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「SPL Mercury」製品レビュー:独自のオペアンプ動作技術を採用したマスタリングDAコンバーター

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 SPLはドイツの有名なハードウェア・メーカーです。マスタリングに使用できるハードウェアを作る会社が昨今減っている中、SPLのマスタリング・シリーズにステレオDAコンバーターのMercuryが加わりました。Model 1730(Black)、Model 1733(All Black)、Model 1734(Red)の3色をラインナップしています。今回はModel 1733を使用して、レビューしていきたいと思います。

 

広いダイナミック・レンジを確保する
デュアル・ローパス・フィルターを搭載

 

 本体は1Uのコンパクトな形に収められていますが、入力端子が豊富です。AES/EBU、S/P DIFオプティカル、S/P D IFコアキシャルが2系統ずつとUSB(Mac/Windows対応)が1系統の、計7系統のデジタル入力を用意しています。各入力はフロント・パネルのボタンで選択可能です。AES/EBU入力のうちAES 2と書かれた2つの端子は、ケーブル2本でL/Rそれぞれの192kHz信号を扱うDual-Wireモードに対応できます。どの入力を使っても、最高24ビット/192kHzのPCM信号を受けることが可能です。ただしS/P DIFオプティカル入力から176.4kHzまたは192kHzで伝送を行う場合は、使用する光ファイバー・ケーブルの品質によって差が出る場合があります。なので、なるべく高品質な光ファイバー・ケーブルを使用しましょう。

 

 また、コンピューターにハイレゾ音源を再生できるソフトと音源をお持ちの場合は、リア・パネルの端にあるUSB端子からコンピューターと接続することにより、Mercuryをコンピューター内の音源の出力用DAコンバーターとして使用できます。サンプル・レートは最高24ビット/768kHzのPCM信号とDSD256(11.2MHz)まで対応。コンピューターがMacであればMercuryを認識させるためのドライバーは不要ですが、Windowsの場合はSPLのWebサイトからドライバーをダウンロードする必要があります。外部ワード・クロックを使用したい場合はWORD INにBNCケーブルをつなぎ、フロント・パネルにあるSyncボタンでWordを選択して使います。

 

 アナログ出力にはバランス出力(XLR)で、FIX OUTとVAR OUTの2系統を装備。FIX OUTは、リファレンス・レベルを0dBFS=14/15/16/18/20/22/24dBuの固定値から選択できます。値の切り替えは、フロント・パネルにあるSyncボタンを2秒ほど長押しすると選択可能モードになり、Syncボタンを押していくことで値が次々に切り替わります。VAR OUTはフロント・パネル右端にあるOUTPUTと書かれたノブによって、ボリュームを調整できます。このボリューム・ノブの良い点は、昨今のDAコンバーターに多いデジタル処理ではなく、アナログ処理を採用しているところです。

 

 アナログ回路にはSPLが独自に開発した120Vテクノロジーによる、デュアル・ローパス・フィルターのDLP120モジュールを使用しています。120Vテクノロジーは、ハイボルテージでオペアンプを動作させる技術のことで、これにより広いダイナミック・レンジを実現するとともに、SN比の悪化とひずみを抑えることができます。DLP120という2つのアナログ・デュアル・ローパス・フィルターは、入力されたデジタル信号のタイプ(PCM、DSD)に応じた方へ通されるので、より広いダイナミック・レンジを確保しているのです。  D/AチップはAKM AK4490を搭載。最高32ビット/76 8kHzのPCMとDSD256(11.2MHz)で処理して、24ビットで出力します。

 

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リア・パネル。左からグランド・リフトスイッチ、バランス出力L/R FIX OUT/VAR OUT(XLR)、WORD IN(BNC)を装備している。入力は、AES/EBU×2(XLR)(そのうち1系統はDual-Wireモード対応)、S/P DIFオプティカル(TOSLINK)、S/P DIFコアキシャル(AES)×2、USB端子(Mac/Windows対応)を装備している

抜け感がプラスされた明るい音色
重低音がモタつかず奇麗に伸びる

 Mercuryは聴きたい音源をデジタル入力して、2系統のアナログ出力のうち好きな方をモニター・コントローラーなどにつなぎ、フロント・パネルのボタンでインプットしたデジタル信号を選択するだけというシンプルな操作で使用できます。また、動作に問題がある場合はSyncボタンが点滅するほか、デジタル信号の種類選択、サンプル・レート設定、アナログ出力のリファレンス・レベル設定などがフロント・パネルに集約されているので、視認性にも優れていますね。

 

 また可変式のアナログ出力を搭載していることで、モニターのボリューム・コントローラーとして使用したり、DA変換後の音をほかの機材へ送るためのレベル調整に使用できるなど、使い勝手が良いところも魅力の一つです。

 

 音質はSPLのコンプレッサー、Ironに搭載されているフィルターAirBassの特性に似て、高域と低域が奇麗に伸びている印象です。もちろん音源のスペックやジャンルによっては“伸びる”のか“強調される”のかといった違いは出てくるでしょう。PCM音源を試聴すると、高域は子音辺りからその上のエア成分へ、低域は重低音がモタつかない伸び方をしていて、音源に影響が少ない形で音抜けが良くなるように配慮されていると感じます。DSD音源を聴いてみると、DSD特有の高解像度なサウンドに高域と低域の伸びがプラスされていると感じました。

 

 PCM/DSD音源のどちらを試聴しても音に抜け感が出て明るく聴こえてくる印象です。なので、録音現場のスピーカーの音抜けに苦労されている方は、モニター専用のDAコンバーターとして導入するのもよいかもしれません。マスタリング現場でアナログ機材による処理をメインで行っている方は、送りのレベル切り替えをするための機材として使い勝手が良いと感じられるでしょう。USBでコンピューターに直接つなげることもできるので、エンジニアだけでなくPCオーディオの再生用としても、さまざまな方にお薦めしたいです。

 

 ■製品情報

www.electori.co.jp

 

SPL Mercury

340,000円

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SPECIFICATIONS ▪外形寸法:482(W)×44(H)×300(D)mm ▪重量:4.8kg ●アナログ ▪最大出力レベル:+32.5dBu ▪リファレンス・レベル:0dBFS=14/15/16/18/20/22/24d Bu ▪ダイナミック・レンジ:127.5dB(アナログ)、120dB(デジタル) 119dB(0dBFS=24dBuで測定) ▪出力インピーダンス:100Ω(バランス) ▪騒音レベル:−95dBu(A-weighted) ▪全高調波ひずみ率:−101dB@1kHz、20dBu ●デジタル ▪入力:最高24ビット/192kHz ▪ダイナミック・レンジ:120dBu ▪全高調波ひずみ率:−112dB

 

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