VSL Synchron Duality Strings レビュー:豊かなアンビエンスとドライな音色の両方を表現できるストリングス音源

VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Duality Strings レビュー:豊かなアンビエンスとドライな音色の両方を表現できるストリングス音源

 今まで、たくさん世に出てきたストリングス音源。正直、私も15年以上前になけなしのバイト代で購入した最初のストリングス音源、VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Special Editionから始まり、ありとあらゆる音源を購入し、試してきました。そこに登場したのが、今回レビューするVIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Duality Stringsです。

リアルな表現に欠かせない多彩なアーティキュレーションを搭載

 この音源の最大の特徴は、部屋の大きさが異なる2つの収録用ステージ(スタジオ)でサンプリングを行うことで、これまでの音源では難しかった“広いストリングス・アンサンブルの中で、特定のセクションにフォーカスを当てる”演奏を可能にしている点です。540㎡もの広さと最大12mの天井高を誇るアンビエンス豊かなStage Aと、68.7㎡で高さも最大4.5mとよりデッドな響きのStage Bという2カ所での演奏は、同じ指揮者の下で同時に収録されているため、すべてのアーティキュレーションにおいて音量、音色、ビブラート、音の長さ、フレージングなどが完全に同期しているとのこと。

 Stage Aは、世界トップ・クラスの映画やテレビ番組の収録でも用いられており、大規模なストリングス・アンサンブル・サウンドが特徴だそう。一方のStage Bでは小規模なアンサンブルを、スタンダード・ライブラリでは低音寄り(Darkと呼ばれています)のサウンドで収録しています。

 さらに、別売りのエクステンデッド・ライブラリ(追加マイク・チャンネル/50,160円)を追加することで、ステレオに加えて5.1chサラウンド、9.1ch AURO-3DあるいはDolby Atmos用のマイク・チャンネルが使用可能となります。またStage Bでは、高音寄り(Bright)のマイキングも追加され、2種類の音色を使い分けることが可能です。

 つまりアンビエンス豊富な大規模アンサンブルと、ドライな室内楽サイズのアンサンブル、両方の長所を最大限に活用した打ち込みが可能な製品ということになります。劇伴でオーケストラものを作ったり、歌ものの中でストリングスを打ち込むことも多い自分にとって、これは画期的なストリングス音源ではないかという第一印象を受けました。

 それではじっくり見ていきましょう。まず4つの基本的なプリセット・タイプが個別のフォルダーで用意されていて、それぞれに1stバイオリンやビオラといった楽器セクションが用意されています。各フォルダーには“VelXF sus - MOD”“VelXF - MOD”“VelXF + Velocity control”および“Velocity”という名前で、これらは何によって音色のコントロールをするかを表しています。

メイン画像の画面を縮小表示したもの。赤枠内にプリセット名が並び、ここで選んだプリセットのアーティキュレーションなどが黄枠内に表示される。さらに緑枠内では、音量やエクスプレッション、リリース、アタックなどをコントロール・チェンジ(CC)のフェーダーで操作できる。詳細はメイン画像の大きな画面で確認してみてほしい

メイン画像の画面を縮小表示したもの。赤枠内にプリセット名が並び、ここで選んだプリセットのアーティキュレーションなどが黄枠内に表示される。さらに緑枠内では、音量やエクスプレッション、リリース、アタックなどをコントロール・チェンジ(CC)のフェーダーで操作できる。詳細はメイン画像の大きな画面で確認してみてほしい

 例えば、“VelXF sus - MOD”は、モジュレーション・ホイールによるベロシティ・クロスフェードがロング・ノートに対してのみ有効になり、ショート・ノートのダイナミクスはベロシティによって制御されるというプリセット。そのため、フレージングが容易になります。

 では、このフォルダーの中身をさらに詳しくチェックしてみましょう。フォルダー内には、“01 1st Violins”“02 2nd Violins”“03 Violas”“04 Violoncellos”“05 Double basses”“06 Tutti full range”“07 Tutti compr.range”と楽器ごとのファイルが並んでいます(ファイル名の末尾にはすべて“VelXF sus”が付いていますが、長くなるので割愛)。

 1st Violinsを選ぶと、画面のArticulation欄には、“C Short nts.”“C♯ Long nts.”“D Perf. legato”“D♯ Tremolo”“E Trills”“F Pizzicato”“F♯ Harmonics”“G Glissandos”“G♯ Runs”“A Custom”とさまざまな奏法が表示されており、それぞれについてExpression、Release、Attackなどを細かく調整できるようになっています。しかも、これらをすべてコントロール・チェンジで簡潔に制御できるのは魅力的です。

