オノ セイゲン × KORG SoundLink MW-2408 / MW-1608 〜音の練達が使い始めたハイブリッド・ミキサー

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フィジカルに音楽を作る面白さがよみがえる
〝楽器のようなミキサー〟だと思います

レコーディングからマスタリングまで手掛けるサウンド・エンジニアで、アーティストとしてもインターナショナルな活躍を見せるオノ セイゲン氏。主宰するスタジオ、サイデラ・マスタリングにはSoundLinkのMW-2408(写真)とMW-1608がスタンバイし、音響と曲作りの両方に活用されている。現場を訪れ、製品の使い方やインプレッションを尋ねてみると、オノ氏ならではのユニークなコメントを伺うことができた。

Photo:Hiroki Obara

ミュート・グループでリバーブを切り替え

 サイデラ・マスタリングでは、1996年からマスタリング用のデッドな空間をライブに切り替えてレコーディングもしてきました。このように反射がほぼ無いので、録音の際にはサラウンドのIRリバーブを空間に足します。マイクからリバーブへ送り、残響成分だけをスピーカーから鳴らすと、ヘッドフォン無しで演奏者のプレイが全く変わります。

 

 また、音楽や楽器に合わせてリバーブの機種も切り替えますので、そのためにMW-1608を活用しています。各リバーブの出力を個別のチャンネルに立ち上げて、機種単位でのミュートをミュート・グループA~Dに登録し、ボタンで切り替えるというやり方です

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リバーブの切り替えに使っているMW-1608(写真左下)。周辺に設置されたリバーブの出力がチャンネルに立ち上がっており、ミュート・グループでスピーカーから出すもの/出さないものをスイッチできる

  例えばSONY DRE-S777とTC ELECTRONIC System 6000のリバーブを使用する場合、DRE-S777の全チャンネルをミュートしてグループAに登録しておけば、Aボタンを押したときにSystem 6000のみが出力されます。逆にSystem 6000の全ミュートをグループBにしておいたら、Bボタンを押すとDRE-S777だけを取り出せる。こうした切り替えはフェーダーの上げ下げでも行えますが、1機種あたり4~6アウトにもなるので、4アウトのものを2台立ち上げていたら同時に8本の指で操作しなければなりません。当然、ボタン一つで切り替えられた方が良いですよね。簡単なことですが便利です。

 

積極的な音作りに最適なEQ/コンプ

 作曲スペースではMW-2408を使用していて、KORG Kronosなどの楽器やマイクも立ち上げています。特筆すべきはチャンネルEQ。仮に、初期のMACKIE.ミキサーが1980年代のAPIコンソールのようだとするならば、これはAPI Visionです。強力な上に、SN比が良いのです。こういうEQを備えたミキサーは、同じ価格帯では今までに無かったと思います。モノラル・チャンネルは3バンド、ステレオ・チャンネルは4バンドで、“ここはよく使うよね”という帯域はきちんと押さえているし、音楽的においしい部分をとらえた作りです。私見としては低域のポイントを65Hz辺りにしても良かったと思いますが、さまざまな楽器への対応を考えると100Hzで妥当です。特に録音の際のEQとしてお薦めできます。

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強力なかかり方とSN比の良さを兼ね備えた3バンドのチャンネルEQ。その上にはワンノブ型のコンプがある

 チャンネルのワンノブ型コンプも特筆に値します。深くかけていくとパンチーなサウンドが得られますし、HiVoltマイクプリのゲインをしっかりと上げた状態でコンプレッションすれば、よりインパクトのある音に。アタックやリリースを個別に制御する必要はありません。ワンノブのセッティングでおいしいところを全部押さえています。ノブの位置に応じて、出力音量が自動的に調整されるのも便利ですね。そのほか、内蔵プロセッサーではフィードバック・サプレッサーが優秀。フィードバックが発生し始めたら、すぐにオートで検知して抑制します。ものすごい精度です。

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液晶に映し出されたフィードバック・サプレッサーの設定画面

 昨今はパソコンの液晶を見ながら曲作りする人が大半だと思いますが、僕から見るとそれは“編集や修正の作業”で、“音楽のクリエイション・モード”ではないのです。思い当たる方は、SoundLinkを試してみると“楽器のように扱える”と感じて、頭の使い方が変わってくるでしょう。フィジカルに音楽を作る面白さや創造性がよみがえり、求めていた完成形への近道です!

 

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毎年恒例となっているNHK FM『坂本龍一ニューイヤー・スペシャル』にてMV-2408を使用したときの様子

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新日本フィルハーモニー交響楽団 特別配信公演『オーケストラ・モンタージュ─"死と愛”の物語』の収録で使ったMW-1608。スポット・マイクはすべてMW-1608に入力されている


 

 

オノ セイゲン

録音エンジニアとして、坂本龍一『戦場のメリー・クリスマス』や清水靖晃率いるマライアの『うたかたの日々』をはじめ、加藤和彦や三宅純、ジョン・ゾーン、アート・リンゼイなどの作品制作に参加。アーティストとしては、日本人で初めてVirgin UKと契約。コム デ ギャルソンのショウの音楽などを手掛ける。2019年度ADCグランプリ受賞

 

KORG SoundLink 製品情報

www.korg.com

 

KORG MW-2408 / MW-1608(写真)

価格:136,000円(MW-2408)、118,000円(MW-1608)

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SPECIFICATIONS
●MW-2408
▪チャンネル数:24 ▪外形寸法:480(W)×187(H)×530(D)mm ▪重量:9.3kg

●MW-1608
▪チャンネル数:16 ▪外形寸法:396(W)×187(H)×530(D)mm ▪重量:8.0kg

●共通
▪バス:メインL/R、サブグループ1〜8、AUX1〜4、FX、モニターL/R ▪ゲイン幅:−10〜+60dB(マイク・イン) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(+0.5、−1.5dBu)/アナログ・イン〜メイン・アウト ▪等価ノイズ・レベル:−128dBu ▪全高調波ひずみ率:0.004% ▪SN比:−70dBu(アナログ・インのメイン・アウトに対するSN比) ▪AD/DAビット・レート:32ビット ▪内部処理:32ビット

 

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