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SONY MDR-MV1 レビュー:空間再現を得意とし立体音響も見据えた背面開放型モニター・ヘッドフォン

SONY MDR-MV1 レビュー:空間再現を得意とし立体音響も見据えた背面開放型モニター・ヘッドフォン

 モニター・ヘッドフォン界の雄であるSONYより、優れた音場空間を再現するというヘッドフォン、MDR-MV1の登場です。同社がこれまで発売してきたMDR-CD900STやMDR-M1STといったスタジオ・ユースのヘッドフォンは、国内はもちろん海外の主要スタジオにも常備されています。そんなプロ・オーディオや楽曲制作の現場から多くのラブコールを受けるSONYが新発売したMDR-MV1は、“背面開放型”という方式の一台です。

軽量で装着性が良く長時間の使用も可能

 製品概要からチェックしましょう。まずは外観。持った瞬間“軽い!”と心の声が漏れ出すぐらい、軽量に作られています。実際はMDR-CD900STより重量がありますが(223g)、姿形からは予想できないほど軽いです。長時間ヘッドフォンを使っていると、ちょっとの重さが疲れに直結するので、これはうれしい特徴ですね。イア・パッドも高級感たっぷりのスエード調人工皮革で装着性が良く、苦もなく何時間も使えることでしょう。イア・パッドとハウジングまでの厚みは、MDR-CD900STやMDR-M1STの倍以上のボリューム感。この厚みだからこそ奏でられる正確な音場の再現が、MDR-MV1の特徴の一つと言えるでしょう。

スエード調人工皮革を使用したイア・パッド。

スエード調人工皮革を使用したイア・パッド。

着脱式のケーブル(左)と、ステレオ・フォーンをステレオ・ミニに変換するアダプター(右)が付属。ケーブルと本体の接続部はスクリュー式で固定される仕様

着脱式のケーブル(左)と、ステレオ・フォーンをステレオ・ミニに変換するアダプター(右)が付属。ケーブルと本体の接続部はスクリュー式で固定される仕様

専用ドライバーにより5Hz〜80kHzの再生を実現

 内部を詳しく見ていきます。ドライバー・ユニットはMDR-CD900STやMDR-M1STと同じ40mm径ですが、MDR-MV1専用に刷新されています。表情豊かな低域とタイトで切れの良い中域、そしてハイレゾ音源の伸びた高域まで対応できるよう5Hz〜80kHzの超広帯域再生を実現しています。

 続いてはハウジングについて。これはヘッドフォンの外側の箱のことで、ドライバー・ユニット背面の空気の流れをコントロールする重要な部品です。密閉型の場合、ドライバー・ユニットとハウジング間の空気室が密閉され、あたかもギターのボディのように共振するため、音源が持っているすごみのある音や低域の再現が得意。一方で開放型は、スピーカーのように音場の臨場感は素晴らしいのですが、低域が薄れるのが従来の欠点でした。MDR-MV1はこの問題点を乗り越えるべく、継ぎ目のないアルミ構造のハウジングをデザイン。特徴的な丸穴(天面)とスリット穴(側面)により共鳴を起こさず、自然で充実した低域の再生を追求しています。

音の動きや奥行き感を明確に捉えられる

 実際に、マスタリング中のシティポップの2ミックス(24ビット/192kHz)を聴いてチェックしましょう。弊社マスタリング・ルームのスピーカーの音をリファレンスに、MDR-CD900STやMDR-M1STとも比べながら試してみました。

 全体的なサウンド・キャラクターは開放型特有の音で、スタジオのラージ・スピーカーのような感覚がたっぷりとあります。ただし、圧倒的なステージ空間やワイドなライブ・サウンドを過剰に演出する、高額なハイグレード・ヘッドフォンとは別物で、“空間での音の動き”をしっかりと捉えることに重きを置いたヘッドフォンです。例えばエレピの音が右から左に流れるのを想像してください。これまでのヘッドフォンでは、音がRchからまっすぐにLchに移動していましたが、MDR-MV1では、音があたかも右から徐々に前に向かって奥行きを伴って近づき、そして左に移動しながら後退していくような感じがします。楽器の定位感が鮮明で、音の動きが明確にモニタリングできるからこそ、本来の音源に備わっている奥行き感を再現できるのでしょう。特にボーカルに付いたリバーブの動きやカッティング・ギターの躍動感、SEなどの微妙なパンニングのポイントを驚くほどしっかり把握できます。

低音の定位感まで見通せる

 次は各帯域の特徴について。まずは低域ですが、恐らく今まで筆者が使ったヘッドフォンの中で、一番良いかもしれません。近頃の開放型ヘッドフォンは、スピーカーの代わりになると言われ、高額なモデルが広く親しまれるようになりました。その一番の理由は、低域の再現性が担保されるようになってきたことでしょう。しかし、音量的な低音は感じられても、定位感まで見通せるものは少なく、ほとんどのモデルにおいて、低音が真ん中ではなく左右の耳から聴こえる印象です。しかしMDR-MV1の場合、低音はしっかりと正面中央に鎮座し、キックも本来あるべきところに位置しています。これは、ルーム・チューニングを施したスタジオのスピーカーでないと聴けない表現です。また、低域と中低域の分離感も良く、超低域のロールオフと相まって過渡特性にも優れ、立体的な音像を感じられます。特にキックのテール部分を見通せるので、コンプレッサーの使い方も今後は変わりそうです。

 中域はフラットで鮮明。ストリーミング・サービスのチャートのトップに入るような楽曲は、中域を細かく仕上げている印象ですが、これは見通しの良いモニター環境がなければできません。MDR-MV1には余計な脚色がなく、歯切れも良い。M/S処理でサイド部分をふくよかに作り上げる技も、このヘッドフォンのみで仕上がります。そして高域は“天井知らず”。SONYのお家芸の透明感は、ここでも健在です。

 最後は気になるイマーシブ・オーディオでのチェックですが、正直ここまですごいとは。恐らく、ミドルクラスのスピーカーでも、この空間は簡単に再現できません。代々木競技場第一体育館で収録したライブ音源と、弊社制作のJポップの音源を360 Reality AudioとDolby Atmosでチェックしてみたところ、いずれも音の動きや、耳から上のハイト・スピーカーにあたる部分の表現力が圧巻。ライブ会場のうねりや、ステージから会場後方へ流れる低音の感じ、天井に抜けていくスネアやハイハットは会場の音そのものです。MDR-MV1は、今後のデファクト・スタンダードになり得るヘッドフォンで、特にイマーシブ・オーディオ制作については、このヘッドフォンなしでは語れなくなるでしょう。

 

Chester Beatty
【Profile】テクノ・プロデューサー。TRESOR、Turbo Recordings、BPitch Controlなどから自作を発表。日本レコーディングエンジニア協会理事。イマーシブ・オーディオ専門の山麓丸スタジオに所属。

 

SONY MDR-MV1

オープン・プライス

(市場予想価格:59,400円前後)

SONY MDR-MV1

SPECIFICATIONS
▪形式:オープン・バック・ダイナミック型 ▪ドライバー径:40mm ▪周波数特性:5Hz~80kHz(国際電気標準会議の規格による測定値) ▪最大入力:1,500mW(国際電気標準会議の規格による測定値) ▪感度:100dB/mW ▪インピーダンス:24Ω(@1kHz) ▪重量:約223g(ケーブル含まず)

製品情報

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