パソコン音楽クラブが明かす珠玉のオーディオ加工テクニック

パソコン音楽クラブが明かす珠玉のオーディオ加工テクニック

今をときめくトップ・クリエイター7組に、作品で使用する珠玉のオーディオ加工テクを伺う当特集。第7回はDTMユニット、パソコン音楽クラブに披露していただきます。

その1:FX 〜リバーブの残響を素材にした広がりのあるパッド・サウンド

 参考楽曲 

「reiji no machi」(『Night Flow』収録)
パソコン音楽クラブ

【Time】0:00~

 リバーブのディケイの値を大きくすると長い残響音ができますが、その音をパッド・サウンドとして利用します。素材にしたいパートのトラックにリバーブを挿し、ディケイを長くした状態で別のトラックに録音すれば完成。パッド・サンプルとして使ってみてください。

 ポイントは曲の中で使われている音を素材にしている点で、外部から持ってきたサンプルよりも曲とうまくなじませることができます。またリバーブ成分のみで構成されているので、シンセで演奏するパッドよりも格段に音の広がりがあります。

 作成には残響音を固定するABLETON Live付属ReverbのFreeze機能が便利ですが、VALHALLA DSP Valhalla Shimmerを使うこともあります。リバーブごとによる質感の変化をいろいろ試してみてください。

▲Live付属のReverbに搭載するFreeze(赤枠)を使用してできた残響音を、オーディオに書き出す。Freezeは残響音固定機能だが、リバーブのディケイを長くすることでも同様に録音可能だ

Live付属のReverbに搭載するFreeze(赤枠)を使用してできた残響音を、オーディオに書き出す。Freezeは残響音固定機能だが、リバーブのディケイを長くすることでも同様に録音可能だ

その2:FX 〜リサンプリングを駆使して効果音をセルフ・メイク

 参考楽曲 

「SIGN(feat. 藤井隆)」
パソコン音楽クラブ

【Time】0:44~

 Liveには制作中のトラックをまとめて2ミックスのオーディオ・ファイルとして録音できる、リサンプリングという機能があります。この機能を使って、自前でサンプルを作るというテクニックです。2ミックスを作成する際は、マスター・トラックにピッチ・シフターのWAVES SoundShifterかマルチエフェクト・プラグインのSUGER BYTES Turnadoを挿します。どちらもピッチを下げたときに、位相がゆがんで独特な質感になるんです。

トラックの入力チャンネルをResamplingに設定すると、現在のプロジェクトの2ミックスを作成できる。このトラックにWAVES SoundShifterやSUGER BYTES Turnadoなど挿した状態で書き出せば、加工されたオーディオ・トラックが出来上がる

トラックの入力チャンネルをResamplingに設定すると、現在のプロジェクトの2ミックスを作成できる。このトラックにWAVES SoundShifterやSUGER BYTES Turnadoなど挿した状態で書き出せば、加工されたオーディオ・トラックが出来上がる

 出来上がったオーディオ・ファイルをLive付属のソフト・サンプラーSimplerに取り込み、スライス・モードで使用します。データがアタックごとに細かく分割されるので、これをパーカッション的な効果音として楽曲にちりばめました。そこからさらに、サンプラー・シミュレーター・プラグインのWAVETRACING SP950で、ローファイ感を足しています。こういった質感のサンプルはなかなかなく探すのも大変で、それならば自分たちで作ってしまった方が早いですからね。

書き出したミックスをソフト・サンプラーのSimplerでスライスすれば、パーカッシブな素材になる。WAVETRACING SP950でさらに質感を調整している

書き出したミックスをソフト・サンプラーのSimplerでスライスすれば、パーカッシブな素材になる。WAVETRACING SP950でさらに質感を調整している

その3:Drums 〜ノイズ付加とオートパンでリバース・キックの存在感を強調

 参考楽曲 

「SIGN(feat. 藤井隆)」
パソコン音楽クラブ

【Time】0:43~

 曲がBメロ→サビといった次の展開に向かう際、よくフィルイン的にリバース・キックを入れることが多いのですが、普通にリバースするだけだと迫力に欠けることがあります。それを解決するのが、オーディオにノイズとオートパンを足して存在感を強調するというテクニックです。

逆再生したキックにErosion(赤枠)でノイズを付加。さらにAuto Pan(青枠)でかかり具合を調節するAmountのオートメーションを書き、波形のキックの動きに合わせてパンを振るようにしている

逆再生したキックにErosion(赤枠)でノイズを付加。さらにAuto Pan(青枠)でかかり具合を調節するAmountのオートメーションを書き、波形のキックの動きに合わせてパンを振るようにしている

 ノイズを足すのはLive付属のErosion。入力信号を劣化させるエフェクト・プラグインで、3つあるモードの中からWide Noiseを選択して使うことが多いです。高域にザラっとしたノイズが乗ってキックの存在をはっきりさせることができます。

 オートパンもLive付属のプラグインAuto Panを使用します。左右の広がり具合にオートメーションを書いたりすることでページがめくれるような効果になり“次の展開に移るぞ!”という効果を演出することができます。

その4:FX 〜ディレイ・タイムのオートメーションで発振音をコントロール

 参考楽曲 

「KICK&GO feat.林青空」
パソコン音楽クラブ

【Time】 1:55~

 この曲は中盤にブレイクがあるのですが、展開に合わせてディレイのフィードバックによって発生する発振音をコントロールしています。このテクニックは、発振するディレイ・プラグインであれば何でも使用可能です。

 まず素材にしたいパートにディレイを挿し、フィードバック値を大きくして発振するようにし、ディレイ・タイムにオートメーションを設定します。ディレイ・タイムを速くすれば細かに動きながら音程が上がり、逆に遅くすれば音程が下がっていくので曲の流れに沿って調節しましょう。うまくハマると効果音として機能するので、いろいろな楽曲で使っています。例えばシンセとアナログ・ディレイなどを使って同じような音を作る場合もありますが、プラグインを使うほうが細かなコントロールができて使いやすいことが多いです。

Live付属のディレイ、Echo(黄枠)のフィードバックやディレイ・タイムなど複数のポイントにオートメーションを設定。曲の流れに沿ってパラメーターを調節し、発振音をコントロール

Live付属のディレイ、Echo(黄枠)のフィードバックやディレイ・タイムなど複数のポイントにオートメーションを設定。曲の流れに沿ってパラメーターを調節し、発振音をコントロール

 注意点として、発振している状態では意図しないところで大きな音が鳴ってしまったりするので、リミッターを挿したり、細かくゲインのオートメーションを書くなどの調整が必要です。

 

パソコン音楽クラブ

パソコン音楽クラブ
【Profile】2015年結成のDTMユニット。メンバーは大阪出身の柴田と⻄山。往年のハードウェア・シンセサイザー、音源モジュールを用いて音楽を制作している。オリジナル作品のほかアニメ音楽、ドラマ劇伴の制作なども多数。

【特集】オーディオ加工に首ったけ〜7組の匠が明かす珠玉のテク

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