「RUPERT NEVE DESIGNS MBC Master Buss Converter」製品レビュー:トランス回路のオン/オフを選べる2chADコンバーター&リミッター

f:id:rittor_snrec:20210301191408j:plain

 デジタル領域でファイナル・ミックスの最終段をどうやって処理するかは、プロ/アマ問わず議論の尽きない永遠のテーマとなっていますが、ついにRUPERT NEVE DESIGNSからその回答とも言える製品が登場しました。その名もMBC Master Buss Converter(以下、MBC)。分かりやすく言えば、リミッターを内蔵するハイエンドな2chのADコンバーターです。それ以外にもさまざまな機能があるので、ご紹介したいと思います。

マスター・クロックとしても使用可能な
高精度のワード・クロックを内蔵

 1Uラック・サイズのMBCは、マスター作成時にアナログ信号をデジタル変換することに特化した2chのADコンバーター。24ビット/192kHzに対応しています。フロント・パネルを見ていくと、左右にはチャンネルA/Bのリミッターやサイド・チェイン・ハイパス・フィルターに関するノブやボタンのほか、2種類のLEDメーターを採用。中央にはサンプリング・レートやワード・クロック、アナログ基準レベル、出力トランス関連のノブやLEDインジケーターを備えています。

f:id:rittor_snrec:20210301191516j:plain

フロント・パネルの中央部分。左からサンプリング・レートを表すLEDインジケーター、SAMPLE RATEボタン、WORD CLOCKボタン、基準レベルを表すLEDインジケーター、基準レベルを選択するADC CALボタンのほか、リミッターのオン/オフを切り替えるLIMITER INボタンや、出力トランス回路のオン/オフを切り替えるTRANSFORMER INボタン、倍音を付加するSILKモード切り替えボタンなどを備えている

 リア・パネルにはライン入力L/R(XLR/TRSフォーン・コンボ)のほか、複数機器への同時出力が可能なAES/EBU出力とS/P DIF出力(オプティカル/コアキシャル)、ワード・クロック入出力(BNC)があるのみです。

f:id:rittor_snrec:20210301191540j:plain

リア・パネル。左からワード・クロック入出力(BNC)、AES/EBU出力(XLR)、S/P DIF出力(オプティカル、コアキシャル)、メーターのピーク・ホールド・オン/オフやホールド時間を選択できるDIPスイッチ、アナログ・ライン入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2を搭載している

 それでは、フロント・パネルにある各パラメーターの操作子を詳しく見ていきましょう。まずは中央のセクションから。左上にあるSAMPLE RATEボタンでは、サンプリング・レートを44.1/48/88.2/96/176.4/192kHzで選べるほか、その下にあるWORD CLOCKボタンを押すことで外部とのクロック同期のオン/オフが行えます。

 

 この内部クロック、非常に良くできているためMBCをマスター・クロックとして使用することもできます。試しに普段使用しているオーディオI/Oのインターナル・クロックと比べると、シャキっと音にフォーカスできる音質になり、ドラムのアタック感などでその違いが聴きとれました。MBCの内部クロックは大きく音質を変えるものではありませんが、水晶発振器のOCXOを搭載するクロックに引けを取らないクオリティのものではないかと思います。

 

 また、フロント・パネル中央の上段にあるADC CALボタンを押すことで、アナログ基準レベルを−14/−16/−18/−20dBFSの4段階で調節できるのも便利です。アナログ基準レベルは入力ソースと合わせるのが原則なので、これも役立つ機能と言えます。

 

 ADC CALボタンの下にあるLIMITER INボタンを押すと、MBCの内蔵リミッターがオンになります。リミッターの各操作ノブはフロント・パネルの両サイドにあり、アタックは0.5sで固定、リリースは50ms〜1sの範囲で調整可能です。

 

 なお、LIMITER INボタンの右隣にあるLINKボタンでは、チャンネルA/Bのスレッショルドをリンクすることが可能。デュアル・モノ/ステレオを選べますが、ほとんどの場合はオンの状態で使われることが多いと思います。

 

