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日音サウンズライブラリー 〜プロフェッショナルのための音楽コレクション

日音サウンズライブラリー 〜プロフェッショナルのための音楽コレクション

撮影:八島崇(*除く)

PART 1|より高速に、より使いやすく Webサイトをリニューアル

 “サウンズライブラリー”と聞いて、それがある楽曲群の呼称と気づく方は少ないかもしれない。ニュース、バラエティ、ドキュメンタリー、ドラマなどのTV番組をはじめ、CM、イベント、テーマパーク、商業施設など多様な場面で利用されている一般流通しない音楽集、それがサウンズライブラリーだ。音楽著作権や原盤権の管理を行う音楽出版社の日音は、1982年から“日音サウンズライブラリー(日音SL)”を展開。約400にもおよぶ海外レーベルの作品のほか、N-traxをはじめとする自社レーベルでも年間約40タイトルをリリース。2万3千枚以上のアルバムを有し、楽曲総数は約120万音源におよぶ。しかも、楽曲(WAV/MP3)の検索やダウンロードはWebサイト上で行える(ダウンロードは契約者のみ、試聴だけなら誰でも可能)。そのWebサイトが改修により利便性が大幅に向上したとのこと。そこで本稿PART 1では日音の津崎栄作氏、正見はるな氏、諏訪マイケル氏に、日音SLの特徴やWebサイトについてお話を伺った。

取材に応じていただいた日音クリエイティブ本部サウンズライブラリー部の皆さん。左から営業担当の正見はるな氏、部長/エグゼクティブプロデューサーの津崎栄作氏、選曲/A&R担当の諏訪マイケル氏

取材に応じていただいた日音クリエイティブ本部サウンズライブラリー部の皆さん。左から営業担当の正見はるな氏、部長/エグゼクティブプロデューサーの津崎栄作氏、選曲/A&R担当の諏訪マイケル氏

完全日本語化を実現

 日音SLは、Webサイトとハードディスクの2本立てで楽曲提供を行っているが、以前のWebサイトには幾つかの課題があったという。正見氏に教えていただいた。

 「まず、楽曲数が膨大すぎて探したい楽曲にたどりつけない、という検索の問題がありました。特に日音SLの9割が海外音源で楽曲の説明文も英語でしたから、検索も英語で行う必要がありました。またニュース番組の選曲担当の方からは、選曲作業は時間との勝負なので検索とダウンロードを素早く行えるようにしてほしいというご要望をいただいていました」

 津崎氏も「日音SLの利用者は、今すぐ検索結果を出してダウンロードしたい方がほとんど」と語る。そこで日音SLでは、自動翻訳システムを導入して完全日本語化を図るとともに、検索方法にも多様性を持たせるWebサイト改修を敢行。諏訪氏は、A&Rを担当しつつ、選曲家としての業務も行っているが、改修後の日音SLサイトについて「検索がとても速くなりました。以前はハードディスク中心でしたが、今はWebサイトでしか仕事をしていません」と語る。

 「例えば、何らかのキーワードで検索するとアルバムが一覧表示されるので、タイトルやアートワークで大まかにあたりをつけます。アートワークはかなり重要で、絵柄などで大体の内容を想像できるのですが、改修で大きく表示されるようになったのでより把握しやすくなりました。そして、気になるものをクリックするとアルバム内の全楽曲の波形がリスト表示されます。その波形のクリックした箇所からすぐに再生できるので、効率的に目的に合うものを探せるんです」

検索結果の画面。アルバムのアートワークが並び、タイトルには“POP”“Synthwave”“Film/TV Styles”といった特徴が添えられている。アートワーク部分にカーソルを当てるとアルバムの説明文が表示される。検索対象はアルバム、トラック、作家、レーベルを選択でき、ムード、ジャンル、楽器、ボーカルの有無、テンポ、曲の長さ、リリース年度などでフィルタリング可能

検索結果の画面。アルバムのアートワークが並び、タイトルには“POP”“Synthwave”“Film/TV Styles”といった特徴が添えられている。アートワーク部分にカーソルを当てるとアルバムの説明文が表示される。検索対象はアルバム、トラック、作家、レーベルを選択でき、ムード、ジャンル、楽器、ボーカルの有無、テンポ、曲の長さ、リリース年度などでフィルタリング可能

 また、波形だけでも内容をある程度は推測できるという。

 「ポップなEDMを探しているときに、波形が小さくて平らだと、それだけでこれは違うと判断できますし、逆に報道番組で使うようなミニマルな曲が欲しいときは山が少ない波形、というように違いが視覚的に見分けられるわけです」

 さらなる機能として、ログインユーザーであれば類似検索も可能だ。リスト表示された各曲に用意されている“Similar”ボタンを押すと似た特徴を持つ曲が検索される。その上、ログインするとYouTube上の動画と類似した楽曲を探す機能まで用意されている。これも利便性が高いと諏訪氏。

 「クライアントの方から、YouTube動画で参考曲を提示されることも多いのですが、そんなときに“URL検索”というボタンをクリックして、YouTubeのURLを貼り付けることで、似た楽曲を探すことができます」