 では、代表的なアーティキュレーションを見てみましょう。まず音価の短い演奏で使用するアーティキュレーション、Short nts.を見てみると、Type欄でSpiccatoやStaccatoなどを選べ、さらにAttack欄でもBoldとAgileを選べるなど、細かく設定できることがわかります。

1st Violinsを選択するとメイン画面の左上部にアーティキュレーション、タイプ、アタックなどの項目が並ぶ。この画面は短い音価の演奏に適したShort nts.を選択したところ。Type欄ではSpiccato(スピッカート)やStaccato(スタッカート)などより細かい奏法を選べ、Attack欄ではBoldとAgileの2種類の表現をセレクト可能

1st Violinsを選択するとメイン画面の左上部にアーティキュレーション、タイプ、アタックなどの項目が並ぶ。この画面は短い音価の演奏に適したShort nts.を選択したところ。Type欄ではSpiccato(スピッカート)やStaccato(スタッカート)などより細かい奏法を選べ、Attack欄ではBoldとAgileの2種類の表現をセレクト可能

 これらは実際の楽曲のテンポや自分が作りたいフレーズ次第でコントロールするのがいいでしょう。個人的には、メロディックに聴かせたいショート・フレーズはAgileの方が合っていそうに感じました。また、StaccatoはSpiccatoよりも音符の長さが少し長いです。スタッカートしかない音源ですと、MIDIノートの長さをいちいち短くしてスピッカートのフレーズを作っていたりしましたが、本音源であれば簡単にコントロール・チェンジで制御できます。

 次に、長い音価の演奏に適したLong nts.を見てみましょう。

1st ViolinsのArticulation欄で、Long nts.を選んだ場合の画面。Expression欄ではビブラートをコントロールすることが可能。Release/Attack欄では、リリースやアタックの速さを設定できる

1st ViolinsのArticulation欄で、Long nts.を選んだ場合の画面。Expression欄ではビブラートをコントロールすることが可能。Release/Attack欄では、リリースやアタックの速さを設定できる

 こちらもよく使われる奏法だと思いますが、Expression欄でビブラート(vib.)をコントロールできるのがいいですね。予算が限られている場合、打ち込みの音源と生のバイオリンを混ぜることがあるのですが、混ざりが悪くなる原因の一つにビブラート感が合わないことがあるのです。その調整を行えるというわけです。

 またReleaseも制御できるので、バラードの中での立ち位置なのか、テンポの速いエネルギッシュなフレーズかによっても細かくコントロールすることができます。個人的には、ExpressionをEspressivo、ReleaseをSoft rel.にすると、エモーショナルなバラード曲の表現にとても重宝しそうだなと思いました。

 さらに、Tremoloもチェックしてみましょう。

1st ViolinsのArticulation欄で、Tremoloを選択。Type欄でさまざまな速さのトレモロを選択できるほか、Measuredを選ぶと120/130/140/160/180BPMのトレモロを再現できる

1st ViolinsのArticulation欄で、Tremoloを選択。Type欄でさまざまな速さのトレモロを選択できるほか、Measuredを選ぶと120/130/140/160/180BPMのトレモロを再現できる

 Type欄でFast trem.やSlow trem.を選べたり、Measuredを選ぶとテンポを120/130/140/160/180BPMと指定できて、より細かく曲に合ったトレモロを表現できます。

 そのほか、Runsも使えそうです。

ArticulationのRunsは、駆け上がりや駆け下がりを表現できるアーティキュレーション。フレーズの幅をオクターブや5度、3度と設定でき、キーも指定可能

ArticulationのRunsは、駆け上がりや駆け下がりを表現できるアーティキュレーション。フレーズの幅をオクターブや5度、3度と設定でき、キーも指定可能

 これは打ち込むと、どうしても嘘っぽくなってしまいがちな駆け上がり/駆け下がりの表現です。Interval欄ではフレーズの幅をOctave、Fifth、Thirdと細かく選べ、またKey欄で指定したキーで演奏されるので、楽曲のキーに合わせてサビ前などの“ここぞ”というときに入れると楽曲が華やかになりそうです。

リアルな表現に欠かせない多彩なアーティキュレーションを搭載

 アーティキュレーションで細かく表現できることがわかった上で、ここからは本製品最大の特徴とも言えるStage AとStage Bの音色をコントロールするミキサーについて触れていきましょう。

 ミキサー・セクションには、Stage A/Bのさまざまな録音状況を再現可能なプリセットが用意されています。基本的なミキサー・プリセットは、Close、Classic、Wide、Distant、Ambience、Lush、Lush Longの7種類です。

ミキサーのプリセットを表示したところ。右の赤枠内に見える、Close、Classic、Wide、Distant、Ambience、Lush、Lush Longの7種類が基本となる

ミキサーのプリセットを表示したところ。右の赤枠内に見える、Close、Classic、Wide、Distant、Ambience、Lush、Lush Longの7種類が基本となる

