MOTUから発売されたオーディオインターフェース、828。初代828は2001年に登場し、その後は828 mk2、828 mk3、828esと同社オーディオI/Oの世代が変わるごとにリニューアルしてきた。そのため今回は“828 mk5”と名乗ってもよいところを、あえて828という名前に戻してきたところに、“これが今後の標準!”的なMOTUの気合を感じると言えるのではないだろうか。実際に箱から出してみた印象は、“大きくて重い!”。これまで同社のオーディオI/Oはあまり奥行きがないものが多かったが、今回の828の奥行きは311mm、重さは5kg。持ち運ぶという意味では軽い方がうれしいが、電源やアナログ回路を良いものにすると基本的には重くなると思うので、個人的にはその重さにも説得力を感じた。
全入出力を一望できる圧巻のディスプレイ
まず基本的なスペックを簡単に紹介しておこう。USB-C接続で、Mac/Windows/iOSに対応、MacとiOSはプラグ&プレイで使用できる。ミキシングなどの細かい操作に関しては付属のアプリCueMix 5でのみ設定できることも多いので、基本的にはコンピューターやiPadなどからコントロールすることになるだろう。対応サンプリングレートは44.1/48/88.2/96/176.4/192kHzだ。
入力数はアナログ10+デジタル18の合計28(最大の場合)となっている。内訳はアナログがMIC/LINE/INSTRUMENT入力×2(XLR/TRSフォーンコンボ)、LINE IN×8(TRSフォーン)。デジタルはオプティカル入出力×2系統(ADAT、S/MUX、TOSLinkのいずれかで利用可能だが、TOSLinkはバンクAの1系統のみ。チャンネル数はサンプリングレートによる)、S/P DIF×1(コアキシャル)を装備。出力数はアナログ14+デジタル18の合計32(最大の場合)。内訳はアナログがMAIN OUT L/R(XLR)、LINE OUT×8(TRSフォーン)で、デジタルは前述の入力と同様。アナログ出力で使用されているDAコンバーターはESS SABRE32 Ultra DACで、125dBのダイナミックレンジと−114dBの全高調波ひずみ率+ノイズを実現している。
本体内にはミキシングとエフェクトのためのDSP(リバーブ、4バンドEQ、ゲート、コンプレッサー)を備え、24ch/ステレオバス8系統のデジタルミキサー/コンバーターとしても機能する。ループバック機能も用意されているので、ライブ配信やポッドキャスト用のミキサーとしても利用可能だ。
と、スペック的な内容に関しては既にさまざまなメディアで情報が出ているので、実際に触ってみた印象を書いていこう。まず電源を入れてノブを回してみると適度な重みで実に操作しやすく、高級感がある。そして3.9インチ/24ビットRGB液晶ディスプレイが圧巻だ! ディスプレイが小さい機種ではADATの8chそれぞれに関しては細かく表示されなかったりするが、828はすべての入出力を一度にモニターできる。もちろんアナログ入出力のみ/デジタル入出力のみなど、用途に応じてカスタマイズも可能なので、あまり細か過ぎると見づらくて……という人にもやさしい。
出力は高域の分解能と奇麗さが素晴らしい
次に音質の話を。まずMAIN OUTの音を聴いてみたところ、自宅の環境では高域の分解能と奇麗さが素晴らしく良かった! ジャリっと濁りがちな高域のキラキラさがしっかり再生されるので、ミックス作業などでも正確に判断できるだろう。また、LINE INにアナログシンセやハイレゾの曲をインプットして録音してみたところ、先ほどのMAIN OUTの印象もあると思うが、低域から高域までにじむことなく奇麗に録音できた。さらにメーカーから、“Mac/Windowsの両方に最適化されたドライバーによって、MOTU Digital PerformerのようなDAWで2ms以下の超低レイテンシーを実現(USB 3またはUSB 2接続、32サンプルのバッファーサイズ、96kHz時)”とアナウンスされているので、実際にApple MacBook Air(M2)とDigital Performer 11で16トラックを再生しながら、シンセを弾いてDAWからのオーディオスルーでモニターしつつレコーディングしてみたが、何のストレスもなくモニター&レコーディングできた。
エフェクトのかかり具合やクオリティも良好
次に、828内蔵のミキシング機能を活用するためのアプリ、CueMix 5を紹介しよう。これはMac/Windows/iOS対応で、828に入力された信号(アナログ/デジタル/コンピューターからの出力)を、MAIN OUT、2系統のヘッドホン、LINE OUT3〜10でそれぞれどのようにモニターするか?というバランスを調整できる。アナログ入力では入力チャンネルごとにEQ、ゲート、コンプを使用可能だ。コンピューターに送って録音する場合は、エフェクトをかけて送るか、それともかけずに送るかをチャンネルごとに設定できる。
さらにリバーブが1系統用意されているので、ヘッドホンでモニターしながら録音する際にも、自然な残響をつけて快適にレコーディングを行える。そもそもプラグイン自体を提供しているメーカーだけに各エフェクトのかかり具合やクオリティも良く、バンドレコーディングする際などはギターを弾いていないときのノイズをゲートでカットしたり、ドラムなどダイナミクスの激しい音を録る際はピークレベルを軽く抑えるなど、便利に使えるだろう。その上、このCueMix 5は同じネットワークに接続されていれば外部からコントロールも可能。各メンバーのiPadやiPhoneで自分のモニターをコントロール、なんてこともできてしまう。
フットスイッチでショートカットも実行できる
そのほかの828の便利機能にも触れておこう。フロントパネル中央のA/Bセレクトボタンを使用すると、メイン出力をMAIN OUT L/RとLINE OUT 3/4にワンタッチで切り替えられる。それぞれ異なるモニターを接続し、ミックス時などの聴き比べを簡単に行えるだろう。またリアパネルにフットスイッチを接続して、コンピューターキーボードのキー操作を割り当てることが可能だ。踏む/離すのそれぞれに別キーを設定可能で、Ctrl+Aといった複数同時キーも実行できる。パンチイン/アウトのコントロールやマーカー送りなどに利用してもいいだろう。
かなり駆け足で紹介してきたが、828は高音質で入出力も多く、コンピューターやiPadなどで簡単なミキシングもできるので、自宅で音楽制作をする際はもちろん、小規模スタジオでの使用やアコースティックバンドの録音、配信などさまざまなシチュエーションで活躍できるオーディオI/Oと言えるだろう。何はともあれ、音が良いということは何よりも大事だと思うので、828、お薦めします!
守尾崇
【Profile】作編曲家/キーボーディスト。これまでにケツメイシ、Charisma.comらの作品を手掛ける。さまざまなアーティストのライブにキーボーディスト、マニピュレーターで参加。ソロプロジェクトも進行。
MOTU 828
オープンプライス(市場予想価格:169,400円前後)
SPECIFICATIONS
▪接続方式:USB 3.1(USB 2.0互換、USB-C端子搭載、クラスコンプライアント) ▪対応サンプリングレート:44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz ▪ラウンドトリップ・レイテンシー:2ms以下(32サンプルバッファ@96kHz) ▪マイク入力:+74dBゲイン(1dBごとに調整)、-20dB PAD(各入力個別)、+48Vファンタム電源 ▪ライン入力:+20dBのデジタルゲイン(各入力) ▪外形寸法:482.6(W)×44.4(H)×311(D)mm ▪重量:5kg ▪付属品:USB 3.2 Gen1 Type-C-to-Cケーブル×1本