妥協を許さない技術者が、自らのブランド名“TONEFLAKE”を冠したシリーズ製品にリボン・マイクが加わった。これは興味深い! 早速スタジオで使ってみよう。
マイクにプリアンプを搭載し、伝送ゲインを上げられる実績を持つエンジニアならではのきめ細かさ
TONEFLAKEは、数々のビンテージ機材やプロ・オーディオ機材のリペアや、カスタマイズで知られる佐藤俊雄氏が代表を務めるハンドメイド・ビルダーのブランド。筆者もカスタム・モデルのマイクの使用経験があり、オリジナリティを重視したチューニングに感心し、とても信頼している。
そのTONEFLAKEからリボン・マイクが発表された。アクティブ構造のTR1 Activeとパッシブ構造のTR1 Passiveだ。今回はTR1 Activeが手元に届いた。TR1 Activeは専用設計のプリアンプを内蔵し、48Vのファンタム電源で動作する。リボン・マイクは感度と出力レベルが低く、出力信号の伝送経路において外部からのノイズに弱い。マイク側にプリアンプを搭載し伝送ゲインを上げられるのは理想的だ。
ケースには、TR1 Active本体、マイク・ホルダー、ケーブルを収納。本体はガンメタリック色のダイキャスト製で剛性感があるボディがチョイスされている。正面にさんぜんと輝くロゴからは、このマイクへの自信がうかがえる。
二重にレイヤーされたグリルの中には、強力なマグネット・モーターにTONEFLAKEが独自に作成したスペシャル・リボンを貼ってあり、そのリボン・ユニットの微少電流による信号を高級パーツでディスクリート構成したアンプによって余すことなく拾い上げる……とのこと。しかもその微小電流が流れる接合部には特殊なプライマー(塗料)を塗布し、電気特性を極限まで高めたという(メーカー解説より)。まさにハンドメイド・ビルダーならではの手の込んだ作りである。
専用マイク・ホルダーは、マイク本体からネジを外し、本体をホルダーに挿入してからネジで締め付ける構造で、手間は掛かるが確実に装着できる。ケーブルがしっかり固定できるケーブル・ストッパーも付いている。この構造には、レコーディング・エンジニアとして現場の実績を持つ佐藤氏ならではのきめ細かさを感じる。
さまざまな楽器で共通して得られる滑らかな音色。“耳で聴いた音”に近く感じられる
早速音を聴いてみよう。受けのアンプは、音に色付けがなく超フラットな周波数特性のADGEAR KZ-912を使用した。
まずは、マイクの音色・音調を試したく、ピアノでテスト。
一聴した印象は、低域から高域にかけてとてもナチュラルに感じる。特定の周波数にクセがある感じではなく、スムーズだ。コンデンサー・マイクのようにレンジが広いわけではないが、ピアノの音色をきちんと捉えている。EQで高域をブーストして行けば必要な高域は得られる。さすがにピアニッシモでは若干ではあるが表現力が足りなく感じるが、ハンマーが弦から離れる様子もきちんと収音できている。
続いてはウッド・ベース。筆者は日頃からウッド・ベースにリボン・マイクをチョイスすることが多い。理由としては、演奏時の弦が指板に当たる音をバランス良く捉えられ、演奏ノイズが低減できるからである。TR1 Activeで拾ったウッド・ベースの音は、非常にふくよかでスムーズだった。特定の低域で膨らんでしまうこともなく、音像がきっちりとセンターに出て好印象。アルコ(弓)での演奏でも弓と弦の擦れる様が自然に表現され、ザラザラとしたノイズ感は感じない。
エレキギターのテストは、VOX AC30にTR1 Activeをセッティングして試聴。拾ったギター・アンプの音は、楽器の特徴を見事に再現して音像が一歩手前に出てくるイメージで、キレの良いカッティングの収録に最適だと感じた。
三味線でもテストを実施。アタック成分が多い三味線の収録は、トランジェント特性が優れた現代のコンデンサー・マイクだとなかなか難しく、筆者はリボン・マイクを使うことが多い。ただ、その多くはアタックをうまく抑えるものの音がこもりがちだ。しかし、TR1 Activeは、奇麗にアタックを抑えつつ“すくい”や“はじき”そして“たたき”のバランスを正確に捉えた。感心したのは“さわり”や“スリ”などの繊細なニュアンスもしっかりと表現できること。今後、三味線の収録でファースト・チョイスになるマイクだと感じた。
ボーカルは、シャウトの多い男性ボーカリスト。声もかなり大きかったが、マイク側でひずむことはなかった。音色がとても柔らかく捉えられ、線が太く感じる。声の倍音や吐息などを正確に表現するには少し力不足は否めないが、温かくムード感のあるようなシーンで本領を発揮してくれるだろう。
ほかにもさまざまな楽器でテストしたが、共通して言えるのはとても滑らかな音色であること。マイクで収録すると実際の楽器の発音より硬く聴こえることがあるが、TR1 Activeは“耳で聴いた音”に近く感じた。ストリングスやドラムなどオフでセットした音は独特の世界観が得られたし、管楽器のソロ・パートでオンにセットすると、とても太く高域の収まりも良好で、音像もまとまりやすく秀逸であった。
また、双指向性のTR1 Activeは、正面より背面の方がわずかにローエンドがロールオフしているように感じた。この特性をうまく利用すればより深く個性を引き出せるだろう。
TR1 Activeは取り扱いやすさと滑らかな音色、内蔵のプリアンプのおかげでゲインも通常のコンデンサー・マイクほどあるので、SN比や誘導ノイズの心配も少ない上に低価格。今後は積極的に使ってみたいリボン・マイクだと感じた。次回はぜひTR1 Passiveも試してみたい。
山内"Dr."隆義(gogomix@)
【Profile】竹内まりや、鈴木雅之、布袋寅泰、福山雅治、吉田兄弟、在日ファンク、降幡愛、小林柊矢などを手掛けるベテラン・エンジニア。近年流行の“シティーポップ”は最も得意とするサウンド。
TONEFLAKE TR1 Active
99,000円
SPECIFICATIONS
▪形式:リボン ▪感度:−39dBV@1PA ▪指向性:双指向 ▪周波数特性:25Hz〜18kHz ▪出力インピーダンス:200Ω ▪最大SPL:140dB ▪電源:48Vファンタム電源 ▪重量:500g ▪外径寸法:57(W)×195(H)×27(D)×mm