SPITFIRE AUDIO ABBEY ROAD ORCHESTRA: 1ST VIOLINS PROFESSIONAL レビュー:9種類のレガート奏法や16種類のマイク設定を収録した1stバイオリン音源

SPITFIRE AUDIO ABBEY ROAD ORCHESTRA: 1ST VIOLINS PROFESSIONAL レビュー:9種類のレガート奏法や16種類のマイク設定を収録した1stバイオリン音源

 SPITFIRE AUDIOといえば、とにかくシンフォニー系の音色が抜群に良いという印象。音が良いと、鍵盤で弾いて打ち込むときに頭で描いたフレーズや音色を再現しやすく、また何も浮かんでいない状態でも、それっぽいことを弾いているうちに、音色に呼ばれて良いフレーズが浮かんでくることが多々あります。頭で鳴っている音と実際に鳴る音が近いとよりスムーズに打ち込めますし、まるで自分が一流奏者になったような気分を味わえて、制作へのモチベーションも上がります。ABBEY ROAD ORCHESTRA: 1ST VIOLINS PROFESSIONALは、まさにそんな気分にさせてくれる1stバイオリン専用音源です。

鍵盤のタッチに従順な音色変化でバイオリンを弾いている感覚になれる

 本ソフトは、アビイ・ロード・スタジオにて、一流奏者たちの音を60時間録音し、2,000時間かけてエディットしたとのこと。サンプル数はなんと196,000。なんてリッチでゴージャスなんでしょう。こだわり抜いたレガートパッチが9種類、マイキングも16種類とぜいたくな内容になっています。ワクワクしつつ、とにかく試してみました。

 立ち上げると、まず目に飛び込んでくるのは2つのフェーダーと大きなツマミです(メイン画面を参照)。左側のフェーダーは音量で、右側はダイナミクスです。より生っぽく歌うようなストリングスを打ち込むには、ダイナミクスの細かいコントロールが不可欠なため重要ですし、視覚的にも操作しやすいです。

 右のツマミでは、REVERB/RELEASE/TIGHTNESS/VIBRATO/LEG.OFFSETをコントロールできます。この音源が素晴らしいのは、ここで何をどう調整しても自然に違和感なく変化するところ。パッチを切り替えた際の音量差が気になったりする心配もありません。感覚的に弾いて打ち込むことができます。

 実際に演奏してみると、驚くほどに鍵盤のタッチに従順です。例えば同じ奏法でも、タッチの強弱やタイミングによって繊細かつリアルな変化をします。鍵盤を弾いているはずなのに、バイオリンを弾いている感覚になれるのです。

鍵盤タッチの強弱でデタッシェからポルタメントまで表現

 それでは、本ソフトの真骨頂、レガートパッチを試していきます。一般的に打ち込みストリングスというと、音と音の切れ目がどうしても不自然になりがちですが、この製品はレガートに非常に力を入れています。

 特に、Performance Legato(extended)というパッチが本当に素晴らしいです。鍵盤の演奏速度にリアルタイムで違和感なくついてきます。音色もとても美しくリアルです。タッチを弱めるとポルタメントに切り替わり、強めるとデタッシェの立ち上がりの速い歯切れ良い音色になります。その変化のなんと自然なこと! 音のつなぎ目も非常にスムーズです。また、LYRICAL LEGATO(EXTENDED)はたっぷり歌うフレーズにぴったりの本当に美しい音色です。もうこの2つのパッチだけでずっと弾いていられます。

 さらに、Legato Runsという機敏なレガートも搭載されており、打ち込みストリングスに“あるある”の、駆け上がりや速いパッセージで、スタッカートを別トラックでレイヤーするといったことは不要です。そのほかに、モデラートやアレグロで演奏されたレガートも収録されています。

 レガート以外に、ロング系やスタッカートなどのショート系の奏法も収録されていますが、これらも非常に実用性高いものでした。繊細な音色から、タッチを強めると迫力のある音色に変わったりと、リアルです。また、トレモロはDAWのテンポと同期して反復回数を変えられるのも便利です。

