UNIVERSAL AUDIOから、ラージダイアフラム・コンデンサーマイクのSC-1と、モデリング用プラグインのhemisphereがリリースされました。筆者が以前レビューした同社のモデリングマイクSphere DLXは、録音後でも、マイクの特性を変更できる宅録の可能性を大きく広げる一本でした。今回は、初心者や宅録環境を整えはじめたミュージシャンやアレンジャー、エンジニアリングを向上させたい皆様、さらにプロの“セカンドチョイス”にもお薦めのSC-1を解説します。
素の音質は色づけなくフラット 現代の音楽に向いたスピード感のある低域
本体は持ち運びに便利なセミハードケースに入っており、しっかりしていて安心感があります。ケースを開けると、マイクとホルダーがクッションの中に入っています。これだけ丁寧に収納されていると気軽に外部スタジオへ持ち出すこともできそうです。本体は白いボディで、明るい印象があるので、配信に使用しても見栄えが良いですね。
まずは仕様を確認します。周波数特性は20Hz〜20kHzで、可聴領域をしっかりとカバー。最大SPLは145dBとなっており、バスドラムやギターアンプなど大音量の楽器にも安心して使用できます。セルフノイズは12dBと非常に低い数値。サイズ感や重さはSphere DLXの半分くらいなので、本格的なマイクスタンドでなくても安定しそうですね。
次に音質を確認します。モデリングマイクは、マイク自体の特性がいかにナチュラルかで、その後の加工に大きな差が生まれます。ここでは、自分自身の男性ボーカルとシンガーソングライター花野さんの女性ボーカル、アコースティックギターK.Yairi WY-1でテストしました。
SC-1は、全体の印象として、特別な色付けなく非常にフラットに収録できます。男女ボーカルでの高域の再現度は、上位機種のSphere DLXの方が少し優れる印象ですが、SC-1は低域のスピード感があって今の音楽に非常に適していますし、コストパフォーマンスに優れています。
アコギは、後述のプラグインで音源とマイクの角度を調整するパラメーターの効きを試すため、あえてホールにしっかり向けて録りました。ピック弾きは中低域でしっかりと原音を再現。もう少しギラっとした部分が欲しい印象ですが、これはマイキングの影響だと考えられます。指弾きはナチュラル。もうちょっと輪郭が見えてほしい感じもしますが、必要な帯域はすべて聴こえるので、モデリングで変わりそうです。
シンプルで分かりやすいモデリングプラグイン 同社のペンシル&ダイナミックマイクにも対応
モデリングを行うプラグインのhemisphereは、UA Connectで本体のシリアルナンバーを入力すると無料でダウンロード可能です。今回はネイティブ上で動作させましたが、オーディオI/Oのapolloと併用すると、録音中にリアルタイムでマイクを選択できます。モデリング元の機種は、NEUMANNやAKG、TELEFUNKEN、SONYなどバリエーション豊富です。
このほかhemisphereにはペンシルマイク、ダイナミックマイクのマイクモデルも収録され、それぞれUNIVERSAL AUDIOから発売中のスモールダイアフラム・マイクSP-1、ダイナミックマイクのSD-1にも対応します。
プラグイン画面は非常にシンプルです。左下のソースマイクから使うマイク(ここではSC-1)を選び、画面中央をクリックするとモデリングしたいマイクを選べます。
マイクごとに3段階のフィルター、マイクと音源の“距離”を調整するPROXIMITY、“角度”を調整するAXIS、アウトプットボリューム、バイパススイッチ、位相反転スイッチがあります。
第一印象は“とにかくシンプルで分かりやすい”。PROXIMITYやAXISはマイク位置が移動する絵が脳内に浮かぶほどしっかり音質が変化します。収録後に“もっと違うマイキングをしたら良かった”という部分もサポートしますし、プリセットも選べます。アコギはあえてホールに向けすぎたマイキングをしていましたが、PROXIMITYを少し下げてAXISを調整すると解決できました。少しPROXIMITYを上げてアウトプットを下げると、よりボーカルの音像が近づきます。
マイクモデルは、ボーカルにパンチを出すならLD-251、自然な抜けにはLD-800が今回はベストマッチでした。モデリング前に気になった高域の再現度も一気に解決しました。アコギにもLD-251が非常にマッチして、ギラっとした部分が一気に前に出ます。ギラっとさせつつふくよかな中域を出すならLD-47K、それを少しまろやかにするならLD-67 NOS、あまりギラっとさせず高域まで伸ばすならLD-12と、レコーディング後の音作りがいくらでも可能です。
配信を想定して、アコギ弾き語りをSC-1のみでも収録しました。声とギターのバランスが取れる位置にSC-1を立て、収録後にPROXIMITYで距離を合わせます。UADx LA-2Aを選び、コンプをいつもより深めにかけて調整すると、一気にバランスの良い弾き語り音源に変化しました。hemisphereは、機能が厳選されているため初心者でも扱いやすく、非常に驚きの音質です。
レコーディングに多様な可能性を付与するSC-1とhemisphereは、Sphereで培った技術をより多くの人に届けるとても素晴らしい製品でした。モデリングマイクを試したい方にお薦めしたいファーストチョイスになり得ると思います。
小﨑弘輝
【Profile】LiMu Create代表。Columbia College Chicagoでレコーディングを学び、One Night Only、クレモンティーヌ、DEPAPEPEなどの録音やミックスを行い、ライブ録音/ミックスの経験も豊富。
UNIVERSAL AUDIO SC-1
オープン・プライス
(市場予想価格:79,200円前後)
SPECIFICATIONS
▪形式:コンデンサー ▪指向性:単一指向 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪最大SPL:145dB ▪感度:−39dB(0db=1V/Pa@1kHz) ▪付属品:マイクスタンド・マウント、5/8インチ-3/8インチ・スレッドアダプター、キャリングケース ▪外形寸法:52(φ)×162(H)mm ▪重量:363g