Minimal Audio CURRENT レビュー:5つのサウンドエンジンとクラウド型プラットフォームを備えるソフトシンセ

Minimal Audio CURRENT レビュー:5つのサウンドエンジンとクラウド型プラットフォームを備えるソフトシンセ

 マルチバンドエフェクターRiftやMorph EQなどで、DTM界にクリエイティブな新風を巻き起こしたMinimal Audioが、フラッグシップのソフトシンセCURRENTを発表しました。5つのサウンドエンジンと8つのエフェクターを備え、さまざまなプリセットやウェーブテーブルを使用できるプラットフォームも内包しています。今回はそんな、群雄割拠の最新ソフトシンセの最前線に革新的な機能を幾つも持ち込んだCURRENTのご紹介です。

個性的な倍音を生み出す機能が多彩

 CURRENTは大きく以下の3つに分けられます。

 ① 波形やフィルターなどでシンセサイズする“ENGINE”

 ② 8つのエフェクターを管理する“EFFECTS”

 ③ プリセットやウェーブテーブル、サンプルを使用できるクラウド接続のプラットフォーム“STREAM”

 まずはソフトシンセのコアである①のENGINEから見ていきましょう。サウンドエンジン、モジュレーションシステム、MIDIエフェクトの3つから構成されています(上掲の画面)。

 サウンドエンジンは5つあり、2つのオシレーター(OSC A、OSC B)を備えた“WAVETABLES”、グラニュラーエンジン“GRANULAR”、加算式サブオシレーター“SUB”とタイムストレッチングサンプラー“SAMPLER”に加え、2つのフィルターを備える“FILTERS”とFM/AM変調ができる“FM/AM”が用意されています。

 ウェーブテーブルシンセとしての私の評価基準は、“ウェーブテーブルのバリエーション”と“倍音を生み出す変調手法の豊富さ”の2つのポイントです。CURRENTは、ウェーブテーブルについてはプラットフォームSTREAMからCURRENT内でダウンロードできるので、ほぼ無限に供給可能。これは明らかなアドバンテージでしょう。

 そして、倍音を生み出す手法も豊富かつ効果的。例えば“ひずみ”に関してはサブオシレーターにDRIVEがあり、SOFT/HARD/TUBE/MAXIMIZEの4種から選ぶことが可能で、音作りに妥協がありません。

加算式サブオシレーター“SUB”の画面。DRIVEでは、ひずみのタイプをSOFT/HARD/TUBE/MAXIMIZEの4種から選べる

加算式サブオシレーター“SUB”の画面。DRIVEでは、ひずみのタイプをSOFT/HARD/TUBE/MAXIMIZEの4種から選べる

 さらにFILTERSには、モーフィング、バウエル、コムなど、50種類以上のタイプが用意されており、基本的なものを押さえつつも個性が際立ちます。特に“HOWL”や“FLUTTER”などの、名前からは想像もできないような個性的な倍音変化が筆者のお気に入りとなりました。また、SPREADというパラメーターも用意されていて、カットオフ周波数に左右差を作り出すことによるステレオ化も可能になっています。

FILTERSの画面。モーフィング、バウエル、コムなど、50種類以上の形が用意されている。SPREADというパラメーターでは、カットオフ周波数に左右差を作り出してステレオ化することができる

FILTERSの画面。モーフィング、バウエル、コムなど、50種類以上の形が用意されている。SPREADというパラメーターでは、カットオフ周波数に左右差を作り出してステレオ化することができる

 またFM/AMは、自由自在なモジュレーションが可能。例えばOSC AをGRANULARでFM変調したり、サブオシレーターSUBをサンプラーでAM変調したり、やりたい放題できます。

FM/AMの画面。OSC AをGRANULARでFM変調したり、サブオシレーター(SUB)をサンプラーでAM変調したり、自由自在にモジュレートできる

FM/AMの画面。OSC AをGRANULARでFM変調したり、サブオシレーター(SUB)をサンプラーでAM変調したり、自由自在にモジュレートできる

基音のオン/オフの切り替えが可能

 また、ウェーブテーブルシンセサイズにおいて、オシレーターそれぞれの役割を合理的に考えておくことも重要。これが楽しい倍音変化の演出のキモでもあります。WAVETABLES画面のパラメーターには“FUNDAMENTALS”を意味する“FUND”というボタンがあり、これは基音のオン/オフを切り替えるスイッチです。

2つのオシレーター(OSC A、OSC B)から成るWAVETABLESの画面。基音のオン/オフができる“FUND”というスイッチ(赤枠)が用意されているのが大きな特徴の一つ

2つのオシレーター(OSC A、OSC B)から成るWAVETABLESの画面。基音のオン/オフができる“FUND”というスイッチ(赤枠)が用意されているのが大きな特徴の一つ

