「TELEFUNKEN C12」製品レビュー:AKG C12の設計図を元に作ったカプセルを搭載する真空管マイク

 

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 AKGを代表するコンデンサー・マイクの一つ、C12。シルキーかつ上品な音色で、多くのエンジニアやアーティストを魅了してきた名機だ。そのC12をTELEFUNKENが復刻した。数多くのTELEFUNKEN製マイクを使用し、個人的にも数本所有している筆者。同社マイクのサウンドには厚い信頼を寄せていて、今回のC12への期待も高まる。

 

6072三極真空管を搭載
指向性は無指向から双指向の9段階

 まずTELEFUNKENとAKGの関係について説明しておこう。時は1950年代後半。TELEFUNKENはゲオルグ・ノイマン氏とU47の販売契約が更新されなかったことをきっかけに、U47に代わるマイク開発のためAKGと技術提携を結んだ。これを期に誕生したのがTELEFUNKEN Ela M 251なのだが、そのデザインは製造段階にあったAKG C12から着想を得ており、C12にも搭載されているCK-12カプセルが用いられていた。このような経緯からTELEFUNKENがAKG C12を復活させたことに合点がいくだろう。

 

 AKG C12はシャンパン・ゴールドの金属を梨地加工しているのに対し、このTELEFUNKEN C12はパール・グレーの塗装仕上げが施されている。AKG C12を現代によみがえらせるべく、TELEFUNKEN C12はオリジナル・モデルの設計図を元に再現したCK-12カプセルを搭載する。多くのカプセルは動作電圧を供給するケーブルがダイアフラムの中央に結線されているが、CK-12カプセルはダイアフラム・ホルダーに結線されているのが特徴だ。CK-12カプセルは、AKG C12だと結線場所がホルダーの右斜め上で(個体により違う可能性あり)、TELEFUNKEN C12ではホルダーの右斜め下となっている。細かい部分ではあるが、ビンテージのCK-12カプセルと違いはあるようだ。そのほか6072三極真空管や出力回路、出力トランスといったコンポーネントは、オリジナルそのままの復活を遂げているという。

 

 ビンテージ調の専用電源ユニットは、指向性を無指向から双指向の間で9段階から選べるスイッチを搭載。ケーブル(XLR8ピン)とマイクは、ねじ込み式の特殊なコネクターで接続する仕様だ

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電源ユニット。指向性を双指向から無指向の9段階で設定できるノブを装備する。その下にはインプット(XLR8ピン)とアウトプット(XLR)がスタンバイ

演奏をリアルに伝える倍音豊かな音色
強奏でもにじむことなくひずみ感も皆無

 AKG C12を長年使ってきた経験上、TELEFUNKEN C12が万能なマイクでないことは予想できる。AKG C12は、太い声のボーカリストだと低域が奇麗にシェイプされて良い結果を得られる場合が多いが、細い声のボーカリストでは倍音成分が強過ぎると感じている。AKG C12では、NEUMANN U87のように“取りあえず形になる”といった音色は得られない。声に合わないときは歌が前に出てこない上、歯擦音の多さ故に歌い手が音程を取りづらいという事態も起こり得る。

 

 まずはボーカルに試してみよう。TELEFUNKEN C12が手元にあった期間、実にさまざまなアーティストの歌を録る機会に恵まれたので、新旧のC12で比較させていただいた。TELEFUNKEN C12はとにかく倍音豊かでクリア。そのためアーティストからは“ピッチが取りやすく気持ちよく歌える”と好評であった。声にマッチすると息遣いや言葉の一つ一つを鮮明に再現し、きめ細かな心地良いニュアンスで収音してくれる。アカペラの多重録音でゴスペル的な録音にもトライしたが、その結果は予想通り。ハーモニーが豊かな倍音によりふっくらと描写され、嫌なひずみっぽさを一切感じない。デジタル・レコーディングにおいて、これだけ美しく倍音を整えられるマイクにはあまり出会ったことがない。

 

 筆者にとってAKG C12は、アコギ録音のファースト・チョイス。今回はTELEFUNKEN C12でMARTIN D-45(1950年代)のストロークを録った。クールでありながらも、しっかりと熱量を感じる。弱奏ではまるで生そのものと言いたくなる質感を持ち、強奏でも一切にじみが出ない。長きにわたって活躍してきたAKG C12と比べると中高域に若干ピークを感じるが、恐らくエイジングで解消されるのだと思う。

 

  次に試すのはピアノ。筆者はピアノから2mほどの地点にAKG C12のステレオ仕様であるC24をセットすることが多い。今回もその距離に新旧のC12をマイキングした。厳密に聴くとやはりTELEFUNKEN C12は中高域に若干ピークを感じるが、エイジングを考慮すればAKG C12とほぼ同じ音色。新旧のC12でパンを開いてステレオで検聴したところ、位相の乱れによる違和感が少なかった。各マイクの音色およびレベル感が近い証拠だ。TELEFUNKEN C12は透明なタッチを誇張することなく倍音豊かにとらえ、芯をくっきりと表現する。適度な厚みを備えつつクリアで、控えめな低域からは静かなエネルギーを感じる。余韻の乗り方も実にリアルだ。

 

 そのほかストリングスやトランペット、テナー・サックスなど、さまざまな楽器でテストしたところ、どれもスムーズで心地良い音調であった。耳障りなピークやひずみ感も皆無。一方チェレスタやマンドリンのような楽器では、芯の部分が再現されず力不足に感じる結果となった。

 

 TELEFUNKEN C12はAKG C12の良い点も悪い点も見事に再現したマイクである。万能なマイクではないものの、太い声のボーカリストなどには抜群にマッチし、素晴らしいパフォーマンスを発揮する。演奏/録音のありさまをストレートにとらえてくれる名機だとあらためて感じた。

 

 最近筆者が購入する機材は、安定したコンディションのリイシュー・モデルが多い。TELEFUNKEN C12も本気で購入を検討しているが、問題はその価格。趣味のLEICAカメラのレンズを1本我慢すればステレオで……と電卓をたたいているところだ。ちなみに今回TELEFUNKEN C12で録音したボーカル、アコギ、ピアノは、鈴木雅之『ALL TIME ROCK 'N' ROLL』のディスク1と3で聴くことができる。中でもアカペラの倍音のまとまり感は必聴だ。

 

問合せ:宮地商会 M.I.D.

製品ページ:https://miyaji.co.jp/TELEFUNKEN/products/Diamond-series/C12.php

 

TELEFUNKEN C12

オープン・プライス

(市場予想価格:1,100,000円前後)

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SPECIFICATIONS カプセル:CK-12 ▪真空管:6072 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪指向性:無指向〜双指向(9段階) ▪インピーダンス:200Ω ▪最大音圧レベル:138dB SPL ▪外形寸法:254(H)×41.3(φ)mm ▪重量:567g(本体) ▪付属品:ロッキング・フライト・ケース、ランチボックス・スタイル・パワー・サプライ、木製マイク・ボックス、ショック・マウント