VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Fazioli F308 レビュー:フルコンサート・グランド・ピアノを緻密に収録

VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Fazioli F308 レビュー:フルコンサート・グランド・ピアノを緻密に収録

 高品質な生楽器音源で不動の評価を得ているVIENNA SYMPHONIC LIBRARY(以下、VIENNA)から、昨今、破竹の勢いで存在感を増しているイタリアのピアノ・ブランドFAZIOLIのフルコンサート・グランド・ピアノF308をソフト化したSynchron Fazioli F308が登場した。

FAZIOLI独自の“4つ目のペダル”を再現

 Synchron Fazioli F308には、5バンドEQやリバーブ、フェイズ・スイッチなどを搭載。実際にホールでピアノを収録しているかのように、さまざまなマイキングで収録した音色を自分好みのミックス・バランスに仕上げることも可能だ。

 また、実際のF308に備わるFAZIOLI独自の“4つ目のペダル(Fourth Pedal)”を再現。鍵盤を下げ、ハンマーを上げて弦に近づけるペダルで、これによって得られる柔らかくクリアなサウンドをソフト上で再現できるのが素晴らしい。

 専用エンジンSynchron Pianosのユーザー・インターフェースは非常に分かりやすく、目当ての機能やエフェクトにアクセスしやすい作りだ。別売りのエクステンデッド・ライブラリーを使用すれば、5.1ch+4台のスピーカーを使ったAuro 3Dや、Dolby Atmosでのミキシングも可能になる。

 プリセットの数が必要最低限に絞られているところには、VIENNAとしての音源のクオリティへの自信と矜持のようなものを感じる。ユーザーは、まず大まかに自分が使用したいピアノの音色のシーンを選択。そこからプラグイン上で音色やマイク・バランス、果ては使用するマイクの種類まで追い込むことができる。こういった音作りの道筋が自然にプラグイン内で構築されているソフト音源はかなり好感が持てる。

 特に気に入っているのが、選択できるマイクの種類の豊富さと、ミキサー画面の扱いやすさだ。

画面上部のMixタブをクリックするとミキサー画面が表示される。各チャンネルにはボリューム・フェーダーのほか、5バンドのEQ、ディレイ/リバーブへのセンド、パンニング、位相反転スイッチなどを搭載。マイクの選択はこのミキサー画面の下部で行う

画面上部のMixタブをクリックするとミキサー画面が表示される。各チャンネルにはボリューム・フェーダーのほか、5バンドのEQ、ディレイ/リバーブへのセンド、パンニング、位相反転スイッチなどを搭載。マイクの選択はこのミキサー画面の下部で行う

 例えば、スタンダード・ライブラリーに収録されているプリセット“Room Mix”では、クロース・ポジションまたはミドルポジションのペア・コンデンサー・マイクを使用でき、いずれかを選択することも、混ぜて使用することも可能。先述のエクステンデッド・ライブラリーを使用すれば、筆者が個人的にピアノのレコーディングで欠かせないリボン・マイクや、真空管マイクも選択できる。ミキサー画面では各系統に5バンドEQ、ディレイとリバーブへのセンド、パンニング、位相反転スイッチを搭載するため、多くの場面では、このミキサー画面を活用することでピアノの音色作りを追い込めるだろう。

ミキサー画面の各チャンネル上部にあるEQはポップアップ表示が可能で、各バンドのゲインやQ幅、カーブ・タイプなどの詳細を調整できる

ミキサー画面の各チャンネル上部にあるEQはポップアップ表示が可能で、各バンドのゲインやQ幅、カーブ・タイプなどの詳細を調整できる

 また、グランド・ピアノのクラシック・レコーディングで欠かせないデッカ・ツリー・ポジションも選択することができ、このモードでも各マイクのバランスや音色の調整ができるため、広い空間でぜいたくに鳴るゴージャスなグランド・ピアノの音色を作り上げることもできる。

 生ピアノの収録データをミックスで使用する際に一番重要な“マイク選び”をソフト上で自由に行い、DAWへパラ出力をしたり、楽曲の場面によって空間内でのピアノの配置を選んだり、手持ちの異なるプラグインなどを使用してピアノのミックスを追い込んだりしたい人にとっては、かなり重宝する機能が充実しているだろう。筆者は、実際にマイクで収録した生ピアノをDAW上でミックスする機会も多いため、それぞれのマイク回線をDAWの個別のチャンネルへ出力し、自由自在にミックスできることは大変うれしい。

ホール鳴りを得られるデッカ・ツリー

 また、先述のデッカ・ツリー・ポジションで収録された音色が素晴らしい。本来のピアノのステレオ感、広いコンサート・ホールで鳴らしたような鳴りは、プラグインを使ったDAW上のリバーブ処理だけでは作りづらいことが多いが、Synchron Fazioli F308では、デッカ・ツリーで収録された音色を選択することで、すぐに素晴らしいホール鳴りを手に入れることができる。クラシック風の音色からジャズ/ポップス風の固い音色まで選択できるのも魅力的だ。

 VIENNAらしい繊細かつゴージャスな収録音でありつつ、FAZIOLIらしい美しさや骨太さもしっかり感じられ、現代の最高峰のピアノ・メーカーであるFAZIOLIの意志をしっかりと汲んだ非常にバランスの良い音源となっている。

 特に低音に関しては、ホールでグランド・ピアノをダーンと鳴らしたときのような、身体の芯から上がってくるような低音感がしっかりと再現されているのも驚きだ。原音を忠実に収録しただけではなく、空間の鳴りも丁寧に再現したことが分かる。低音の立体感もシビアに求められる現代の音楽シーンにおいて、非常に重宝されるのではないだろうか。

 また、PopやMightyなどの音色は極めて音抜けが良く、バンドの中でも存在感を失わない。先述のFourth Pedalと組み合わせることで音色が柔らかくも粒立ちがはっきりした速いパッセージを演奏できるため、今までの音楽シーンには無いピアノの立ち位置を作り出せるのではないだろうか。

 

佐藤航
【Profile】ソロ活動ではピアノ・弦楽を基調としたポストクラシカルやエレクトロニカを生み出す。Gecko&Tokage Paradeのリーダーであり、多様なジャンルのアーティストのサポート/作編曲も手掛ける。

 

VIENNA SYMPHONIC LIBRARY
Synchron Fazioli F308

43,340円

VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Fazioli F308

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13/10.14/10.15/11/12
▪Windows:Windows 8/10/11
▪共通項目:64ビットのみ対応、Intel Core I5以上のCPU、16GB以上のRAM(32GB以上推奨)
▪対応フォーマット:VST、AU、AAX

製品情報

関連記事