RUPERT NEVE DESIGNS MBT : Master Bus Transformer レビュー:倍音を増幅させる2色の“SILK”を同時に使用できるバスプロセッサー

RUPERT NEVE DESIGNS MBT : Master Bus Transformer レビュー:倍音を増幅させる2色の“SILK”を同時に使用できるバスプロセッサー

 RUPERT NEVE DESIGNS(以下RND)から、MBT : Master Bus Transformer(以下MBT)が発売されました。RNDには同じく2UのPortico II Master Buss Processor(以下Portico)という機種があり、同じ2Uでパッと見た感じ名前も似ているので、Porticoの後継機種的なものなのか、はたまた近い路線の新機種かと思いましたが、それらとは全く着目点が異なりました。RNDが誇るカスタムトランスとクラスA回路を中心に、その名の通りミックス処理に有用な機能を多数備えたMBT。早速見ていきましょう。

サイドチェインフィルターをかけたりパラレルコンプが行える“COLOR COMP”

 MBTは、INPUT、EQUALIZER、COLOR COMP、WIDTH、SUPER SILK、OUTPUTの6つのセクションで構成されています。各セクションの機能を一つずつ見ていきましょう。

①INPUT:入力トリムとハイパスフィルターを装備。INPUT TRIMノブは±12 dB の範囲で調整可能、0周辺は約1dB/1ステップの変化で、最小/最大値付近ではもう少し大きい変化をします。ちなみに、MBTのすべてのノブは31ステップ。ステップごとの間も効果は連続可変なので、途中で止めて細かい調整も可能です。INPUT LVLインジケーターはINPUT TRIMノブのコントロール後の入力レベルを示し、−20dBuで緑色に点灯、+23dBuに達すると赤色に点灯します。ハイパスフィルターは−6dB/octと緩やかなカーブで、HPF FREQノブは15~100Hzの幅で設定可能です。

②EQUALIZER:シェルビングタイプのEQで、低域/高域のシンプルな2バンド。Q幅は緩やかで最小限のフェイズシフトだと感じました。低域は30〜240Hz、高域は3〜24kHzに設定でき、±9dBでブースト/カットできます。

③COLOR COMP:オプティカルタイプのコンプレッサー。スレッショルド値は0〜+24dBuの範囲で設定可能です。S/C HPFノブは信号のレベル感知にサイドチェインフィルターをかけることができ、20~350Hzの間で設定できます。ゲインリダクションが発生すると中央のGAIN REDUCTIONインジケーターが緑色に点灯します。リリースタイムは100ms~1.5s。レシオは2種類から選択可能で、そのままだとLO(2:1)、ボタンを押し込むとHI(5:1)になります。メイクアップゲインは0~+20dBで調整でき、コンプレッション前後のレベルマッチなどに有用でしょう。BLEND%ノブを調整すればパラレルコンプが行えます。

④WIDTH:ステレオ感を広げるセクション。HPFノブで、広げる周波数の下限を50~800Hzの範囲で調整でき、WIDTHノブでステレオフィールドの処理量が調整できます。

⑤SUPER SILK:RND製品特有の“SILK”回路セクション。BLUEノブで低域と中低域の倍音、REDノブで中高域と高域の倍音をそれぞれ強調できます。DRIVEインジケーターは、信号レベルがSILKでの倍音付加の最適範囲に達すると点灯します。HARMONICSノブは全体的な倍音成分の量を調整可能。ZENER DRIVEボタンをオンにすれば、よりアグレッシブに音をひずませることができます。

⑥OUTPUT:出力セクション。BYPASS ALL(バイパス)ボタンをオンにして原音と聴き比べたり、OUTPUT TRIMノブやLEDの出力メーターで最終的なレベル調整が可能です。

 各セクションには“〜(機能/セクション名)IN”というボタンが装備されていて、これらをオンにすると各機能/セクションが有効となります。

リアパネル。左から、電源、シャーシグランドから分離させるグランドリフト、アウトプット(XLR)、インプット(XLR/TRSフォーンコンボ)

