「SYM・PROCEED SP-MP500」製品レビュー:トランスペアレントな音を追求したAPI 500互換モジュールのマイクプリ

f:id:rittor_snrec:20210701161900j:plain

 今回レビューするのはSYM・PROCEED SP-MP500。API 500互換モジュールのマイク・プリアンプです。SYM・PROCEEDと言えば、約10年前にマイク・プリアンプSP-MP4をリリースし、その色付けの無いピュアなサウンドが話題になっていました。今回はそれからさらに高性能に進化してSP-MP500となって登場です。

パーツを厳選して洗練された基板回路
固定抵抗によるゲイン調整で音質劣化を防ぐ

 マットなシルバーで統一されたフロント・パネルはとにかく洗練されている印象です。質感高い7mm厚のアルミ削り出しパネルはいかにも高級そうで、実際に相当なコストがかかっていると思われます。このアルミ・パネルは衛星やレース・マシン用部品の金属加工も手掛ける入曽精密製だそうで、フロント・パネルの質感だけでもSP-MP500が他メーカーのAPI 500互換モジュールとは一線を画した設計思想になっていることがうかがえます。

 

 操作子は至ってシンプルです。上からゲイン調整ノブ、–20dBのPADスイッチ、ローカット・スイッチ、位相反転スイッチ、48Vファンタム電源スイッチが並びます。

 

 ここで一点、PADスイッチとローカット・スイッチについて注意点があります。説明書にも記載されていますが、PADスイッチとローカット・スイッチを同時にオンにするとPADの減衰量が–30dBほどになり、本来–6dB Oct@50Hzであるローカットのカットオフ周波数はかなり上の帯域にシフトするため、結果的にティルトEQのようなカーブになります。このカーブに何らかの利用用途があるかは未検証ですが、基本的に本機のPADスイッチとローカット・スイッチは同時使用には注意しておいた方がよいでしょう。

 

 内部の基板回路を見ると、この製品の洗練具合がさらに印象付けられました。まずはそのパーツの少なさに驚かされます。一般的なAPI 500互換モジュールは、抵抗やコンデンサーなどのパーツ類がところ狭しと挿入実装されている場合がほとんどですが、SP-MP500は通常の1/3程度まで絞られた少量のパーツが表面実装され、その中にオーディオ用として定評のあるNICHICON Museコンデンサーが一際目立つ格好になっています。この設計はピュアな音質が得られることに加えて、製作上の誤差を極力少なくして製品の個体差を無くす面でも大いに貢献しているのでしょう。

f:id:rittor_snrec:20210701162021j:plain

SP-MP500の基板。一般的なプリアンプ回路と比べ、部品点数を1/3まで絞り込んでいる。音質劣化につながる可変抵抗ではなく、固定抵抗による3dBステップ・ゲイン・セレクターを搭載。また、ハイエンドなコンソールなどに使われるMuseコンデンサーも採用された

 そしてもう一つ目立つのがゲイン調整用のパーツであるロータリー・スイッチ。他製品は製造コストの面からゲイン調整用に可変抵抗器が使用されているケースもありますが、音質を考えるとロータリー・スイッチに固定抵抗を直付けしたこの方式が好まれます。理想とする音質をSP-MP500で妥協無く追求していることが伝わってきますね。

 

色付け無く音の輪郭をはっきりととらえる
ひずみは低く抑えられて解像度も高い

 筆者の拠点であるEndhits Studioでのボーカル録音にSP-MP500を持ち込みました。マイク・フィッティングの段階で、他社API 500互換マイクプリと比較していきます。

 

 SP-MP500の音質は非常にトランスペアレントです。色付けが無く、音の輪郭をはっきりととらえますが、シビランスやプロシブが耳に刺さるような痛さは全くありません。SN比が良く、ひずみも低く抑えられており、解像度もとても高いです。

 

 今回は最終的にBRAUNER VM1とNEUMANN M149 Tubeとの組み合わせで使用しました。ボーカリストが声を張った場合もサウンドが張り付かず、小さめにニュアンスを出したときも埋もれないこの感じは、“トランスペアレントとはこういうことか”と教えてもらっている気分になります。

 

 次に、リボン・マイクとの組み合わせでドラム録音を試してみました。筆者はリボン・マイクには高い入力インピーダンスを持つマイクプリを組み合わせることを好むのですが、200kΩという非常に高い入力インピーダンスを持つ本機との組み合わせをぜひとも聴いてみたかったのです。

 

 マイクはAEA R84で、ワンポイントでドラム正面1.2m付近にドラム・キット全体を狙う位置にマイキングします。そして、同じマイクをSP-MP500をはじめ、他社マイクプリ数種類と差し替えながら録音して比較試聴してみました。大きな違いが現れたのは低域。SP-MP500を使用したトラックはキックの量感がふくよかで、スネアも含めたキット全体の重心が下がった印象を受けます。そして、ほかのマイクプリと比べてシンバル類は若干落ち着いた印象で、アタックとサステインを含めたディテールがよく見えるので、シンバルのモデルや部屋の響きの違いも聴き分けやすくなるでしょう。

 

 筆者はこのSP-MP500とパッシブ・タイプのリボン・マイクを組み合わせたサウンドが非常に気に入りました。AEAやCOLES、MESANOVICなどのリボン・マイクと組み合わせて、ドラムのトップ・マイクやストリングス・セクションのルーム・マイク、ピアノのオフマイクなどに使っても良さそうです。

 

 今回は試せませんでしたが、この傾向はダイナミック・マイクでも同様だと思われ、ディストーション・ギターのアンプのオンマイクが少し飽和気味でいまいち抜けてこなかったり、逆に耳に痛い場合など、自然な形で解決できる気がします。

 

 “原音忠実”や“トランスペアレント”をうたう製品は往々にして音が細く感じるものもありますが、SP-MP500はそこにわずかな温もりや色気のようなものを感じ取れる点が特徴だと思います。もちろん、トランスを積んだトラディショナルなマイクプリに親しんでいる方は本機のサウンドを細いと感じる場合もあるかもしれませんが、このトランスペアレント・サウンドは一度試してみる価値があります。サウンド・メイクの選択肢が増えることに喜びを感じることになるでしょう。

 

中村フミト
【Profile】Endhits Studioを拠点に録音からミックス、マスタリングまでを手掛けるエンジニア。直近では、にしな、The Songbards、GOOD BYE APRIL、仲手川祐介らの作品に携わっている

 

SYM・PROCEED SP-MP500

127,600円

f:id:rittor_snrec:20210701161900j:plain

SPECIFICATIONS
▪周波数特性:1Hz〜300kHz ▪全高調波ひずみ:0.0006% ▪出力インピーダンス:150Ω ▪最大入力レベル:+24dBu ▪最大出力レベル:+24dBu ▪ゲイン:0〜66dB(3dBごと23ステップ) ▪外形寸法:38(W)×133(H)、171(D)mm(実測値) ▪重量:339g(実測値)

製品情報

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp