音の透明性を追求する LYNX STUDIO TECHNOLOGY

LYNX STUDIO TECHNOLOGYのオーディオインターフェースを紹介する

 1998年に設立されたLYNX STUDIO TECHNOLOGY。20年以上にわたり、プロ・スペックのオーディオ・インターフェースやAD/DAコンバーターを世に生み出してきたメーカーだ。製品ラインナップは厳選されており、それらは長年にわたってプロに愛用され続けてきた。その理由の一つが“音の透明性”。レコーディングで重視される、演奏を可能な限り正確かつ色付け無くとらえることを目指し、同社のコンバーターは製作されている。本稿ではLYNX STUDIO TECHNOLOGYの実力をあらためて知るべく、ユーザーたちのインタビューを行った。

Photo:Takashi Yashima

LYNX STUDIO TECHNOLOGY
珠玉のプロダクト

 まずはLYNX STUDIO TECHNOLOGYの主力製品であるAD/DAコンバーターのHiloと、オーディオ・インターフェースのAurora(n)の性能を振り返ってみよう。

Hilo

オープン・プライス:市場予想価格260,000円前後〜/LSlotの構成により価格が異なる

AD/DAコンバーター「Hilo」

 初代Auroraを元に、さらなる改良を加えて生まれたAD/DAコンバーター。アナログ2イン/6アウトで、それぞれ独立しているため別々のソースを再生することが可能だ。タッチ・パネルと大型エンコーダーによって直感的な操作ができるのも魅力。基本構成はUSB接続だが、背面のLSlotパネルに拡張カードを挿入することで、Thunderbolt 3やDanteでの接続にも対応できる。

Aurora(n)

オープン・プライス:市場予想価格310,000 円前後〜/LSlotと入出力カードの構成により価格が異なる

AD/DAコンバーターを搭載したオーディオインターフェース「Aurora(n)」

 最高24ビット/192kHzに対応する、マスタリング・グレードのAD/DAコンバーターを搭載したオーディオ・インターフェース。LSlotでAVID Pro Tools|HD、Thunderbolt 3、Dante、USBといったさまざまな接続方式をサポートする。チャンネル数も拡張カードにより8chから最大32ch入出力まで対応でき、AES/EBUデジタル入出力、プリアンプのオプション・カードもラインナップする。クロックは新世代のSynchroLock 2を採用。マスター・クロック・ジェネレーターとしての用途も考えられている。そのほか、microSDカードへのダイレクト録音と再生に対応するレコーダー機能も装備。

User Interview
かごめP
定位がビシッと感じられる整理されたハイエンドに感動しました

ボカロPとして活動する「かごめP」がHiloをテストする

かごめP
【Profile】ボカロPとしての活動のほか、数多くのボーカロイド楽曲のミックスやマスタリング、インターネット配信業務も手掛ける。クリエイター集団VOCALOMAKETSとしても活動
https://note.com/kagome_p
https://twitter.com/kagome_p

  ここではLYNX STUDIO TECHNOLOGYユーザーの声をお届けする。まずは、ボカロP/エンジニアのかごめPに、HiloとAurora(n)の魅力を語ってもらった。

 

 ボカロPの活動をする中でマスタリングを引き受けることも多くなり、マスタリング・グレードのAD/DAコンバーターとしてHiloを導入したのが2014年のことです。そのうちミックスの依頼も増え始め、どうせならDAW内部完結ではなくサミング・ミキサーなども活用したいと思うようになりました。そうなるとHiloではアウトプットが足りなくなったので、拡張用としてAurora(n)を購入。HiloとAurora(n)のどちらにもLSlotカードのLT-Danteを使い、Dante接続に対応させました。今では別部屋に録音ブースを作り、Aurora(n)からキュー・ボックスへDanteで信号を送るようにしています。ケーブル1本で多チャンネルを扱えるのはとても便利ですね。

 

 Hiloは、その高域の良さに感動しました。ハイハットの定位もビシッと感じられる、整理されたハイエンドになっています。また、透明性あるサウンドのためか、クロックなどを変えたりすると音が顕著に変わるのです。道具として非常に融通が利き、懐の広い音がすると感じています。Aurora(n)もHiloと方向性は同じですが、中低域が少し重め。人によってはAurora(n)の方が好みという人もいるでしょう。

 

 LYNX STUDIO TECHNOLOGY製品とはもう6年の付き合いになりました。Danteという利便性の高い接続方式が使えること、そして信頼性のある出音はHiloとAurora(n)の魅力だと実感しています。

かごめPのスタジオにあるラック。写真右上にHilo、ラックの下から3番目にAurora(n)がある。両モデルともLSlotカードのLT-Danteを採用し、Dante接続ができるようになっている

かごめPのスタジオにあるラック。写真右上にHilo、ラックの下から3番目にAurora(n)がある。両モデルともLSlotカードのLT-Danteを採用し、Dante接続ができるようになっている

User Interview
井上幹(WONK)
最新の製品とも戦える総合力を持つAD/DAコンバーターです

WONKのベーシスト/エンジニア、ゲームサウンドデザイナーとしても活躍する井上幹にHIloを試してもらった

井上幹(WONK)
【Profile】WONKのベーシスト/エンジニア。同バンドではときに作曲/編曲も手掛ける。ほかのアーティストのミキシングにも携わり、ゲーム・サウンド・デザイナーとしても活躍している

  4人組バンドWONKでベースとエンジニアリングを担当している井上幹。彼がD/Aコンバーターとして使っているのがHiloだ。導入した経緯を尋ねてみた。

 

 僕はオーディオ・インターフェースにUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin MKIIを使っています。その出音はパワフルで、“完成された音”のように聴こえるのですが、その部分が気になっていました。曲作りを進める上で“完成された音”を聴けるのは良いですが、ミックスで音を細かく調整していくにはもう少し素直なサウンドで聴きたいのです。そのため、D/AコンバーターとしてHiloを使うようになりました。

 

 気に入っているのは操作性が優れていること。タッチ・パネルとエンコーダーでルーティングなどの設定が直感的に行えます。ノブが多い機材だと、表示する画面によってノブの機能が変わったりしますよね? そういう操作が苦手なので、Hiloのインタフェースは僕にぴったりでした。サウンドはトゲを感じずに聴き疲れしません。素直さもあり、しっかりと音が聴こえるようになったため、例えばリバーブのタイプや広さの設定などをさらにこだわって行うことができています

 

 他社からも新しい製品はどんどんリリースされています。それらが備えた最新のAD/DAチップの性能はもちろん良いと感じますが、AD/DAコンバーターとしての性能はチップ以外の部分も含めて総合的に決まるものです。ロングセラーとなっているHiloは、最新の製品とも戦える総合力を持ったAD/DAコンバーターだと思いますし、これから導入してもクリエイターの力となってくれるでしょう。

井上のプライベート・スタジオのデスクに置かれたHiloのブラック・バージョン。スピーカーやヘッドフォンでモニタリングするためのD/Aコンバーターとして導入されている

井上のプライベート・スタジオのデスクに置かれたHiloのブラック・バージョン。スピーカーやヘッドフォンでモニタリングするためのD/Aコンバーターとして導入されている

Review
浦本雅史×Aurora(n)
頭の中で鳴っている音よりも一歩先を提案してくれるオーディオ・インターフェース 

青葉台スタジオのチーフエンジニア、浦本雅史がAurora(n)を試した

浦本雅史
【Profile】青葉台スタジオのチーフ・エンジニア。サカナクション、Eve、神山羊、KID FRESINOといったアーティストのレコーディング/ミックスを数多く手掛けている。また、サカナクションのライブではマニピューターとしても参加
Photo:Hiroki Obara

  マスタリング・グレードのAD/DAを備えるオーディオ・インターフェース、Aurora(n)。初代AuroraやHiloの技術を応用し、さらにブラッシュ・アップされた透明性のあるサウンドを実現しているモデルだ。ここでは、普段からAurora(n)を愛用しているサウンド・エンジニアの浦本雅史氏に、あらためてその性能をレビューいただいた。

解像度が高く音の座りが良い
録音した音がよりリアルに感じる

 ミックスやアレンジで音を作っているときに、“頭の中で鳴っている音”が現実になったことはありますか? 例えば、キックの音をDAWに立ち上げて、オーディオ・インターフェースを通り、スピーカーから音が出る。そのとき聴こえてくる音に、多くの人は違和感を覚えたことがあると思います。その違和感が良いのか悪いのか……言葉にするとたったそれだけのことかもしれませんが、その後の作業にかなり影響が出てくることでしょう。もし、その違和感をできる限り良い方向に持っていってくれる、そんな時間が制作中にたくさん訪れたら素敵だと思いませんか?

 

 僕がLYNX STUDIO TECHNOLOGYと出会ったのは、2007年ごろです。生まれて初めてAVID Pro Toolsを購入する際、みんなが持っているのとは違うもので何か良い製品がないかと探していました。そんなとき、たまたまサンレコにAuroraが載っている記事を見つけて、デモ機をレンタルをしたのです。音を聴いて、“これだ!”と直感し、即購入することに。実際に使用してみた印象は、解像度が高く、一つ一つの音の座りが良い印象。音場のコントロールがしやすく、ミックス時に無くてはならないものとなりました

 

 それからAuroraを10年ほど使い続け、ようやくアップグレードして登場したのがAurora(n)でした。他社が次々と新しい製品を出していく中、LYNX STUDIO TECHNOLOGYだけは沈黙を続けていたので、発表されたときは本当にうれしかったです。すぐにデモ機を借り、音を聴くことにしました。経験を積み重ねて生まれた新製品のAurora(n)から出てきた音は、まさに“頭の中で鳴っている音”でした。

 

 音のチェックは、普段リファレンスとして使っている音源を、Pro Toolsに取り込んで鳴らしました。次に、直近のミックス仕事のセッションを再生。その時点でばっちりフィットしていたのですが、一番良かったのは実際に音を作ってみたときです。ミックス前の録音された音が、よりリアルに感じます。さらに頭の中のイメージに近付けようと、EQやコンプを使っていくと、その反応の仕方が今までとは全く違いました。プラグインのEQを触っているはずが、なぜかアナログのEQのつまみを触っているのに近い感覚があリます。コンプに関しても、かかり始めや戻るスピードがより分かりやすくなったのです。ここまでイメージに近付ける作業が速くなると、時間の使い方も変わってきます。没入するときや客観的に聴くときを、今まで以上に使い分けられるようになりました。

モジュール・カードによる多彩な接続
ヘッドフォン・アウトの装備もポイント

 僕が使っているAurora(n)はアナログ16イン/16アウトで、DigiLink MiniケーブルでHDXカードと接続する仕様です。ミックスをするときは、SPL MixDream(サミング・ミキサー)に14chを立ち上げて、そのミックス・アウトをまたAurora(n)に戻します。普段この環境でミックスをしているのですが、ここでもまた以前のAuroraより良い結果が生まれました。それは、A/Dされた2ミックスの音です。ミックスの流れとして、まずはリズムから作り、その後コード、メロディと進んでいきます。一つ一つの音を作っているときも、音場や周波数のバランスが臨場感をもって再現されますが、最終的にできたミックスをAurora(n)でA/Dすることにより、頭の中の音より一歩先の音を提案してくれるのです。昔はミックスしたものをアナログのハーフ・インチ・テープによく録っていましたが、そのときに得られる低域の厚みや中域の色味、高域の丸みなどに近い効果を感じます。

ラック中段にあるのが、浦本氏が使用しているAurora(n)。普段のミックスではAurora(n)からその下のSPL MixDreamに14chを立ち上げ、MixDreamでサミングしたものを再度Aurora(n)へ戻しているそうだ

ラック中段にあるのが、浦本氏が使用しているAurora(n)。普段のミックスではAurora(n)からその下のSPL MixDreamに14chを立ち上げ、MixDreamでサミングしたものを再度Aurora(n)へ戻しているそうだ

  LSlotのモジュール・カードによって、DigiLinkケーブルも変換無しでHDXカードとつなげることができたり、Thunderbolt 3でコンピューターとケーブル1本で接続できるようになったのもうれしいところです。そしてAurora(n)の新機能として一番良かったのは、ヘッドフォン・アウトが装備されたこと。コンピューターとつなげばすぐに作業ができるので、あまり家から出ることができなくなった今の時代でも、ストレス無く自宅での音楽制作に打ち込めるでしょう。僕は普段のスタジオ・ワークにおいても、Aurora(n)のヘッドフォン・アウトを使って多くの作品を作り、良い結果もたくさん出ているので、そのサウンドは胸を張ってお薦めできます。

 

 多くの人が似たDAWを使い、オーディオ・インターフェースは使わず、コンピューターに直接ヘッドフォンやイアフォン、またはパワード・スピーカーをつないで音楽制作をしています。僕は決してそれを悪いことだとは思いません。近年のプラグインは性能が高く、プリセットの質も良いです。出てくる音のクオリティはプロのエンジニアと近いものになるでしょう。ただ、個性という点ではどうでしょうか? 僕は仕事のポリシーとして、“機材を選ばず、何を使っても自分の音が出せる”ということを大事にしています。その中でも“直感的に頭の中の音を作る”という部分は重視しており、そこにかかわる機材……オーディオ・インターフェースにはこだわりを持ち、使い続けてきました。それが、自分の想像をさらに超えてくれる存在であるAurora(n)なのです。

 

LYNX STUDIO TECHNOLOGY Hilo

オープン・プライス:市場予想価格260,000円前後〜/LSlotの構成により価格が異なる

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SPECIFICATIONS
▪ビット&サンプリング・レート:最高24ビット/192kHz ▪THD+N(1kHz/−1dBFS/20kHzフィルター):−114dB(ライン入力)、−109dB(ライン出力)、−107dB(ヘッドフォン) ▪ダイナミック・レンジ(A‐weighted、−60dBFSシグナル・メソッド):121dB(ライン入力&ライン出力&ヘッドフォン) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪外形寸法:216(W)×83(H)×254(D)mm ▪重量:5.4kg

REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.8.5以降 ▪Windows:Windows 7以降

 

LYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(n)

オープン・プライス:市場予想価格310,000円前後〜/LSlotの構成により価格が異なる

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SPECIFICATIONS
▪ビット&サンプリング・レート:最高24ビット/192kHz ▪THD+N(1kHz/−1dBFS/20kHzフィルター):−113dB(ライン入力)、−108dB(ライン出力)、−107dB(ヘッドフォン) ▪ダイナミック・レンジ(A‐weighted、−60dBFSシグナル・メソッド):119dB(ライン入力)、120dB(ライン出力&ヘッドフォン) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪外形寸法:482.6(W)×43.2(H)×254(D)mm ▪重量:モジュール構成により異なる(約3.18〜3.31kg)

REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.9〜macOS 11.0 ▪Windows:Windows 7以降

製品情報 

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