RCF Ayra Pro 5 レビュー:独自のFIRフィルターを搭載するDSPを実装したパワード・モニター

RCF Ayra Pro 5 レビュー:独自のFIRフィルターを搭載するDSPを実装したパワード・モニター

 イタリアの音響機器メーカーRCFは、1950〜1960年代にかけて開発/生産したトランスデューサー(電気信号を空気振動=音に変換する装置の総称)が、名だたるブランドのラウド・スピーカーに採用され、OEMメーカーとしての地位を確立しました。そして現在では、自社ブランドで独自の製品を展開しており、このたび新たなニアフィールド・モニターとなるAyra Proシリーズをラインナップ。その中から、Ayra Pro 5について見ていきましょう。

定位の再現に優れ中高域の明りょう度が高い

 出力部は低域に5インチのウーファー、高域に1インチのツィーター、前面に超低域を補強再生するバスレフ・ポートを備え100Wの内蔵アンプで駆動。最大出力は107dB(@1m)、50Hz〜20kHzを再生し、XLR/TRSフォーン/RCAピンの入力端子を備えます。ツィーターとウーファーは2kHzで高域/低域に分けられて信号が増幅されますが、ここに過入力を防ぐソフト・リミッターと、出力を増減する相対EQのようなスイッチを搭載。サイズは幅185mm、高さ300mm、奥行き243mmで、重さは4.3kgとなっています。価格や出力、サイズ感から察するに、これからDAWを始めたい初心者や、より良い環境で音楽を楽しみたいユーザーが導入しやすいのではないかと思います。

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リア・パネル。入力端子はバランス入力×2(TRSフォーン、XLR)、アンバランス入力(RCAピン)を搭載。そのほかにVOLUMEノブ、低域を±2dBで3段階に音量調節できるLOW FREQUENCY TRIMスイッチ、高域を±1dBで3段階に音量調節できるHIGH FREQUENCY TRIM スイッチも装備する

 Ayra Proシリーズは、RCFが独自に開発したFIRフィルター技術“FIRPhase”を搭載した内蔵DSPにより、周波数特性とダイナミクスを最適化し、色付けの無い忠実な音源再生を目指しているとのこと。FIRフィルターは、簡単に言うとデジタル領域(DSP内部)で電気を音声に変換するときに必要な抽出プログラムです。変換で起きる遅延や変換特性が、周波数ごとにズレるのを防いだりする機能を持ちます。この部分を自社開発したということで、なかなかマニアックですね。

 

 肝心の出音を見ていきます。まず製品のターゲット層を考慮し、自分がDAWの初心者という設定で、Ayra Pro 5をリビングの机にポンと置いてラップトップを接続してみました。部屋は、ごく一般的な“大きな声を出すと割と響く”部屋です。普段リファレンスにしている音源を再生したところ、第一印象は“普通にちゃんと聴こえる”というものでした。特に音の定位(水平軸上の音の位置)、中高域の明りょう度が高く、音の前後感も適度に表現されています。中低域は机の面との共振があり濁って弱くなっている印象があったため、家電量販店で入手できる3,000円程度の真ちゅう製インシュレーターを敷いてみたところ、50Hz程度まで快適に聴き取れるようになりました。ここで気付いたのが、自分の耳と同じ高さにツィーターが向いている(もしくはその高さに設置されている)のと、そうでない場合の聴こえ方が大きく異なる点。この点は留意した方がよさそうです。

 

 今回は机上に置いたので、本体が斜め上になるようにインシュレーターを調整し、ツィーターが耳に向くようにしました。サイズ、重量が過不足なくまとまっているので、設置時の微調整が容易です。自由度が高いので耳を頼りに突き詰めれば、実務に耐え得る設置も不可能ではないように思います。

ミックス向きの端正な音で小音量でもバランス良く確認できる

 次に音響管理ができているスタジオ内のスピーカー・スタンドに設置して、制作者として普段の業務を行ってみました。まず感じたのは、全帯域にわたって非常に端正な音が出ていることです。リビングに設置したときは部屋の響きもあり程良く豊かになっていましたが、スタジオは残響も調節されています。FIRPhaseの色付けの無さが、ここに効いているのかなと思いました。一般的にこのクラスのスピーカーは、出力が小さいことを補うために高域が派手であったり、必要以上に低域が出ていたりすることが多く見受けられます。Ayra Pro 5にはそういった“制作時に不要な誇張表現”がほとんど無いことに、非常に好感が持てました。音と音との関係性が作りやすかったり(=ミックスしやすい)、低域まで音程が見えやすいので作曲やアレンジ上の間違いが少なくて済みそうです。

 

 また、音量変化に伴う周波数バランスの変化も小さいように感じました。小音量でも低域までバランス良く確認できます。音源を大迫力で鳴らし切るというより、パッケージとしてまとまったように丁寧な音像が出力されるためスピーカー自体にも無理が無く、適度に大音量で鳴らしても変に飽和することがありません。“リリース後の楽曲全体の音が想像しやすい”という点でミックスの確認などにも使えるなと思いました。

 

 Ayra Pro 5は、バスレフ・ポートからの音が変に誇張されておらずバランスが良いことも追記しておきます。ここはメーカー、製品ごとで表現に大きく差が出る部分です。50Hz以下は出力されていない仕様とのことですが、特にトラップや映画の劇伴などは50Hz以下も確認が必要なケースは多々あります。この点、出力可能なほかの帯域でのピッチ把握がしやすいので、超低域も”想像しやすい”出音です。仮にDAW初心者がこれを買った後の展望として、サブウーファーの導入はお薦めできるアップデートと言えるでしょう。

 

 プロ・オーディオで実績のあるRCFが、パーソナル・スペース向けの製品をリリースすること自体ちょっと意外に思いましたが、端正な出音にはエンジニア目線で非常に好感が持てます。2.1chモニタリングへのアップデートも容易に想像が付くことから、初心者が5年以上の長期スパンで長く付き合うスピーカーとして、とても良い製品に思います。

 

SUI
【Profile】作曲、トラック・メイクからボーカルのディレクション、ミックス・ダウン、マスタリングまで手掛ける作家/プロデューシング・エンジニア。近年は劇伴やCM音楽にも活躍のフィールドを広げている。

 

RCF Ayra Pro 5

オープン・プライス

(市場予想価格:21,780円前後/1台)

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SPECIFICATIONS
▪構成:5インチ複合ファイバーグラス・ウーファー+1インチ磁性流体ソフト・ドーム・ツィーター ▪周波数特性:50Hz〜20kHz(−10dB) ▪クロスオーバー周波数:2kHz ▪出力:低域75W+高域25W(RMS) ▪最大音圧レベル:107dB @1m ▪水平指向角度:110° ▪垂直指向角度:70° ▪入力インピーダンス:5kΩ ▪入力感度:−2dBu/+4dBu ▪消費電力:120W ▪外形寸法:185(W)×300(H)×243(D)mm ▪重量:4.3kg

製品情報

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