トレモロは150BPMと180BPMの2種類が用意されているが、DAWのテンポに同期させることも可能

トレモロは150BPMと180BPMの2種類が用意されているが、DAWのテンポに同期させることも可能

 どれもリアルで美しくキメの細かい表現ができるので、本ソフトの打ち込みのみでアレンジを完結できるのはもちろん、生のストリングスとの相性も良さそうです。カルテットの生演奏とレイヤーしたり、あるいはソロ音源とレイヤーさせても個性的なサウンドを目指せるでしょう。

 マイクの設定(マイクシグナル)も試してみます。デッカツリーやオンマイクなど16種類が用意されていますが、そのうちMix 1とMix 2は複数のマイクのバランスがあらかじめ取られているプリセットです。Mix 1は全方向に広がりのあるリッチな響きのスタンダードなタイプであるのに対し、Mix 2はよりダイレクトで弦のタッチが感じられる設定でした。

 これら16種類のマイクシグナルは、ユーザーが自在に組み合わせることで、自分好みの個性的な響きを作り出せるのも面白いポイントです。

マイクシグナルの設定画面。Mix 1とMix 2は複数のマイクがミックスされたプリセット。また、Closeは小型ダイアフラムのコンデンサーマイクを使用したオンマイク、Cl. Rib.はリボンマイクによるオンマイク、Pop Mn.は単一指向のステレオバルブ・マイクをセクションの上部に、Pop Rm.は無指向のコンデンサーマイクをセクションの両側にセッティングしたサウンドとなっている

マイクシグナルの設定画面。Mix 1とMix 2は複数のマイクがミックスされたプリセット。また、Closeは小型ダイアフラムのコンデンサーマイクを使用したオンマイク、Cl. Rib.はリボンマイクによるオンマイク、Pop Mn.は単一指向のステレオバルブ・マイクをセクションの上部に、Pop Rm.は無指向のコンデンサーマイクをセクションの両側にセッティングしたサウンドとなっている

 例えば、Pop Mn.(Pop Main)は定位をセンターに寄せたマイキングなのですが、そこにPop Rm.(Pop Room)を足すとより広がりを出せて、バイオリンが左寄りに聴こえるいわゆるスタンダードなストリングスとは異なる存在として表現することができます。さらに、Leader(Sec Ldr)を足すと、弦の繊細な動きをより具体的に感じられました。

 本ソフトは、感覚的に打ち込めて、自由度の高い魅力的な音源です。シネマティック系にはもちろん、ポップスでもより楽曲に華やかさ、品を加えてくれるので、これから私のメインとなるでしょう。ABBEY ROAD ORCHESTRAのシリーズは今後もリリースされていくということなので、チェロ版などにも期待が高まります。

 

MEG.ME
【Profile】作詞家/作曲家/編曲家/キーボーディスト。クラシックからポップスまで多様なジャンルを得意とし、アーティストへの楽曲提供のほか、ミュージカルや舞台音楽なども手掛けるマルチクリエイター。

 

 

 

SPITFIRE AUDIO ABBEY ROAD ORCHESTRA: 1ST VIOLINS PROFESSIONAL

67,243円(価格は為替レートによって変動)

SPITFIRE AUDIO ABBEY ROAD ORCHESTRA: 1ST VIOLINS PROFESSIONAL

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15/11(Intel/ARM)/12(Intel/ARM)。Intel Core i5 クアッドコア2.8GHz(Core i7 2.8GHz 6コア以上を推奨)
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11。Intel Core i5 クアッドコア2.8GHz、またはAMD Ryzen 5(Core i7 2.8GHz 6コア、またはAMD R7 2700以上を推奨
▪共通項目:85.5GB以上のストレージ空き容量(インストール時には倍の空き容量が必要)、インストール先はSSDの使用を推奨、64ビットのホストアプリケーションのみ対応
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST、VST3

製品情報

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