SE ELECTRONICS DM3 レビュー:音抜けが良くシンセなどの電子楽器とも好相性のアクティブ・インラインDI

SE ELECTRONICS DM3 レビュー:音抜けが良くシンセなどの電子楽器とも好相性のアクティブ・インラインDI

 マイク・ブランドとして有名なSE ELECTRONICSですが、出力の小さなパッシブ型マイクのゲインを上げるインライン・プリアンプ、DM1 Dynamiteが成功を収め、マイク以外の製品でも知られるようになりました。今回紹介するDM3は、DM1 Dynamite、DM2 TNTと続くシリーズの第3弾という位置付けで発表された製品。これまでのようなマイク・プリアンプではなく、アクティブ・インラインDIです。

10MΩを誇る独自のUltra-HiZ入力

 まず製品のパッケージが目を引きます。筒状の紙でできたケースには導火線をイメージさせる布製の紐が付いていて、ダイナマイトを模した遊び心のあるデザイン。中にある本体も筒型のインライン形状で、これはDM1 Dynamite、DM2 TNTとも共通しています。金属製のハウジングには明るいオレンジ色の塗装をベースに、ベンガルトラをモチーフにしたアニマル柄がプリントされています。好みはあるかもしれませんが、どこにあるか分からなくなる、といったことがなさそうなくらいの超ド派手デザインです。

 入力側がロック付きのTRSフォーン端子、反対方向にある出力側がXLRのオスになっており、実際にXLRコネクターを挿すと本体と一体になるサイズに作られています。なお、接点は金メッキです。

入力端子はTRSフォーン接続で、赤い部分をずらして外す仕様のロック機能付き。反対側の出力端子はXLRとなっている

入力端子はTRSフォーン接続で、赤い部分をずらして外す仕様のロック機能付き。反対側の出力端子はXLRとなっている

 箱型のDIボックスとは違いスリムなので、セッティングをコンパクトにまとめたい人にはありがたい設計。XLRケーブルを介さず、ミキサーやラック・マウント型マイクプリのXLR入力に直挿しすることもできますが、その場合は端子部分からそそり立つような形状になります。フォーン・ケーブルを接続して横に引っ張られてしまうなど、余計な負荷がかからないように注意する必要はあるかもしれません。

 DM3はアクティブ・タイプのDIのため、常に+48Vのファンタム電源の供給が必要です。入力インピーダンスは10MΩとかなり高めな、その名も“Ultra-HiZ”入力。エレキギター/ベース、ピエゾ・ピックアップ、シンセサイザー、リズム・マシン、ラップトップなどほとんどのソースに対応できるでしょう。SE ELECTRONICSのダイナマイト・テクノロジーにより、低出力のソースでも音の変化は抑えられているとのこと。逆に高出力なソリッド・ステート・パワー・アンプでも受けられるということで、ヘッドルームもかなり広いようです。

環境に合わせたグラウンド・スイッチも用意

 側面には2つのスイッチを装備。一つはグラウンドのon/off(リフト)、もう一つは入力信号を下げるPADです。

本体側面には2種類のスイッチを装備。グラウンド・リフト・スイッチはon/offに加え、独自の回路“on+”も備える3段仕様となっている。PADは−15dBと−30dBを選択可能

本体側面には2種類のスイッチを装備。グラウンド・リフト・スイッチはon/offに加え、独自の回路“on+”も備える3段仕様となっている。PADは−15dBと−30dBを選択可能

 グラウンドには通常のonとは別に、独自の“on+”という回路を通すモードが用意されており、不要なバズ・ノイズやハム・ノイズだけでなく、ヒス・ノイズや無線周波数の干渉も効果的に抑えるとのこと。アース環境の良い場所だとon/on+の違いはあまりないかもしれませんが、さまざまなノイズでアースが汚れている宅録などでは威力を発揮するでしょう。

 PADは−15dBと−30dBの2種類が選べ、モジュラー・シンセのようにバカでかい出力のある楽器やオーディオ・インターフェースでも大丈夫。各スイッチとも不用意に切り替わってしまうことを防ぐための引っ込んだ仕様になっており、ボールペンの先などで切り替える必要があります(切り替え用に小さなマイナス・ドライバーが付属しています)。

付属品としてSEプラグ・キーチェーンも用意。入力端子にプラグを挿しておけばリングに通してDM3を持ち運びできるなど、管理する上で便利な付属品だ

付属品としてSEプラグ・キーチェーンも用意。入力端子にプラグを挿しておけばリングに通してDM3を持ち運びできるなど、管理する上で便利な付属品だ

ヘッドルームが広くクリアな音質

 それでは実際に使ってみます。まずはエレキ・ベース。SNがかなり良く、ノイズは相当低めです。回路についての詳細な情報はなかったのですが、本国サイトの写真を見る限りはトランスを使わない回路でインピーダンス変換しているタイプのようで、そのせいか非常に音がストレート。パワー感がありトランジェントも“なまり”がないです。低域の処理がうまくされているようで、暴れた感じも少ないのはクラスA回路のおかげでしょうか。ベースのピックアップが拾っているノイズもいつもより少なく感じます。全体的にクセがなく抜けがとてもいいです。

 今回は2本お借りできたので、ステレオ出力のシンセサイザーにも使ってみました。わざとシンセ側の出力を最大まで上げてみましたが、PADなしでも割と平気です。出力を受ける側の性能も問われますが、DM3側でひずむことはありませんでした。ヘッドルームが広くとてもクリアな音色です。コーラス・エフェクトのステレオ感もうまく表現できていて、かなりシンセサイザーとの相性が良いDIと言えます。スタジオにあるさまざまなDIとの聴き比べもしてみましたが、出力も大きく、高価格帯のアクティブDIと比較しても、シンセサイザーに関して言えばDM3の方がパンチ力、音の素直さで優れているように感じました。

 本機はどちらかと言えば原音に忠実で、積極的にキャラクターを付けていくようなタイプの製品ではないかと思いますが、DIを使用する際にしばしば遭遇する、ネガティブな方向への色付けを避けたいようなシチュエーションでは威力を発揮しそうです。アンバランス出力しかないオーディオ・インターフェースにDIを使うと変に脚色されてしまうので、ためらうこともあります。そういった場合でも、DM3なら問題ないでしょう。見た目からちょっとオモチャ的なものを想像してましたが、かなり本格的なDIであることは間違いありません。

 

林田涼太
【Profile】いろはサウンドプロダクションズ代表。録音/ミックス・エンジニアとして、ロックやレゲエ、ヒップホップとさまざまな作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、9dwのサポート(syn)としても活動。

 

SE ELECTRONICS DM3

17,600円

SE ELECTRONICS DM3

SPECIFICATIONS
▪動作電源:+48Vファンタム ▪PAD:−15/−30dB ▪インピーダンス:86Ω(推奨負荷1kΩ以上) ▪コネクター:TRSフォーン(入力)、XLR(出力) ▪周波数特性:10Hz〜120kHz(−0.3dB) ▪最大入力レベル(0.5% THD):19dBV(9V)、34dBV(51V)、49dBV(285V) ▪出力ノイズ・レベル:1µV ▪消費電流:3.8mA ▪外形寸法:20(φ)×95.5(H)mm ▪重量:70g ▪付属品:SEプラグ・キーチェーン、スイッチ切り替え用マイナス・ドライバー

製品情報

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