 複数のオシレーターを重ねて太いベースを作るときなどは、各オシレーターに基音があると位相ズレが生じむしろ低音が上手く伸びないことがあり、筆者はウェーブテーブルを手書き編集できる場合はその都度消していました。しかしCURRENTでは、ベースの基音はサブオシレーター“SUB”に全力で任せてしまって、ほかのオシレーターは“FUND”をオフにしてしまえばよいのです。低音の位相問題をトグル一つで解決できるのは非常に助かりますね。

強力なグラニュラーエンジン“GRANULAR”

 そして筆者が特筆に値すると感じているのは、グラニュラーエンジン“GRANULAR”です。

GRANULARの画面。波形の左にある“LAYERS”で、生成されるグレインの数を1〜8で設定可能。再生方法はその下の“PATTERN”から、EVEN/TRIGGER/RANDOM/WAVES/STRIKEの5種類から選択できる

GRANULARの画面。波形の左にある“LAYERS”で、生成されるグレインの数を1〜8で設定可能。再生方法はその下の“PATTERN”から、EVEN/TRIGGER/RANDOM/WAVES/STRIKEの5種類から選択できる

 筆者はグラニュラーシンセシスを“可変できる再生速度と、粒状に生成された音の破片=グレインを操るシンセシス”として捉えています。音声をスローモーションにするような感覚に近く、それ以上の表現も可能です。GRANULARは、これだけで独立したプラグインとしても成立するほどのパワーと柔軟性を秘めており、これこそがCURRENTがほかの競合ソフトシンセ群の中でさんぜんと輝く個性そのものだと、強く印象を受けました。

 GRANULAR画面の波形左に表示されている“LAYERS”では、生成されるグレインの数を1~8まで設定可能。さらに再生方法は、EVEN/TRIGGER/RANDOM/WAVES/STRIKEの5種類から選択できます。どれも個性的で、さまざまな音の深みを感じることができました。

クリエイティビティにあふれる“SAMPLER”

 SAMPLERについては、筆者の先入観からノイズジェネレーターとしての使用を前提に捉えていたのですが(もちろんそのようにも使える)、再生モード“WARP”で選択できる“REPITCH”と“FLEX”が、想像以上にクリエイティビティにあふれていました。

タイムストレッチングサンプラー“SAMPLER”の画面。再生モード“WARP”ではREPITCHとFLEXの2つのモードを選択できる。REPITCHではピッチのコントロールや16ボイスまでのデチューンが可能。FLEXではタイムストレッチによる音作りができ、スピードをモジュレートすることもできるようになっている

タイムストレッチングサンプラー“SAMPLER”の画面。再生モード“WARP”ではREPITCHとFLEXの2つのモードを選択できる。REPITCHではピッチのコントロールや16ボイスまでのデチューンが可能。FLEXではタイムストレッチによる音作りができ、スピードをモジュレートすることもできるようになっている

 REPITCHではクラシックなサンプラーのようにピッチをコントロールできるだけでなく、通常のオシレーターと同様に16ボイスまでのデチューンが可能。FLEXは、GRANULARと同等とまではいきませんが、タイムストレッチによる音作りが可能で、スピードをモジュレートすることもできるようになっています。

モジュレーションソースは計10個

 ここまでご紹介した5つのサウンドエンジンの下部にはモジュレーションシステムがあり、合計10のモジュレーションソースが用意されています。AMP専用として固定されたAMP ENV、そして残りの9つのソースは、それぞれが自由にENVELOPE/LFO/CURVE/FOLLOWから選択できるという仕様です。

 中でも特徴的なのは、LFOとしてもワンショットエンベロープとしても使用可能な“CURVE”。豊富なプリセットを使用することも、自らカーブをデザインすることもできます。もちろんDAWのタイムラインにシンクしたリズミックなエンベロープやLFOも簡単に制作できるでしょう。

サウンドエンジン下部にあるモジュレーションシステム。10のモジュレーションソースが用意されており、内9つのソースは、自由にENVELOPE/LFO/CURVE/FOLLOWから選択できる。上画面に表示されているのは“CURVE”で、プリセットを使用したり、自分でカーブをデザインしたりすることができるようになっている

サウンドエンジン下部にあるモジュレーションシステム。10のモジュレーションソースが用意されており、内9つのソースは、自由にENVELOPE/LFO/CURVE/FOLLOWから選択できる。上画面に表示されているのは“CURVE”で、プリセットを使用したり、自分でカーブをデザインしたりすることができるようになっている