リアパネル。左から、電源、シャーシグランドから分離させるグランドリフト、アウトプット(XLR)、インプット(XLR/TRSフォーンコンボ)

MAXにしても不自然にならない“WIDTH” 太さや輪郭を調整できる“SUPER SILK”

 では、実際に2ミックスのバスに使用してみましょう。SUPER SILKセクションのDRIVEインジケーターが点灯するように入出力のレベルを調整後、INPUTセクションのハイパスフィルターからチェック。−6dB/octなので、ミックスに大きく影響することなく、聴こえない不要な低域をカットすることができました。続いて、EQUALIZERセクション。2バンドのシェルビングなので、トーンコントロールのような感じですね。細かいEQはほかのものでやって、全体の感じを微調整する使い方で、私は低域を約80Hz、高域を約13kHzにセットして、ほんの少し上下をブーストすることで、ミックス全体のレンジ感を広げる使い方が気に入りました。

 次はCOLOR COMPセクション。INPUT LVLインジケーターと同様、ゲインリダクションの量はLEDの点灯具合で確認できます。つまり点灯=コンプがかかっているという部分で判断するので、いつも以上に耳に集中して調整していきました。RNDといえばダイオードブリッジ・コンプレッサーですが、これはオプトタイプなので、Neve 2254/AやAMS Neve 33609/Nとは違う感じで激しくではなく優しく効きます。私はNeveのコンプはゲインを上げたときの音の感じが好きなので、軽くコンプレッションしてゲインを上げて、BLEND%ノブを80%くらいにするのが、MBTでは好きな感じになりました。

 WIDTHセクションに移りましょう。まず広げる周波数の下限ですが、あまり低域から広がると不自然なので、私は400Hzから上に設定して、WIDTHノブはじっくりと音を聴きながら調整しました。WIDTHノブは、9時から11時くらいの位置が私の好みの範囲でしたが、曲調によってはMaxにしても不自然にはならないので、とてもよくできています。

 そして、お待ちかねのSUPER SILKセクション。これまでSILKは赤青どちらかでしたが、やっと両方同時に使えるようになりました。低域と中低域の倍音をつかさどるBLUEノブを上げればファットになっていき、中高域と高域の倍音をつかさどるREDノブを上げればきらびやかになっていきます。また、HARMONICSノブで全帯域の倍音を調整することで音の輪郭をハッキリと際立たせることができました。それでも物足りないといったときは、ZENER DRIVEをオン。程良くクリップした感じで音に元気を与えることができます。

 通したときの音の粒立ち感と、WIDTHとSUPER SILKのセクションで与えられる効果は唯一無二で、一度使ったら手放せなくなる機材です。マスターにはもちろんですが、ステムにもとても有用で、今回のレンタル期間中に行ったミックス作業のすべての曲で使ってしまいました。機材を整理してでも予算を捻出して購入しないと……と思っています。

 

森元浩二.
【Profile】prime sound studio formのチーフ・エンジニア。これまでに浜崎あゆみ、AAA、DA PUMP、など、ジャンルを問わず数多くのアーティストの作品に携わる。

 

 

 

RUPERT NEVE DESIGNS MBT : Master Bus Transformer

オープン・プライス

(市場予想価格:583,000円前後)

RUPERT NEVE DESIGNS MBT : Master Bus Transformer

SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:10kΩ ▪最大入力レベル:+25.5dBu ▪クロストーク:–95dB以下(@1kHz) ▪ノイズ:−95dBu以下(全機能無効/HPF有効/SILK有効時)、−93dBu以下(EQ有効時)、−92dBu以下(COMP有効時)、−88dBu以下(WIDTH有効時) ▪周波数特性:5Hz〜30kHz(±0.1dB)、5Hz〜60kHz(±0.25dB)、5Hz〜180kHz(−3dB) ▪THD+N:0.004%以下(0dBu@1kHz)、0.002%以下(+20dBu@1kHz、SILK有効時は0.003%以下) ▪外形寸法:483(W)×89(H)×257(D)mm ▪重量:5.8kg

製品情報

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