第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、パール・ジャム『ギガトン』 、EOB『アース』です。
聴感レベルが少し控えめに作られた自然な音像
耳に痛くなく太さのある中高域や少し腰高な低域
パール・ジャムが6年半ぶりの新作を発表しました。今作では、ジョシュ・エヴァンスが共同プロデュースとミックスを兼任しています。このアルバムの特徴は、聴感レベルが少し控えめに作られていることです。これによって全体的に自然な音像が保たれているので、楽曲ごとに各パートの位置関係や高低差、奥行きなどの変化を楽しめます。
中にはニューウェーブ的な楽曲もありますが、彼ら特有の耳に痛くなく太さのある中高域や少し腰高な低域感は健在です。どんなアレンジの曲を聴いても“パール・ジャムらしい”と思えるのはさすがです。いつもよりボリュームを少し上げて、ダイナミック感を楽しんでみてくださいね。
アルバム全体の流れを格好良くするレベル変化
エンジニアとして興味深く面白い
EOBは、レディオヘッドのギタリストであるエド・オブライエンのソロ名義。本作がそのデビュー・アルバムとなります。プロデュースは、U2など数多くの作品を手掛けているフラッドが担当。ジャズやフュージョン界の熟練アーティストであるネイザン・イーストやオマー・ハキムなどを筆頭にゲスト陣も豪華です!
ミックスはアラン・モウルダーとシーザー・エドモンドが務めています。どの曲においても丸めの音質がメインになっているにもかかわらず音抜けもしている点や、ち密に計算されたエフェクトからは実験的な要素も感じました。楽曲がバラエティに富んでいる中で、アルバム全体の流れを格好良くするためのレベル変化についても、エンジニアとして興味深く面白いと感じます。
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア