mäag AUDIO PREQ2-500 レビュー:AIR BAND EQやスルー出力を搭載のAPI 500互換モジュールマイクプリ

mäag AUDIO PREQ2-500 レビュー:AIR BAND EQやスルー出力を搭載のAPI 500互換モジュールマイクプリ

 今回レビューするのは、API 500互換モジュールのmäag AUDIO PREQ2-500。同社からリリースされている1Uサイズの2chマイクプリ、PREQ2と同じ入力トランスや回路トポロジーを備える1chマイクプリです。

上位モデルPREQ2と同じ入力トランスや回路トポロジーを採用

 mäag AUDIO創設者のクリフ・マーグは、1990年代にNTIというメーカーでEQ3という1Uサイズの2ch EQを開発しました。当時、私の録音した曲をデヴィッド・ペンサド氏やデイブ・ウェイ氏といったグラミー受賞エンジニアにミックスしてもらっていたのですが、彼らはボーカル/バックボーカル、そして楽曲全体にEQ3を活用していたのを覚えています。当時のヒップホップやR&BのサウンドにはEQ3が不可欠だったので私も購入し、2010年頃までアナログコンソールでミックスするときには必ず使用していました。NTIからはEQ3の後継モデルが発売されないためさみしく思っていましたが、その後EQ3はmäag AUDIO EQ4へと“進化”。現在はそれをシミュレーションしたプラグインを愛用しています。

 PREQ2-500の話に移りましょう。入力段にはPREQ2と同じmäag AUDIO製のニッケルコア・インプットトランスを搭載。+71dBのクラスAゲインを備え、最大出力+27dBuを実現しています。等価入力ノイズは−128dBという高レベルのスペックです。次にフロントパネルを見てみましょう。最上部にはmäag AUDIOの特徴と言えるAIR BANDノブを搭載。周波数帯域は2.5/5/10/15/20/40kHzから選択でき、その下にあるAIR GAINノブを用いて最大9dBのブーストが可能です。これにより、サウンドに空気感や明るさを加えることができます。

PREQ2-500の基板。PREQ2-500は、同社からリリースされている1Uサイズの2chマイクプリ、PREQ2と同じ入力トランスや回路構成を備えている。写真右下に見える銀色のボックスは、入力段に位置するトランスmäag AUDIO MA02だ

PREQ2-500の基板。PREQ2-500は、同社からリリースされている1Uサイズの2chマイクプリ、PREQ2と同じ入力トランスや回路構成を備えている。写真右下に見える銀色のボックスは、入力段に位置するトランスmäag AUDIO MA02だ

 フロントパネル中央にはGAINノブを装備。これを使用することで、ユーザーはマイクや楽器からの入力信号レベルを増減させることができます。ノブの仕様は回転する際に特定の位置で“カチッ”と感じるノッチタイプではなく、滑らかに回転する連続可変タイプです。すぐ真下にある+25 GAINスイッチを用いることで、入力信号のゲインレンジを+20〜+42dB、または+42〜+71dBという2つの範囲に切り替えることが可能です。これによりさまざまな信号レベルの音源に対応でき、細かいゲイン調整が可能となります。

 +25 GAINスイッチの右側にあるのは、AIR BANDスイッチ。先ほどのAIR BAND EQをオンまたはオフにするスイッチです。また、PAD−20スイッチは入力信号のレベルを20dB減衰させます。これは特に信号レベルが高い音源を扱う際に役立ち、入力段での過剰な信号レベルを避けるために使用します。70Hzスイッチは、70Hz以下の周波数帯域をカットするローカットフィルターです。不要な低域やハムノイズを除去するのに役立ちます。続く48vスイッチは、48Vファンタム電源供給のオン/オフを切り替えることができ、Φスイッチは入力信号の位相を反転させることができます。