アナログらしい音楽的なステレオ・リミッター
Silk回路を含むカスタム・トランスを搭載

 次は、フロント・パネル両サイドにあるチャンネルA/Bのセクション。ここには22セグメントの出力レベル・メーターがあります。−dBFSのピーク表示となっているため、一番右端のセグメント(0dBFS)の位置が、デジタル上の限界値。ここから−5dBFSまでは、0.5dBFS刻みで正確に確認できます。

 

 出力レベル・メーターの下にはGRと書かれた8セグメントのゲイン・リダクション・メーターを装備。リミッターに入ってくるライン入力レベルは、下段にある赤いゲイン・ノブで調整しますが、上げ過ぎると当然クリップするので、上段にある出力レベル・メーターを見ながら調整するとよいでしょう。

 

 さらに、このセクションにはS/C HPFボタンが備えられていますが、これはリミッターのサイド・チェイン・ハイパス・フィルターをオン/オフするもの。その下部にあるFREQノブでは、このフィルターを20〜250Hzの範囲で調整できます。

 

 リミッターはアナログのにおいがぷんぷんするタイプの音質で、非常に音楽的。やはりプラグインとは一味違う、“実機のポテンシャル”を感じさせる優れたサウンド・キャラクターと言えます。0.5dBのリダクションでも、はっきりと違いが分かることでしょう。

 

 リミッターを通過したオーディオ信号は、TRANSFORMER INボタンを押すことで、A/Dへ入る前にカスタム・デザインの出力トランスへ通すことも可能です。オーディオ仕様のトランスを通すことによって生まれる独特のハーモニクスは、デジタルの時代だからこそ求められる有機的な付加価値。ここはルパート・ニーヴ氏の“お家芸”です。

 

 もちろん、MBCは同社の他製品でも採択されているSILKボタンを装備。ボタン一つで倍音を加え、その作用する帯域を切り替えることも可能です。SILKボタンが赤く光れば中高域に倍音が付加されるREDモード、青く光れば低域に倍音が付加されるBLUEモードとなります。入力ソースによって、2つのモードを使い分けるのがいいでしょう。

 

 SILKボタンのすぐ下にあるTEXTUREノブでは、SILK機能で付加した倍音の量を調整できます。EQで持ち上げるような効果ではなく、何とも言えない“音の張り感”を加えることが可能です。

 

 もちろん素の状態で音を通したときの印象が非常に素晴らしかったことは、言うまでもありません。信号をMBCのA/Dへ通し、AES/EBU出力からオーディオI/Oに戻して、元の音と聴き比べをしましたが、あまりの違いの無さに驚きました。クラスAのトランスレス回路は非常に素直で正確。ほんのわずかにハイ上がりかなという印象はありましたが、むしろ元より良くなっているという印象で、A/Dではほとんど色を付けることがないことは確認できました。

 

 MBCを一言で表すなら、デジタル部分はとても正確に仕上げ、アナログ回路でしっかりと色を付けていく傾向のADコンバーター/リミッター。価格はそれなりにしますが、そのクオリティはそれ以上のものがあるのではないでしょうか。

 

林田涼太
【Profile】いろはサウンドプロダクションズ代表。録音/ミックス・エンジニアとして、ロックからレゲエ、ヒップホップとさまざまな作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、9dwのサポート(syn)としても活動。

 

RUPERT NEVE DESIGNS MBC Master Buss Converter

オープン・プライス

(市場予想価格:420,000円前後)

f:id:rittor_snrec:20210301191905j:plain

SPECIFICATIONS
▪出力インピーダンス:40Ω balanced ▪入力インピーダンス:9.9kΩ ▪コモン・モード除去比:105dB@1kHz ▪周波数特性:20Hz〜70kHz、±0.025dB(トランスレス・パス)、±0.1dB(トランス・パス) ▪全高調波ひずみ率@1kHz:0.0009%(トランスレス・パス)、±0.002%(トランス・パス) ▪外形寸法:483(W)×42(H)×229 (D)mm、突起物は含まず ▪重量:4.5kg

 

製品情報

hookup.co.jp

 

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp