ROYER LABS DBooster2 レビュー:リボン・マイクなどの増幅に使う2chインライン・ブースター兼ステレオDI

ROYER LABS DBooster2 レビュー:リボン・マイクなどの増幅に使う2chインライン・ブースター兼ステレオDI

 もともと僕は、DAWでの録音でコンデンサー・マイクを使うと音がキツく感じた経験から、リボン・マイクに手を出すようになりました。ただ“さすがに弱音の楽器演奏になると途端にSN比が気になる……(そのときの演奏環境由来か、機器のノイズかどうかは不明ですが)”という難点もありました。

 そんな難点を補うべく、今では各社からブースターが発売されています。そしてROYER LABSから、真打ちとも言うべきDBooster2が登場です。

マイク使用時は最大20dBブースト。色付けが少なくSN比に優れる

 以前発売されたDBoosterは1chかつマイク・インのみだったので正直興味を持てませんでしたが、DBooster2は2chかつXLR/TRSフォーン・コンボ・ジャックの採用でステレオDIとしての利用も可能になりましたので期待できます。

 

 使用方法はいたって簡単で、リボン・マイクとプリアンプの間にDBooster2を挟み、ファンタム電源を供給するだけ。収録用途に応じてゲインを+12dBと+20dBで切り替えます。DIの場合は0dBか+8dBです。回路はバイポーラ・トランジスターをクラスAで作動させています。

ROYER LABS DBooster2 リア・パネル

リア・パネルには、出力端子(XLR)を2系統装備

 まずはDBooster2本来の目的通り、リボン・マイクCROWLEY&TRIPP Naked Eyeでアコギを録ってみました。ゲイン・スイッチは+20dB、使用したプリアンプはSHEP 1073です。音質は1073へ直接続したときより上下に少しレンジが広く感じます。さらに、14kHz辺りを広めのQ幅で0.5dBほど突いたような明るさが加わった感じです。DBooster2をかませたときのゲインをDAW上で確認すると−40dB、1073直接続で−60dBという結果で計算通りでした。また−40dBのときの方がノイズが少なかったため、想像通り直接続では1073自体のノイズも加わっていたことも明らかになりました。

 

 DBooster2の色付けはそこまで濃い感じもなく、良いゲイン値で録れてSN比が良いのはかなりうれしいポイントです。ゲイン・ブーストが切り替えられるのも良いところで、今回は試せませんでしたが、ギター・アンプなどに使う際は+12dBだとちょうどおいしいポイントでプリアンプが使えそうです。

 

 次にダイナミック・マイクSENNHEISER MD 421をドラムのタム類にセットして録るシーンに使用。プリアンプはPHOENIX AUDIO DRS-8、ゲイン・ブーストは+12dBです。やはり色付けが少ない音色で、レンジ感が広がり少し明るくなる印象です。プリアンプ直でゲインは+12dBに設定し、DAW上で12dB上げた音と比較しても同じ印象だったので、DBooster2がエナジャイザー的役割を担っていると言えるかもしれません。ローエンドは伸びがある分、やや暴れて聴こえなくもないですが、それにも増して得られるレンジ感が魅力です。ゲインが低いダイナミック型のELECTRO-VOICE RE20辺りに使うのも良さそうです。

圧倒的なレンジ感でハイファイながらもアタックなどは耳に痛くないフラットな音質

 そしてDIとしての使用感についてですが、結論から言うとこれがDBooster2の最大の魅力かもしれません。今回はベースとガット・ギターのライン録りで試すにあたり、1chDIのCOUNTRYMAN Type85(2ch分でDBooster2と同価格帯)と、1chDIのRUPERT NEVE DESIGNS RNDI(2ch分そろえるとやや高め)と比較してみました。ちなみに、DIのスタンダードとも言えるType85は個人的に3kHz近辺のピークが好きになれないところがあり、一方でRNDIはレンジも広く嫌なピークが出にくいチューニングがされていて、さまざまな楽器に使いやすいので愛用していた次第です。

 

 最近は高級DIの選択肢は多いですが、メーカーごとの音響チューニングの思想もあり、エンジニアが個人で所有するには独特かつ価格的にも躊躇(ちゅうちょ)する製品がほとんど。そこに来てDBooster2は“この価格帯で”という冠を忘れるほどに、圧倒的なレンジ感とクリアでフラットな音質なので驚かされます。ベースではRNDIと比べると抜けの良さが際立っており、ハイエンドとローエンドともに自然な伸びがあります。とにかくハイファイなので、ロックやポップスで使うにはコンプ、EQなどのレンジ・コントロール機器や味付け用の機材が欲しくなる気もしますが、通した音を単体で聴いたときの質の良さは抜群です。ジャズ周りのベーシストでFENDER Precision Bassなどを使っている方には最適じゃないでしょうか。ガット・ギターを録っているときに顕著に感じたのは、原音をエンハンスする方向にシフトしているわりに、グリッサンドやアタックが耳に痛くならないということです。ライブだとドラムやギターに埋もれがちなキーボード類のDIとしても良いのではないでしょうか。

 

 出力についてはゲイン・ブースト0dBでType85と同じくらい、+8dBでRNDIと同じくらいでした。DIとして使うなら個人的には、常時+8dBで使用すると思います。

 

 個人的に、ブースターというのはどんな層に必要なのか分かりかねるところがありました。ケーブルの引き回しが長くとも、プロだとリモート・ヘッド・アンプという手がありますし、音楽家が手元にプリアンプを置いている場合も多々あるからです。ある意味では地味な印象のブースターですが、DBooster2はさまざまな使い方ができる上に軽量で2ch仕様。そのため、エンジニアがバッグに忍ばせるのも良し、DIとしてはプロほどの高品質なオーディオI/Oやプリアンプを持っていない宅録派にも良し。ライブ現場の多い音楽家には出音の底上げ、ライブ・ハウスでの音質向上などが叶い、手ごろな価格でかなり戦力になる一品かと思います。

 

原真人
【Profile】スパーブを経て2005年よりフリーのレコーディング・エンジニアに。大森靖子、細野晴臣、カーネーション、古川麦、World Standardなど数多くのアーティストの作品を手掛ける。

 

ROYER LABS DBooster2

42,900円

ROYER LABS DBooster2

SPECIFICATIONS
▪ゲイン:+12/+20dB(マイク・モード)、0/+8dB(DIモード) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.25dB) ▪入力インピーダンス:3.6kΩ(マイク・モード)、270kΩ(DIモード) ▪出力インピーダンス:300Ω@20dBゲイン ▪電源:48Vファンタム ▪全高調波ひずみ率:0.0015%@20dBゲイン(−25dBuの入力信号、1.3Vp-pの出力信号)、0.001%@12dBゲイン(−6dBuの入力信号、3.66 Vp-pの出力信号) ▪相互変調ひずみ:0.002%以下@20dBゲイン(800mVの出力)、0.005%@12dBゲイン(2.6Vの出力) ▪セルフ・ノイズ:11dBa以下@20dBゲイン、15dBa以下@12dBゲイン(測定条件は、いずれも感度−48dB re. 1V/Paのマイク使用時) ▪ヘッドルーム:127dB@20dBゲイン、120dB@12dBゲイン(測定条件は、いずれも感度−48dB re. 1V/Pa、4mV/Paのマイク使用時) ▪外形寸法:98.435(W)×44.45(H)×98.425(D)mm ▪重量:289g

製品情報

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