 フロントパネルの最下段には、INST INPUTジャックとINST/MIC THRUジャックを搭載。前者は楽器用の1/4インチ入力ジャック(フォーン)。1MΩというハイインピーダンス仕様のため、ギターやベースなどの楽器を直接接続することができます。後者は1/4インチのスルー出力ジャック(フォーン)。スルー出力といっても、アンプ回路やEQ処理が反映されるため、アンバランスアウトと呼んでもいいでしょう。

エッジの効いたスピード感あふれるサウンド プレゼンスを強調できるAIR BAND EQ

 それでは、PREQ2-500をAPI 500互換モジュール用シャーシにマウントして使ってみましょう。まずはボーカルからテスト。コンデンサーマイクを同シャーシのXLR入力端子へ接続します。余計な付加音のないソリッドな音色を感じました。NTI時代から変わらない往年のサウンドです。クラスAアンプを搭載しているため温かみのある音がするだろうと予想していましたが、どちらかというとクラスABアンプの特徴に近いエッジの効いた、スピード感あふれる音がします。また+25 GAINスイッチのオン/オフでもかなり音色が変わります。個人的にはオンのときの方がプレゼンスがあり、音の輪郭もハッキリとしていて好きです。そのため、ゲイン調整はPAD−20スイッチを基本に行う方がよいでしょう。ローカットフィルターの減衰率は−12dB/octなため、70Hzスイッチを入れると、不要な低域を自然にカットすることができます。

 次は、目玉のAIR BANDノブを見ていきましょう。以前使用していたEQ3では固定でしたが、PREQ2-500では2.5/5/10/15/20/40kHzから選べるため非常に便利。ボーカルの声質にもよるかと思いますが、私の場合は大体10kHzか20kHzに設定することが多いです。AIR GAINノブでは、12時辺りに設定しても十分な空気感やプレゼンスを得られます。ミックス時、私はボーカルだけでなくマイク録音した生楽器にもAIR BAND EQを使用します。高域をブーストし、明瞭さを高める処理をよく行っているのです。皆さんはミックス時にEQプラグインを使用することが多いかもしれませんが、アナログEQで処理した方が圧倒的に存在感のある音になります。マイクプリの段階で空気感を増幅し、音の存在感を高めておくと最終的に良い結果が得られるでしょう。

 次に、ギター/ベースをテスト。比較には、PREQ2-500と同じように楽器用の入力を持つプリアンプやDIを用いましたが、それらに負けないくらいの音質です。AIR BAND EQでプレゼンスを強調することで音がより明瞭になるため、さらに良い結果が得られます。ちなみにギター/ベースをDIに通し、そのXLR出力を本機に入力してみましたが、それだけでも十分良い音だということが分かりました。

 EQ3のAIR BAND EQはシェルビングで高域を上げる仕様です。しかし、その感じはほかのEQではなかなか得られませんでしたので、今まではAIR BAND EQを再現したプラグインを使っていました。今回のPREQ2-500を使用してAIR BAND EQの再現性が確かなものだと実感すると同時に、やはり実機を用いたEQ処理の方が優れた結果が得られるということにも気づきました。マイク録音に限らず、ギターやベースのバッファーとして、元の信号の音質を維持するのにも役立ちますので、さまざまな使い道が期待できるEQだと言えるでしょう。

 

森元浩二.
【Profile】prime sound studio formのチーフエンジニア。これまでに浜崎あゆみ、AAA、DA PUMPなど、ジャンルを問わず数多くのアーティストの作品に携わっている。

 

 

 

mäag AUDIO PREQ2-500

173,800円

mäag AUDIO PREQ2-500

SPECIFICATIONS
▪最大ゲイン:71dB ▪ノイズレベル:−100dB(最小ゲイン設定時) ▪EIN(等価入力ノイズ):−128dB ▪+25dB GAINスイッチ:+20〜+42dB(オフ時)、+42〜+71dB(オン時) ▪PAD −20スイッチ:入力信号レベルを−20dB減衰 ▪48vスイッチ:48Vファンタム電源を供給 ▪外形寸法:約38(W)×約133(H)×178(D)mm ▪重量:480g

製品情報

関連記事