アルバムのアートワークをクリックすると、収録曲が一覧表示され、波形をクリックすればすぐに試聴が可能

アルバムのアートワークをクリックすると、収録曲が一覧表示され、波形をクリックすればすぐに試聴が可能。アルバム全体の説明文のほか、各曲の説明文もあり、曲の右側には“お気に入り”“プレイリスト”“曲情報”“類似検索(Similar)”“共有/ユーザーメモ編集”などのボタンを用意。なお、この画面は契約を行っていない状態。契約を行うとダウンロードボタンが表示される

 そのほか、ユーザーがプレイリストを作成して共有する機能も用意されているが、正見氏は日音SLで作成したプレイリストもぜひ活用していただければと語る。

 「CATEGORYメニューの中に“プレイリスト”という項目があり、ロックやクラシックといったジャンル別、あるいはニュース系といった使用目的別で、わかりやすく楽曲をプレイリストにまとめました。これも選曲家の方からのご要望が多かった機能です。そのほか、 MONTHLY PICKUPという月替わりのプレイリストも用意しています。ここには膨大な数の楽曲から検索するとヒットしづらい曲も組み込まれています。隠れた名曲があるので、ぜひチェックしてみてください」

国内のニーズにマッチしたN-trax

 こうしたWebサイトの改修だけでなく、日音SLでは自社レーベルの制作にも注力している。諏訪氏にその中でもメインレーベルのN-traxの魅力について伺うと「海外の楽曲にはないN-traxならではのテイストがあります」と語ってくれた。

 「海外と日本のニュースやバラエティ番組ではテイストやテンションが全く違うので、海外レーベルの楽曲だとハマらない場合も多いんです。その点、N-traxには日本の番組に特化した楽曲がそろっています」

 またN-traxは「日音の作家はもちろんですが、それ以外の方にも楽曲の制作にご協力いただいています」と津崎氏。さらに、正見氏は「和のタイトルは海外でも人気がありますし、Jポップ系のタイトルもリリースしていく予定です。今後はYouTubeやTikTok、メタバース空間などでのご利用も促進していければと考えています」と語る。

 日音SLの楽曲利用には契約が必要だが、「今後は一般の方の認知も広げていきたい」と津崎氏。試聴は誰でも可能なので、ぜひ日音SLサイトを訪れて、豊富なバリエーションと市販の音楽作品と変わらぬクオリティを楽しんでほしい。

PART 2|N-traxプロデューサー&作家対談 ~御園雅也 × 田渕夏海~

 ここからは日音サウンズライブラリー(日音SL)レポートPART 2として、日音の自社レーベルであるN-traxにフォーカスしたインタビューをお届けする。お迎えしたのは、ドラマの音楽プロデュースや選曲で活躍するエヌ・エス・エルの御園雅也氏と劇伴を中心に活動している音楽家の田渕夏海氏だ。お二人は以前にTVドラマの劇伴制作で知り合い、以降、N-traxをはじめさまざまな音楽制作を共にしているという。ここではそれぞれの立場から、N-traxの制作方法や楽曲の魅力について語っていただいた。

御園雅也
田渕夏海

アレンジのクオリティが高くハズレ曲がない
御園雅也
幼少よりピアノ、中学よりギターを始め、PAN SCHOOL OF MUSICにて作編曲を学ぶ。1988年よりエヌ・エス・エルに所属し、テレビドラマを中心に選曲および作編曲、音楽プロデュースを手掛ける。代表作にTBS『VIVANT』(2023年)、TBS『半沢直樹』(2013年、2020年)、テレビ東京『警視庁ゼロ係』(2016年)、TBS『下町ロケット』(2015年、2018年)、TBS『花より男子』(2005年)、TBS『高校教師』(1993年)などがある。

リアルな編成感で録れるのはN-traxならでは
田渕夏海
東京音楽大学 作曲指揮専攻映画放送音楽コース卒業。劇伴を中心に活躍中。近作にWOWOW連続ドラマW-30『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-』(2023年)、読売テレビ・日本テレビ系プラチナイト木曜ドラマ『勝利の法廷式』(2023年)、TVアニメ『AIの遺電子』(共同/2023年)、などがある。日音サウンズライブラリーのオリジナルレーベル、N-traxの楽曲も多数手掛けている。

番組の内容に合わせた音楽制作

●田渕さんは、日音の作家育成プロジェクトご出身で、現在は作家マネジメント部とマネジメント契約をされているとのことですが、N-traxは作家育成プロジェクト在籍当時から制作されていたのですか?

田渕 日音に入って比較的すぐにN-traxを作らせてもらえるようになりました。私は選曲家の方がプロデュースされる作品に携わらせていただくことが多く、実際の映像に音楽を合わせてみて、構成や音色、音数などについてやり取りをしながら作っていたのですが、これはとてもありがたかったですね。例えば、ドキュメンタリーは間がとても大事なので、映像を邪魔しないサウンドや音数だと使いやすいといったことを教えていただきました。

●具体的に映像を想定して作ることもあるんですね。

田渕 そうですね。同じドキュメンタリーでも、現代に合わせたものと“和もの”と呼ばれるいわゆる歴史ものでは作る曲が違いますし、報道番組でも冒頭のニュースやVTRの映像にナレーションがのる場合など、シチュエーションごとに細かくジャンル分けされているので、それらの番組に合わせて音楽を作っていくということになります。

●御園さんがN-traxをプロデュースされる場合、どのようなアプローチを取ることが多いのですか?

御園 決まったパターンはなくて、先ほど田渕さんがお話されたように、ニュース系番組のトーンやイメージに合わせて作ることもありますが、アルバム単位で世界観を作るという方法もあります。例えば、ケルトというコンセプトを決めて、その中でアップテンポやスローテンポの曲を作り、一つのサウンドトラックに仕上げていくというやり方です。そのコンセプトも、“今、こういう感じの音楽が必要なのでは?”と予測して、ドキュメンタリー用とかピアノソロ的なものとか、そういう発注の仕方をすることもありますね。

●田渕さんがN-traxを制作される場合は、何から着手されるのですか?

田渕 ジャンルにもよりますが、クラシック系であれば、最初にピアノで下地を作って、そこからほかの楽器で肉付けしたり、リズムを足したりすることが多いです。サウンド感が大事な場合は音色から入ることもありますね。DAWはApple Logic Proで、音源はSPITFIRE AUDIOやOUTPUTのものをよく使います。ストリングスはCINEMATIC STUDIO SERIESのCINEMATIC STUDIO STRINGSです。報道系ではSPECTRASONICS OMNISPHEREの使用頻度が高いですね。なじみやすい音色が多いという印象です。またN-traxでは実際に生で録音した音をデモの打ち込みと差し替えます。例えば『Orchestral Adventure』というシリーズの場合は、ストリングスが8-6-4-4-3、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、木管は1-1-1-1という編成が多いのですが、これは、普通にゴールデンタイムのドラマの劇伴の編成に近い形です。このようなリアルな編成感で録れるのはN-traxならではだと思います。

日音スタジオのコントロールルーム

日音スタジオのレコーディングブース

日音スタジオのコントロールルーム(写真上)とレコーディングブース(写真下)。コントロールルームのモニタースピーカーはATC SCM100A SL、レコーディングブースの壁に設置されているのはNEUMANN KH 120 A。田渕氏いわく、ギターやフルート、木管楽器1本といったソロ楽器はここで録ることも多いとのこと。編成が大きいストリングスなどは外部のスタジオでレコーディングするそうだ

田渕氏のプライベートスタジオ

田渕氏のプライベートスタジオ。DAWはApple Logic Proで、モニタースピーカーはGENELEC 8330A、キーボードはYAMAHAのデジタルピアノP-115、その手前右にリモートコントローラーのRME Advanced Remote Controlが見える。またさらにその手前のラック上にはNATIVE INSTRUMENTS Maschine MK3の姿も。左側のマイクスタンドにはヘッドホンのSHURE SRH1540が掛けられており、その後ろのラック下にはオーディオインターフェースのRME Fireface UCXがセットされている

バックトラックだけでも曲として聴ける

●御園さんが劇伴をプロデュースされる際、作家の方に発注する部分とライブラリーを使う部分は、どのように分けられているのでしょうか?

御園 ドラマではあらかじめ“こういう音楽が欲しい”というトピックが決まっている場合が多いので、作家の方にはメインテーマや“家族のテーマ”といったような音楽をお願いするのが通常です。ただ、音楽の占有率が高いドラマの場合は、それだけでは足りなくなることもあるんです。そこでメインテーマがAマイナーの曲だったとしたら、Aマイナーのトラックをライブラリーから探してきて、それをつなげて1曲に聴かせる、といったことも行います。実際、TBSのドラマ『VIVANT』では非常に多くの音楽が必要だったので、ライブラリーもかなり使いました。

●田渕さんが劇伴とN-traxを作るときで、手法や意識に違いはありますか?

田渕 ジャンルにもよりますが、長めの尺で使われることも想定して、曲の頭の印象から極端に変わるような展開は付けないように心がけています。また編集される場合もあるので、ループしやすいように過度な転調も控えるようにもしていますね。そのほか、劇伴だと曲中でテンポが変わることもありますが、ライブラリーは一定のテンポで変化を付けないようにしています。ただ、ライブラリーはコンセプトと用途から外れてさえいなければ、比較的、自由度が高い一面もあるんです。その上で、クオリティ的にも劇伴と変わらないものを作るように心がけています。

●選曲家という立場から見た、御園さんが考えるN-traxの魅力はどんなところでしょうか?

御園 サウンドが素晴らしいのはもちろんなのですが、やはりアレンジのクオリティですね。例えば、トップノートを外した場合でも、美しい内声の動きがあったりするので、バックトラックだけでも曲として聴けるクオリティを持っているんです。また、4分くらいの長めの楽曲でも構成がしっかりしていてハズレ曲がありません。選曲家として言えば、安心して使えるライブラリー、それがN-traxです。

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