Empirical Labs Mike-E Comp(写真上段)、Empirical Labs Lil FrEQ(同下段)
今回レビューするのはSOFTUBE Empirical Labs Complete Collection。プリアンプの再現とコンプを統合したプラグインEmpirical Labs Mike-E Comp(以下、Mike-E Comp)と、ディエッサーを兼ね備えるEQプラグインEmpirical Labs Lil FrEQ(以下、Lil FrEQ)、両者をSOFTUBE Console 1向けにモジュール化したEmpirical Labs Trak Pak for Console 1の3つを同梱したバンドルです。
アナログ・テープのエンファシスを再現する
Empirical Labs Mike-E Comp
まずはMike-E Compから見ていきましょう。画面上段には、左からCOMPSATセクションとOUTセクション、同下段には左から入力メーター、PREAMPセクション、80HzでローカットするHI-PASSボタン、PHASEボタン、ドライ/ウェットを調整するMIXセクション、出力メーターを搭載。なお、シグナルの流れは水色の三角形で分かるようになっています。
チェックでは、ドラムやベース、ボーカルなどあらゆるトラックで試してみました。まずはPREAMPセクションにてゲイン値を上げていくと、徐々に倍音が増えていきます。同時にサチュレーションの量を示す“Thresh〜Toasty”メーターも上昇。ゲインを最大の18dBにすると、内部クリップを示す“BAD!”インジケーターが点灯してひずみますが、パーカッションやスネアなどがソースの場合だと、サウンドは破たんせずに良い感じにひずんでくれます。
COMPSATセクションには実機譲りのパラメーターが並んでおり、音の温もりを保ちつつも存在感が引き立つように作られています。また、各パラメーターの効き具合が分かりやすいのも特徴。例えばピッキングが強過ぎるギターを短いアタック・タイムでリダクションさせて、スムーズなサウンドにしたりすることが簡単に行えます。
またRATIOボタンでは、過激なリミッター・セッティングの“NUKE”も搭載。ソースを選ばない万能さと思い通りのサウンドを得られる使いやすさは、“素晴らしい”の一言です。
さらにMODEボタンの上にあるEMPHASISにて“HF”を点灯させると、アナログ・テープに通したような太くつやのある音色に変化します。これはアナログ・テープのエンファシスを再現したもの。実機では内部のサチュレーション回路により高域がほかの帯域よりも早くクリップするため、テープ・コンプレッションに似た効果が得られるのです。このサウンドを聴いたとき、Mike-E Compの肝はこれだと感じました。
この効果はサチュレーション回路にのみ作用するため、コンプレッションしない場合でも有効です。どのパートに対しても、アナログ感を付加するのに非常に有効だと言えます。また、エンファシスがコンプのディテクターにも作用するモード“HF2”と、コンプのディテクター回路の高周波を減衰させてコンプが高域に反応しにくくなるモード“LF”も選択可能。さらにMIXセクションでは、ノブ一つでパラレル・コンプも行えるため便利です。
サージカルEQとしても積極的な音作りが行える
Empirical Labs Lil FrEQ
次はLil FrEQをチェック。画面上段には、左から入力メーターと入力レベル調整ノブを備えるINセクション、Hi-Passセクション、ディエッサー/高周波リミッターを搭載するDSセクション、出力レベル調整ノブと出力メーターを備えるOUTセクション、同下段には、左から2バンドのシェルビングEQを実装するShelfセクションのほか、LF/Lo Mid/Hi Mid/HFといった帯域別の4バンドEQセクションが続きます。
Mike-E Compと同じくLil FrEQもさまざまなパートで試したところ、非常に柔軟性のあるEQであることがすぐに分かりました。基本的な使い方としては、必要に応じてハイパス・フィルターでローカットしつつ、シェルビングで全体のトーンを整え、4バンドのパラメトリックEQセクションで細かい微調整を行います。
2つのシェルビングEQはそれぞれ周波数が固定されていて、高域が4kHz、低域が120Hzとなっています。しかし、スロープがなだらかなおかげでサウンドを違和感無く、かつ大胆に処理することができて非常に扱いやすいです。また、隣にある4つのEQセクションでは、サージカルEQとしても細かい処理をしやすく、積極的な音作りが行えます。
ディエッサーを備えるDSセクションでは、設定した周波数以上の帯域にディエッシングが施されます。このディエッサーは通常のものとは違い、選択した周波数の低域と高域の差分を検知して動作するため、入力レベルに依存しません。そのため、例えばボーカルに使用した場合、歌の強弱によってスレッショルドを調整する必要が無く、非常に使いやすい仕様となっています。なお、HF LIMボタンを押すことで通常のレベル検知型ディエッサーとしても使用できるので便利です。
Lil FrEQをあらゆるパートにを用いてみたところ、特に“温かさのあるボーカル”の音作りに使いやすい印象です。ドラムにおいては、バスにLil FrEQをインサートし、高域と低域をシェルビングEQで持ち上げ、ディエッサーでシンバル類を適度に抑える使い方は筆者のお気に入りとなりました。
Mike-E CompとLil FrEQは、音にアナログの温もりとパンチ感を与えたいときにうってつけ。細かい処置にも適し、あらゆるパートに使える万能プラグインです。ほかのメーカーからも同様のエミュレーション・プラグインが出ていますが、それらを所有するユーザーにとっても導入価値のあるプラグインだと言えます。また、両プラグインを統合したEmpirical Labs Trak Pak for Console 1は、SOFTUBEがうたうように“最もパンチの効いた”Console1用チャンネル・ストリップとなり得るでしょう。
これら3つの製品は単体でも販売されていますが、2種以上購入する場合はバンドル版であるEmpirical Labs Complete Collectionの方が安く購入できるようになっています。ぜひこの機会に導入してみてはいかがでしょうか。
中村フミト
【Profile】Endhits Studioを拠点に録音からミックス、マスタリングまでを手掛けるエンジニア。直近では、にしな、The Songbards、GOOD BYE APRIL、一寸先闇バンドらの作品に携わっている。
SOFTUBE Empirical Labs Complete Collection
オープン・プライス
(市場予想価格:44,900円前後)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.12以降、AAX/AU/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 7/8/10(64ビット)、AAX/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション
▪共通:INTEL Core 2 Duo、AMD Athlon 64 X2または最新のプロセッサー、1,280×800以上の画面解像度、8GB RAM以上、8GB以上のドライブ・スペース、SOFTUBEアカウント、iLok License Manager
製品情報