バイポーラ・トランジスター採用の回路
低インピーダンス出力でゲイン損失を抑制
Dboosterの使用方法は、マイクとマイクプリ(もしくはコンソール)の間に接続し、48Vファンタム電源を供給するだけです。マイク側にファンタム電源の電流が伝わることは無いので、リボン・マイクでも安心して使用できます。ゲイン設定のスイッチは、出力の非常に低いマイクを使うとき、もしくはボーカルや弱音楽器を収める際は20dBに設定し(スイッチを押し込んでいない状態が20dB。上の写真参照)、ギター・アンプやドラムなど音量の大きいソースに使用するときは12dBにするのがよいでしょう。
Dboosterは、超低ノイズを実現するためにFETではなくバイポーラ・トランジスターの回路を採用。また、ひずみを最小限に抑えるべくピュア・クラスAで動作させ、クリーンなブーストを実現しているそうです。また出力は低インピーダンスで、長いケーブルを使ってもゲインの損失が抑えられ、余裕のあるヘッドルームと良質なサウンドを獲得しているとのこと。他社からも同様のブースターは発売されていますが、ユニークで高品質なリボン・マイクを手掛けるROYER LABSの製品ということで期待が高まります。
ケーブルを長く引き回しても
圧倒的にローノイズなサウンド
まずは私が教員をしている京都精華大学のMagi Sound Studioで試してみました。こちら、比較的大きなスタジオです。セッティングは、ROYER LABSのリボン・マイクR-121をアコースティック・ピアノにペアで立てて設置し、一方をマイクプリAMS NEVE 1073LBに直接つなぎ、もう一方は短いケーブルでDboosterに接続してから1073LBとつなぎました。いずれの1073LBもコントロール・ルームに置いていたため、マイクからの引き回しは20m程度です。最初に、Dboosterのゲイン・スイッチを20dBに設定。併用している1073LBのゲインをもう一方の1073LBより20dB低くし、両マイクの音量をそろえてから録音してみました。
録り音を比較したところ、Dboosterを使用したマイクの方が圧倒的にノイズのレベルが低く、若干ですが明りょうに聴こえてきました。試しに引き回す長さを40mに伸ばしてみたところ、Dboosterを使用した方はノイズの量と音質の変化が感じられません。さらにダイナミック・マイクSHURE SM58に差し替えてチェックしても、同様の結果となりました。
筆者は、三味線や琴などの録音にはリボン・マイクを使いたいと思うことが多いのですが、楽器自体の音量が小さいため、マイクプリによってはゲインを最大にしても思った録音レベルに達しないことがあります。また、マイクプリのゲインを大幅に上げているということはノイズが気になります。そのような事情から出力の大きなアクティブ・リボン・マイクを選ぶこともありますが、Dboosterがあれば出力の小さなリボン・マイクでも問題なく使えるため、マイク選択の幅が広がります。
また当然と言えば当然ですが、マイク・ケーブルを長く引き回すために電源や照明からのノイズを拾いやすい現場(例えばPAやライブ録音)でも効果を発揮するでしょう。コンパクトかつ丈夫なボディをしているので、ステージに置いても安心して使えるのではないでしょうか。
次に、大阪府堺市の小規模なスタジオFLARE STUDIOで機材を変えて試してみました。併用したのはリボン・マイクCOLES 4038とマイクプリのMILLENNIA HV-3D-8です。京都でのチェックと同様に、直接マイクプリにつないだものと、短いケーブルでDboosterにつないでマイクプリに接続したものを録音して比べてみました。セッティングの相違点は、ライブ・ルームからコントロール・ルームまでマイク・ケーブルがじかに引いてあり、引き回す長さが5m程度と非常に短いところです。マイクプリに関しては、ビンテージのNEVE 1073に換えてもチェックしてみました。
このテストでは、Dboosterを使ったものと使っていないもので、ノイズの量や音質に違いがほとんど見られませんでした。ただし、HV-3D-8と1073の音の特徴が両者で同じように出ていましたので、Dboosterは色付けすることなく増幅するブースターであると思います。
Dboosterは、マイクプリやコンソールをマイク付近にセットできる環境であれば、ノイズの軽減という面ではさほど効果が発揮される機材ではないかもしれません。しかしPAやライブ・レコーディングなどマイク・ケーブルを長く引き回すような現場、あるいはリボン・マイクを使って弱音楽器を録音するときには重宝する機材だと思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年6月号より)