「SOFTUBE Tape Echoes」製品レビュー:往年のビンテージ・テープ・エコーをモデリングしたプラグイン

「SOFTUBE Tape Echoes」製品レビュー:往年のビンテージ・テープ・エコーをモデリングしたプラグイン

 高品位なモデリング・プラグインを多数ラインナップしているSOFTUBE。同社から“Resoundingly dirty”(圧倒的にダーティ)という謳い文句を掲げ発表された、その名もズバリTape Echoesを紹介する。各社からテープ・エコーをエミュレートしたプラグインは多数発売されているが、SOFTUBEの目指したテープ・エコーはどのようなものなのだろうか。

一つのツマミで理想のダーティ具合へ容易に到達できる

 インターフェースをなぞりながら、その特徴をひも解いてみよう。最初に紹介しておかねばならないのが、下段中央に位置するDIRTセクション。これが音色キャラクターの決め手となっている部分だ。アナログ・テープ・レコーダーのネガティブな特徴として、回転系の精度に起因するワウ・フラッター(音揺れ)、アナログ磁気記録の宿命であるハイ落ち、クロストーク(トラック間の音漏れ)、磁気テープの状態や不純物の付着などに起因するドロップ・アウト(音抜けや音飛び)などが存在する。これらが音像の濁りやゆがみ(=ダーティ)を生んでしまうのだが、逆にアナログ的な温かみやローファイ感を演出していると、ポジティブにとらえることもできる。このダーティさの付加こそが、ハード/ソフトにかかわらず、テープ・エコーが今でも好まれる最大の理由であろう。

 

 これらの濁り要素を個別にコントロールできるテープ・エコー・プラグインは幾つも存在するのだが、実機の機能に忠実すぎる故、どれをどのくらいに設定すれば求める音像が作れるのか分かりづらいものが多い。Tape Echoesではこれらの濁りを連動させて、一つのツマミでコントロールする仕様になっている。DIRTセクションを左のCLEANから上げていくと徐々にハイ落ちが始まり、ノイズ・レベルが上がり、次第にワウ・フラッターが増し、最後にはドロップ・アウトが生じるほどバッドな状態になっていく。その変化がなんとも絶妙で、求めるダーティ具合に容易に到達できるのだ。この使いやすさが、Tape Echoes最大の特徴だと言える。

さまざまなテープ・エコーの良いとこ取りを実現

 では、あらためて下段左端から。DRIVEはいわゆるインプット。上げていくことでプリアンプのサチュレーションや、テープ・ディストーションなどが増していく、これもまたダーティに深くかかわる部分だ。その右隣のセクションはトグル・スイッチの切り換えで、3つの機能が表示される。IMAGINGではエフェクトの音像感を調整可能。

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IMAGINGセクションの表示画面。エフェクトの音像感を調整できる

 先のダーティ要素を、左右独立して引き起こすのがDUAL、リンクさせるのがNORMAL STEREOだ。L/R脈略なく発生するDUALの方がより広がった音像になる。REVERBは独立して付加できるのだが、エコーの前に置き、リバーブがかかった音をリピートさせるのか(BEFORE ECHOS)、エコーとは分離したリバーブとして使うのか(PARALLEL)を選べる。ECHO PANORAMAはエコー成分の左右量感をコントロールする……いわゆるパンポット的なパラメーターだ。

 

 VUセクションはDRIVE後の信号レベルを表示、FILTERSセクションにはLOW CUT/HIGH CUTが備わっている。

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VUセクションの表示画面。DRIVE使用後の信号レベルが表示される

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FILTERSセクションの表示画面。LOW CUT/HIGH CUTのノブが備わっている

 DIRTセクション右にあるNUMBER OF ECHO TAPSは何系統のディレイを使うかを決めるツマミ。SINGLEからDUAL、TRIPLEまでそのリターン・レベルをシームレスに増やすことができ、FEEDBACKツマミによって、それら全体のリピート量を調整する。右端にはREVERB、DRY/WET、OUTPUTが並ぶが、このOUTPUTはエフェクト音のみを下げることしかできない点に注意。

 

 上段に移ろう。左端がECHOのオン/オフ。その隣のTAP TEMPOは文字通りテンポを手動入力するためのもの。その隣が、DELAY TIMEを自由に設定するかDAWのテンポに同期させるかの切り替え。スライダーでディレイ・タイムを調整していくと上部に細かくタイムが表示されるのだが、これはあくまでFREE時のタイムに沿っており、SYNC時にはスライダー下の音符表記の長さになる。そして、スライダーを一番左にすることでJUST DIRTというモードになり、ECHO TAPは一つのみ、しかも極力遅れない状態になり、いわゆるADT的な効果を得ることができる。

 

 右のTAPE GLITCHスイッチは、一瞬テープ・スピードを変化させ、ピッチやタイムを変化させるエフェクトを得るためのもの。TAPE STOPに似ているが、完全に止まるわけではなく、最終的に元の動作に戻る。押したとき、離したときの両方でグリッチ効果が発生する。

 

 モデリングが得意なSOFTUBEだが、テープ・エコーに関して“理想の一台”には巡り会えなかったらしい。求めるダーティを生み出すための“良いとこ取り”を突き詰めることで完成を見たTape Echoes。DTM初心者からプロまで、その高いクオリティを手軽に引き出せる出来栄えになっている。

 

林憲一
【Profile】ビクタースタジオでサザンオールスターズなどの作品制作に携わった後、フリーランスのレコーディング・エンジニアに。近年は miwaや石崎ひゅーい、DISH//、村松崇継らの作品を手掛けている。

 

SOFTUBE Tape Echoes

オープン・プライス

(市場予想価格:9,900円前後)

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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降、Core I3以上のINTEL製CPU、AAX/AU/VST/VST3対応のDAW
▪Windows:Windows 10(64ビット)、INTEL Core I3またはAMDクアッド・コア以上のCPU、AAX/VST/VST3対応のDAW
▪共通項目:1,280x800以上の画面解像度、8GB以上のRAM、8GB以上のドライブ・スペース、iLokアカウント

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