
必要な帯域が必要なだけ出ている印象
やっかいなピークが無くクリアな音
ST 15-SMAは2ウェイのパワード・スピーカーで、ステージ・モニターとしての使用が想定されています。エンクロージャーの中には15インチ径のウーファーと1インチのコンプレッション・ドライバーを搭載し、それらを出力1,200W(ピーク)の内蔵パワー・アンプでドライブさせることが可能。最大音圧レベルは131dB SPLで、周波数特性は45Hz〜20kHz。指向性は90°(水平)×60°(垂直)と広めの印象です。
今回は響きの少ないライブ・ハウスでチェックしました。実機を受け取りまず感じたのは、15インチというサイズにしてはスリムということ。PA用スピーカーにおいてかなり重視したい点として、筆者は形状を挙げます。モニター・スピーカーとなるとどうしても台数が必要になりますが、本機の形状は秀逸で、積み込みや収納の際にかさばることがなさそうです。背面のハンドルにも、運搬などへの配慮を感じます。
まずはウェッジ・モニターとしてシングルでセットし、卓につないだSHURE SM58に声を入れてみると、すぐに分かりやすいサウンドだと感じられました。“必要な帯域が必要なだけ出ている”という印象でしょうか。やっかいなピークが無く、クリアでナチュラルなサウンドです。SM58以外にボーカル用やドラム用などのマイクを試してみたところ、マイクの特性をそのまま再現できるような柔軟性を感じました。このクオリティであれば、エンジニアにとってもボーカリストにとっても、自身のマイク・セレクトに意味があるのだと実感できるでしょう。
また2ウェイという構成と水平方向にも広い指向性のおかげで、モニター可能なエリアが広くなるため、演奏者のストレス軽減が期待できます。最近では同軸型のステージ・モニターも増えてきましたが、やはり2ウェイにもカバー・エリアの広さなどのメリットがあります。
ダブルで使用してみると、そのメリットはより顕著になりました。またL/Rの各スピーカーの位相が合ったポイントでは、周波数特性は大きく変化せぬまま、聴感的に中域が前に出るような立体感を覚えます。当然の結果であるものの、その当然がここまで効果として反映される精度は特筆ものです。ダブルで使用する場面は対ボーカリストに多いと思いますが、ボーカリストが声をとらえるための一番重要な帯域がしっかりと出るため、モニター・エンジニアは外音の回り込みを懸念して、必要以上の音量を出す必要が無くなるでしょう。
“BOOST”スイッチを押すと
FOHでも使える迫力のある音に
続いて音源を試聴してみたところ、モニターに必要な帯域をハイエンドまで均等に再生する、まるでスタジオ用ヘッドフォンをそのまま大きくしたような音になりました。ここまでのインプレッションを裏付けているかのような特性です。エンクロージャーにバーチ合板を使っているということで、箱鳴りもタイトかつ柔らかい印象です。
この通りとても正直な音のするスピーカーですが、背面の“BOOST”スイッチをONにすると一変して、迫力と躍動感が加わります。とは言え音質を損なうことはなく、そのパワーには安定感があります。60〜80Hz辺りを増幅しているようで、あたかもサブウーファーと合わせたときのような音圧感を得られるのです。その結果リスニングにも対応できるようになり、底面のポール・マウント・ソケットを活用すればメイン・スピーカーやインフィルとしても十分に活躍するでしょう。
ステージ上でのパワード・スピーカーの取り扱いにおいて、一番気を付けたいのが電源ケーブルと内蔵アンプの音量です。電源ケーブルについては突然外れないように、代理店のエレクトリからロック付きの電源ケーブル(音も良い!)を別途購入すると良いかもしれません。内蔵アンプの音量ツマミなどはリアのくぼんだところにあるため、移動やケーブルなどで簡単に設定が変わってしまうこともないでしょう。
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ハウリングを取り除くというネガティブ・アプローチから“ステージ上の音場に自由度を与える”という発想に進めることは、現場の空気を前向きにします。ST 15-SMAは、アンサンブルを追うことだけでなく、音楽の深みまで見られるステージ・モニターとして活躍するでしょう。

製品サイト:https://www.otk.co.jp/products/rcf/detail.html?product=513
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年3月号より)