 また、デフォルトではStage Aの“A-Room-Mix”と“Mid”およびStage Bの“Dark”という3種類のマイキングを含んだ“00a Room Mix Presets Std”の“02 Classic”がロードされ、これらはステレオ・フィールド内でバランスが取られます。

デフォルトでロードされるミキサーのプリセット。A-Room-Mix、A-MidというStage AのサウンドとB-DarkというStage Bのサウンドがチャンネルに立ち上がる。その他の斜体になっているチャンネルにはサウンドは入力されない

デフォルトでロードされるミキサーのプリセット。A-Room-Mix、A-MidというStage AのサウンドとB-DarkというStage Bのサウンドがチャンネルに立ち上がる。その他の斜体になっているチャンネルにはサウンドは入力されない

 ここでStage Bのマイキングについて触れておきましょう。スタンダード・ライブラリにはDark、エクステンデッド・ライブラリにはBrightという名前のマイキングが用意されており、それぞれ以下のマイクが使用されています。

エクステンデッド・ライブラリを購入すると、Stage BにBrightというマイク・チャンネルが追加され、より明るいサウンドを得ることができる

エクステンデッド・ライブラリを購入すると、Stage BにBrightというマイク・チャンネルが追加され、より明るいサウンドを得ることができる

■Dark:ROYER LABS SF-24+SENNHEISER MKH 8040

■Bright:NEUMANN M 149 Tube+EHRLUND EHR-M

 簡単に説明すると、SF-24はリボン・マイクで温かみのあるサウンド、M 149 Tubeは真空管コンデンサー・マイクでパキっと明るいサウンドです。Darkだから低音域が大きいというよりも、ハイに丸みがあると捉えた方がいいでしょう。エクステンデッド・ライブラリの購入者限定になりますが、両者を使い分けるとしたら、基本はBrightで作りつつ、よりバラードだったり繊細に表現したい場合はDarkを混ぜるといいのかもしれないと個人的には思いました。

 またエクステンデッド・ライブラリに含まれるStage Aのリボン・マイクのL/Rは、スタンダード・ライブラリに含まれるデッカ・ツリーの透明なサウンドに温かみのある中低域を加える役割を果たし、より豊かなストリングス・サウンドを実現してくれます。基本的には、ある程度編成の多いオーケストラものはStage Aを選びつつ、Stage Bの響きの少ないサウンドを少し混ぜると輪郭が分かりやすくなるでしょう。

 逆に歌モノなどでほかの楽器もたくさんあり、ストリングス音源にリバーブが変に付いているとほかの楽器と混ざりづらい場合には、Stage Bが使いやすいと思いました。

 これまでも歌モノを中心にアレンジしている友人に、お薦めのストリングス音源を聞かれることは多かったのですが、本製品はまさに正解に思えました。オーケストラのサウンドも作るし、ポップスの中でもストリングスを必要とするような作曲家にとって、この音源はとても使い勝手が良いように思います。あえて欠点を申すのであれば、“ザ・ハリウッド・サウンド!派手!大人数!”というものでしたら、ほかにも良い音源があるかもしれません。しかし、日本の劇伴であったり、ドラムやギターなどのタイトな楽器が鳴っている中でのストリングスなどは、この音源のサウンドがとても合うように感じました。

 今回、この執筆のお話をいただいてから、今絶賛作業中のフジテレビのドラマ『パリピ孔明』2023年秋スタート)の劇伴制作にも使わせていただきました。細かくコントロールできる点やStage Bのデッドな響きで生々しいフレーズ感を出せるのがとても良いです。これからも“まずは立ち上げる音源”にSynchron Duality Stringsはなるのではないかと予感しております。ぜひ皆さんもチェックしてみてください!

 

近谷直之
【Profile】CMや映画、ドラマ、ゲームなどへの楽曲提供のほか、ロック・バンド鋭児のプロデュースも行う。2023年8月クール『●●ちゃん』(ABCテレビ)、10月クール『パリピ孔明』(フジテレビ)の音楽を担当。

 

 

 

VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Duality Strings

81,840円

VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Duality Strings

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13/10.14/10.15/11(INTEL CPU/ARM)/12(INTEL CPU/ARM)
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11
▪共通項目:64ビット・ホストのみ対応。INTEL I5/I7/Xeno以上のCPUを推奨、16GB以上のRAM(32GB以上を推奨)、102GB以上(スタンダードのみ)または242GB(スタンダード+エクステンデッド)の空き容量。SSD(M.2/SATA 6もしくはUSB3/3.1 UASP対応)の使用を推奨。iLok License Managerの導入と、iLokドングル(iLok2/iLok3)またはiLok Cloudを使用した認証が別途必要
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST

製品情報

関連記事