずは、アイドルの現場などで皆さんが“先生”とお呼びするDAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマチック・ミキサーが、DM7にはあらかじめ各チャンネルに用意されていることです(最大64ch)。従来はラックの一面に鎮座していましたが、DM7を使えば場所を取ることも、煩わしいラックのプランニングも必要ありません!

 2つ目は、とても今時で面白いアイディアだと感心した“Split Mode”。これは、コンソール内部を仮想的に分割するというもので、例えば、DM7を半分に分け、片方は現場のPAオペレート用、もう片方は配信向けのミックス用にする、つまりはDM7を2台のミキサーとして使用する、ということが可能なのです! 筆者は幕張メッセなどの大きな現場でもほとんど表返し(メイン・ミキサーでモニター・ミキサーも兼ねる方法)を採る場合が多いので、この方法はかなりアリだと思いました。

 3つ目は“Assist機能”です。これは、音作りの中核となるパラメーターをDM7がエンジニアに提案してくれる機能で、入力信号を受けて何のソースかを判断する“Naming Assist”、それに合わせて入力信号のヘッドアンプ・レベルを判断する“HA Assist”、最終的にそのフェーダー・バランスを提案する“Fader Assist”が用意されています。もしかして、私たちオペレーターまでもが要らなくなる未来がくるのでしょうか……(笑)。

 サウンド・チェックで触っていくうちに気がついた、決して派手ではないけれどありがたいDM7の良さについてもお話しておきましょう。まず、ホーム画面には、パッチやダイナミクス、EQが信号の流れの順に表示されていて、EQとダイナミクスはドラッグ&ドロップで順番を入れ替えられます。各チャンネルに搭載されているダイナミクスは、従来のものに、FET Limiter、Diode Bridge Compressorが追加されていました。

ダイナミクスに新たに追加されたFET Limiter(上)と、Diode Bridge Compressor(下)。プラグインのビジュアルの上部には、ダイナミクスの変化が時間軸上で確認できるログが表示される。また、画面右側にあるMixフェーダーを用いて、パラレル・コンプレッションを行うことも可能

ダイナミクスに新たに追加されたFET Limiter(上)と、Diode Bridge Compressor(下)。プラグインのビジュアルの上部には、ダイナミクスの変化が時間軸上で確認できるログが表示される。また、画面右側にあるMixフェーダーを用いて、パラレル・コンプレッションを行うことも可能

 GUIも見やすくなり、ダイナミクスの変化を時間軸上で確認できるログも表示されています。かかり具合を視覚的に確認できるのは良いですね。さらに今回、実は何気にとてもうれしいポイントがありました。YAMAHAの実機のエフェクターでとても好きだったデジタル・リバーブProR3が、プラグイン・エフェクトに追加されたことです。これ、うれしい人がかなりいるんじゃないかと思います。著者もREX50、SPX、REV5、01V、M7CL、そしてCL……と、YAMAHAの機材を愛用してきました。やはり、もともとYAMAHAの音が好きだったので、求めるのはこういうところですよね。

 また地味ですが、“やってしまった!”というときの“Un Do”が分かりやすい場所に配置されていたり、フェーダー上のチャンネル名を表示させる小窓が日本語表記対応(入力はMac/Windows対応のDM7 EditorまたはAPPLE iPadアプリDM7 StageMix経由)になったりと、より認識しやすくなったのはうれしいですね。そして、今回から採用されたディスプレイ上部にある“ストリップ・ライト”は、フェーダーや手元を常に明るく照らします。グースネック・ライトをセッティングするあの時間さえも短縮してくれました。さらにちょっとした工夫として、著者は本体のUSB-A端子にUSBライトを取り付けて曲順表やリハ時の裏パネルの明かりとしても良い結果を得られました。

DM7のディスプレイ上部には、ストリップ・ライトが搭載されており、手元を明るく照らしてくれる。また、右上部にはUSB-A端子が2つ用意されており、著者はそこにUSBライトを取り付けて曲順表などの明かりにしても良い結果を得られたという

DM7のディスプレイ上部には、ストリップ・ライトが搭載されており、手元を明るく照らしてくれる。また、右上部にはUSB-A端子が2つ用意されており、著者はそこにUSBライトを取り付けて曲順表などの明かりにしても良い結果を得られたという

 実際に触ってみて、ライブ/コンサート会場や会館、配信現場など、あらゆる現場に対応し、オペレーターすら選ばず、どんな環境でもベストなセッティングかつベストなサウンドをいとも簡単に実現することが可能だと感じたDM7。この先の時代のスタンダードを実感しました。

 

玖島博喜(TEAM URI-Bo)
【Profile】ヒビノやリバティ、ヴァーゴを経て、2000年にTEAM URI-Boを設立。フリーランスとして活動し、オペレートだけでなくシステム・プランナーやアドバイザーとして施工にも携わっている。

 

 

 

YAMAHA DM7

オープン・プライス

 

YAMAHA DM7

SPECIFICATIONS
▪入力ミキシング・チャンネル:モノラル120ch ▪バス:Mixバス48系統+Matrixバス12系統+ステレオ・バス2系統+モノラル・バス1系統+Cueバス2系統 ▪ディスプレイ:12.1インチ・マルチタッチ・スクリーン×2、7インチ・マルチタッチ・スクリーン×1 ▪フェーダー:28(12+12+4) ▪アナログ入出力:32イン/16アウト ▪Dante:144イン/144アウト、24 or 32ビット/96kHz、24 or 32ビット/48kHzに対応 ▪AES/EBU:2イン/2アウト ▪拡張スロット:PYスロット×1 ▪USBオーディオI/O:18イン/18アウト、32ビット/96kHzまたは32ビット/48kHzに対応 ▪電源:リダンダント ▪消費電力:240W ▪外形寸法:793(W)×324(H)×564(D)mm ▪重量:23.5kg

製品情報

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