若手からベテランまでが集うことを目的とした、ヒット曲を生み出すための制作拠点
音楽プロデューサー、作編曲家、キーボーディストとして数々のヒット作に関わり、Jポップ界で活躍する本間昭光が、自身のプライベートスタジオ、FORCE RECORDINGSを完成させた。先月号まで、その構築過程に携わった各プロフェッショナルを招く形で概要を紹介してきたが、今回は、本間自身にその全容を伺っていこう。
- Text:Yoshihiko Kawai(Core Creative) Photo:Takashi Yashima
抜群の物差しが出来上がったなという印象
あらためて、プライベートスタジオを造った動機について尋ねると、「これまでも自分の作業場を持ってはいましたが、自分の基準となるような、本当にプライベートスタジオと呼べるホームグラウンドを一から作りたいと思った」とのこと。
「これまでは自分の作業部屋で作った音が良いなと思っても、商業スタジオに持っていくと、違う音の印象になっていることもあり、それはつまり作業部屋の音環境が“物差し”になっていなかったのだと思いました。自分なりに音響環境の整備やケーブルなどのアップデートは図っていたものの、やはり限界があった。そこで、エンジニアの伊東俊郎さんに相談したら、“それならハコから作らないとだめなんじゃないか?”という結論に至ったのです」
そこで本間が考えたのは、「自分の作業部屋であり、いろんな人が集まってこられるような場所」という構想だった。
「そのために広さや間取りなども、人が集まれる物件を探すところからスタートしました。そこに現れたのが、デザインと設計/施工を担当してくれた871DESIGNの花井修平さん、電源工事を手掛けてくれたEMC設計の鈴木洋さんという天才たちです。鈴木さんは以前からお世話になっているACOUSTIC REVIVEの石黒謙、さんからのご紹介でした。彼らが楽しみながら造ってくれたのがこのスタジオなんです。僕がリクエストしたのは、居心地の良い空間と床のヘリンボーンだけ(笑)。この人たちに任せれば、スタジオの機能としては全く問題ないと信頼していたので、実際に初めて音を出したときは、素直な音で余計な響きもないし、抜群の物差しが出来上がったなという印象でした」
続けて、「花井さんも鈴木さんもフォーマットでは動いていないというところが面白かった」と本間。
「プライベートスタジオを、いろんなデータを元にしたフォーマットに則って造るという手法は、一つの正解なのかもしれません。しかし僕としては、天才たちが自由な発想で勝手に造るとどんなものができるのか? それを見たかったんです。これは音楽にも通ずる部分で、僕がアレンジをしたものを自由な発想でミュージシャンたちが演奏すると、素晴らしいものが出来上がるということを経験しているので、それとリンクしています。今回はそれが見事にハマりました」
長く愛されるヒット作を生み出していきたい
FORCE RECORDINGSの大きな特徴は、ボーカルやギターを録れるブースが備わっていること、そして本格的なミックスにも対応できる機材環境が用意されている点だ。
「昨今の音楽事情を鑑みると、制作自体をバジェット受けできる環境があると有利だと思い、録音ブースを造りました。また本格的なミックスもできるようにApple Mac Proを導入し、UNIVERSAL AUDIO UADプラグインも全部そろえています。モニター環境はGENELEC 8341Aをメインに、サブウーファーも7360Aを2台導入しました。余裕のある音空間を作れていると思います。“本間昭光にお願いすれば、歌録りからミックスまで時間を気にせず、スタジオで作業に没頭できる”というのはメリットだと思いますし、オールインクルーシブというのがこれからの時代の流れだと思うんです」
さらに、スタジオにはRhodesやWURLITZER、moog minimoog、SEQUENTIAL prophet-5、Roland JUPITER-6などの各種キーボードも用意されている。
「普段のアレンジ作業はソフト音源がメインですが、これらはワンアンドオンリーな楽器なので、ここぞというときに使うと思います。あと、ギターやベースも所有しているのは、リフを考えるときに実際に使っているからです。ポルノグラフィティをプロデュースしている時代からやっていて、各種のギターをそろえて、音色とリンクしたフレーズを考えているんです。もちろん自分でも弾けるくらいの難易度になりますけどね。でも、自分の専門外の楽器を演奏することは、クリエイターとしてとても大事なことで、レコーディングでミュージシャンを呼んだときに、リクエストする内容が変わってきますし、バイオリンなどは、この音域だと実際に演奏する際に大変だな、などフレージングの勉強にもなります」
各種のマイクプリをはじめとするアウトボード類をそろえているのも同じ理由とのこと。
「いろんな有名プラグインがソフトで再現されていますが、実機を使うと、つまみを操作したときのかかり具合や個体差による音の違いなどがよく分かるので、その上でプラグインを使うと、より理想の音に近づけることができると思います」
最後にスタジオ名の由来について尋ねてみた。
「映画『スター・ウォーズ』にあやかって付けたのですが、それは当時、誰も思いつかなかった宇宙の物語をクリエイトした作品で、いまだに作られ続けていて多くの人たちに愛されているからです。僕も同じように長く愛されるような新しいヒット作を生み出していきたいですね。このスタジオを通して、若い人もベテランも絡んでいってヒット作を作る。そんな拠点にできたらと良いなと思っています」
仕事の息抜き、何してます?
仕事自体が息抜きみたいなものなので、特に休憩もなく一気に進めてしまうことが多いです。あえて言うなら、何か調べる必要のあるときにインターネットで情報を検索していると、関係ないページにまで飛んでしまい時間を使っていることがあるので、それが息抜きになっているのかもしれません。
Profile
本間昭光:作編曲家/キーボーディスト/プロデューサー。ポルノグラフィティ、浜崎あゆみ、槇原敬之、鈴木雅之、いきものがかり、天童よしみ、木村カエラ、岡崎体育、Little Glee Monster、降幡愛、関ジャニ∞など、多彩なアーティストを手掛け、ミュージカルの音楽監督も務める。
Recent Work
『○』
いきものがかり
(ソニー・ミュージックレーベル EPICレコードジャパン)
特集|Private Studio 2024