キーボードには再生モード“CHORD”“ARP”を用意

 画面最下段のキーボードでは、“CHORD”“ARP”から再生方法を選択可能。

Currentの画面最下部にあるキーボード。画面左側で再生方法を“CHORD”(上画面)、“ARP”(下画面)から選択できる

Currentの画面最下部にあるキーボード。画面左側で再生方法を“CHORD”(上画面)、“ARP”(下画面)から選択できる

 右側の“SCALE”でスケールを選択すれば、CHORDで選択したボイシング、あるいはARPで選択したアルペジエイターがそのスケール上で演奏されます。CHORDではストラムや設定のランダム化、ARPではワンショットモードや、移調したノートを各ノート間に入れて演奏させるALTERNATE STEPSなどの設定が可能。音色だけでなく演奏情報までもがデザインでき、画期的です。

シンセに搭載されるレベルを超越したエフェクト群

 続いて②の“EFFECTS”を見ていきます。Polar Distortion(同社のマルチバンド・ディストーションRiftの機能を継承)、Flex Chorus、Fuse Compressor、Cluster Delay、Morph EQ、Hybrid Filter、Ripple Phaser、Swarm Reverbの8つのエフェクトが用意されており、そのどれもが強力。シンセサイザー内に搭載されるレベルを超越していると言えるでしょう。基本的なコーラスであるFlex Chorusだけを取って見てもその効果は多彩で、TIMEやFEEDBACKの設定次第では音そのものだけでなく、残響空間をも彩る演出が可能です。

 またSWARM REVERBは、自然な残響空間からエフェクティブな効果までカバーできるリバーブで、テンポシンクしたプリディレイやインプットに対してのダッキングも装備。ルームやホールという複数のアルゴリズムが用意されているわけではなく、あくまで1アルゴリズム内におけるモジュレートの自由度で残響を演出するのですが、その幅広さは想像以上です。

EFECTS内のリバーブ、SWARM REVERBの画面。テンポシンクしたプリディレイやインプットに対してのダッキングも用意されている

EFECTS内のリバーブ、SWARM REVERBの画面。テンポシンクしたプリディレイやインプットに対してのダッキングも用意されている

 すべてのエフェクトのドライ/ウェットはモジュレートできるので、テンポに同期したLFOやエンベロープによって、リズミカルにパラレルプロセッシングすることが可能。平坦なベースやパッドに過激なエフェクト群をリズミカルに混ぜるといったことが、非常に高いクオリティでシンセ内で完結できるというのは驚きです。

 最後に③のクラウド接続のプラットフォーム“STREAM”を紹介します。

クラウド接続のプラットフォーム“STREAM”の画面。膨大な数のプリセットやウェーブテーブル、サンプル音源の読み込みやダウンロードができる

クラウド接続のプラットフォーム“STREAM”の画面。膨大な数のプリセットやウェーブテーブル、サンプル音源の読み込みやダウンロードができる

 “PRESETS”では大量のプリセットの読み込み&ダウンロードが可能。さらに“WAVETABLES”なら、OSC A、OSC Bのどちらに読み込むか、“SOUNDS”なら、GRAINS(GRANULAR)かSAMPLERどちらに読み込むかを選択できるので、作業効率が良く、ストレージを圧迫することも避けられます。また、ダウンロードしておけばオフラインでも使用可能。コンテンツは毎月追加されるようなので、飽きることもなさそうです。

シンセサイズの楽しさを教えてくれる

 全体のサウンドインプレッションを筆者なりにまとめると、CURRENTは高いクオリティのエフェクト群と、ほかと一線を画すグラニュラーエンジンを搭載しているため、音そのものだけでなく、空気感を含めた音色の完成度が高いです。プリセットの音を聴いているだけで、アーティストの新曲を聴いているような感覚になります。それだけ可能性を秘めたシンセサイザーですし、まだまだ知らない音作りの手法がありそうだと感じさせられました。信号の経路は分かりやすくデザインされているので、自由度が高すぎて路頭に迷うようなこともないと思います。

 “少し実験的でまだ誰も聴いたことのない音色を作ってみたい”“クリエイティブなアイディアのきっかけが欲しい”なんてときにはぴったりのシンセでしょう。音作りに煮詰まったら、STREAMでプリセットやウェーブテーブルを聴いているだけで、さまざまなインスピレーションを得ることができると思います。気に入った音を見つけたら読み込んでみて、どんな方法でこの音が変化しているのかを考察&検証するだけでも楽しく、時間を忘れてしまいます。内蔵されているシンプルな波形や、既に所有済みのサンプルを元にさまざまな音色を生み出せるので、CURRENTはシンセサイズの楽しさを教えてくれるでしょう。

 

深澤秀行
【Profile】シンセサイザー・プログラマー/作編曲家。アニメやゲームのサントラ、作品のリミックスまで幅広く手掛け、「やのとあがつま」やモジュラー・シンセ・ユニット「電子海面」のメンバーとしても活動。

 

 

 

Minimal Audio CURRENT

33,000円

Minimal Audio CURRENT

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.9以降(64ビット)
▪Windows:Windows 10以降(64ビット)
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST、VST3

製品情報

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