IK Multimedia ARC STUDIO レビュー:手持ちの環境に適用できるハードとソフトから成るルーム音響補正システム

IK Multimedia ARC STUDIO レビュー:手持ちの環境に適用できるハードとソフトから成るルーム音響補正システム

 ミキシングの精度を上げるにはミキシングルームのモニター環境が重要になります。IK Multimedia ARC STUDIOはミキシングなどのリスニング時に使用するモニター環境の音響測定、解析を行い、リスニングルームの音環境をよりクリアでピントの合ったように整えることが可能な常設システムです。しかも、ARC STUDIO以外に特別な機材は不要で、専門的な知識がなくても手軽に測定から解析までを行えます。

高精度MEMS測定マイクを同梱 20以上のスピーカープロファイル収録

 通常のリスニング環境では、部屋の材質や形、スピーカーの位置などのさまざまな要因が伴って周波数特性やステレオバランスが崩れてしまいます。自宅で聴いていて良いバランスだったミックスが、別の環境で聴いてみるとあれ?となった経験を皆さんお持ちだと思います。ただし、音環境を補正しようとすると、専門的な音響の知識や機材などが必要になってくるため、なかなかハードルが高いというのは、多くの人が感じているところではないでしょうか。

 これらの専門的な作業をARC STUDIOで行う場合、付属の高精度MEMS測定マイク(上掲の写真上)をリスニング位置に置き、ソフトウェアのARC 4で解析して、そのデータをハードウェアのDSPユニットに転送すればOK。数分で専門的な音響補正が行え、自然で透明なモニタリング環境を実現してくれます。

 また自身のモニターでさまざまなスピーカーの出音を再現してくれるモニターエミュレーション機能というものも搭載しており、20種類以上のスピーカーのプロファイルを使用することも可能。そして、より理想的なパフォーマンスを実現できるようカスタマイズコントロール機能も搭載しています。

低域の量感や解像度までクリアになる補正精度 ソフトウェアのARC 4でさらにカスタマイズも可能

 それでは製品の外観から。ARC STUDIOの本体とも言えるDSPユニットはミニマルなデザインで軽量です。フロントパネルは電源、SIGNAL/CLIPの各LEDと、補正のオン/オフを行うCORRECTIONボタンのみとシンプルな仕様。背面はオーディオI/Oからの出力を接続するINPUTと、モニターに接続するOUTPUTがともにXLR(バランス)で搭載。データ転送用のUSB-C端子もあります。前面背面ともに必要最低限のシンプルな構成です。また、測定用マイクも含め非常に軽量なので、持ち運びもできますね。

リアパネル。左からバランス入力L/R(XLR)、バランス出力L/R(XLR)、USB-C端子、電源入力

リアパネル。左からバランス入力L/R(XLR)、バランス出力L/R(XLR)、USB-C端子、電源入力

 続いてセットアップしていきます。まずはオーディオI/Oとスピーカーの間にDSPユニットをつないでください。ARC 4をパソコンにダウンロードしてインストールすると、ARC 4 Analysis(部屋の音響特性の測定用)とARC 4(測定データの読み込み用)の2種類が認められます。まずはAnalysisを起動して部屋の音響特性の測定から。いつも使用しているオーディオI/Oの入力に測定用マイクを接続し(要48Vファンタム電源)、出力をスピーカーに接続します。

 それから案内に従って測定していきます。

ARC 4 Analysisでは、測定方法が図で表示され、画面上の案内に従って進めていけば手軽に測定可能。画面は測定用マイクの配置ポイントを案内しているところ

ARC 4 Analysisでは、測定方法が図で表示され、画面上の案内に従って進めていけば手軽に測定可能。画面は測定用マイクの配置ポイントを案内しているところ

 マイク音量の設定を終えると、測定するモードを、Quick ModeとAdvanced Modeの2つから選択するよう求められます。Quick Modeはリスニング位置の周りの7ポイントの測定で、Advanced Modeは21ポイントの測定です。今回は筆者のスタジオのリスニングポイントがあまり広くないこともあり、Quick Modeを選択しました。指示に従って測定が終わると測定データを保存します。

部屋の音響特性を測定する際には、Quick ModeとAdvanced Modeのどちらかを選択できる。画面はQuick Modeで、7つのポイントで測定を行う。Advanced Modeでは21ポイントでの測定となっている

部屋の音響特性を測定する際には、Quick ModeとAdvanced Modeのどちらかを選択できる。画面はQuick Modeで、7つのポイントで測定を行う。Advanced Modeでは21ポイントでの測定となっている

 次に、ARC 4を起動して先ほどの測定データを読み込むと、音響補正されたサウンドが再生されます。ARC 4ではTARGETカーブという9種類の周波数カーブが用意されています。デフォルト、フラット、コントロールルーム向きなどから選択可能です。筆者は聴き比べてフラットを選択しました。

ARC 4では、測定結果のビフォーアフター表示、特定の周波数帯域の補正、位相モードの変更、周波数カーブの特性を9種類から選べるTARGETモード、モニターエミュレーション機能などを備える。なお、ARC旧バージョン(測定マイク付き)の所有者など向けに、DSPユニットとARC 4をセットにしたARC STUDIO アップグレード(44,000円)もラインナップする

ARC 4では、測定結果のビフォーアフター表示、特定の周波数帯域の補正、位相モードの変更、周波数カーブの特性を9種類から選べるTARGETモード、モニターエミュレーション機能などを備える。なお、ARC旧バージョン(測定マイク付き)の所有者、またはiLoud MTM/ iLoud Precision シリーズの登録ユーザー向けに、DSPユニットとARC 4をセットにしたARC STUDIO アップグレード(44,000円)もラインナップする

 そして、肝心の補正された音について。一度ARC STUDIOで補正された音を聴いてしまうと、恐らくもう戻れないと思います。もちろん環境によって結果はさまざまでしょうが、筆者の環境では補正後、センターの定位感が明らかにハッキリしましたし、低域の量感や解像度もグンとアップ。低域に関しては、“こんなに足りていなかったんだ”とショックを受けるほど。左右の広がりも良好で、奥行きも分かりやすくなり、聴こえていなかった音が聴こえるし、意図していなかったパンニングに気づいてしまったりと……うーん、まいった。吸音などを頑張って考えていた自分が悲しくなるぐらいに、うまく補正してくれました。

 よりカスタマイズしたい場合は低域と高域の補正範囲の調整機能や、解像度の調整、NATURAL/LINEARの2種類の位相モードの選択(筆者はLINEARを選択)に加え、先述のモニターエミュレーション機能も搭載しているので、柔軟にセッティング可能です。最終の出力段にハードウェアを接続するので、DAW使用時だけでなく、通常のリスニング時などにも常に補正してくれているのも魅力ですね。

 プライベートスタジオのモニター環境を改善させたい皆さん、吸音などでお悩みの皆さん。ARC STUDIOを使うとモニター環境はかなり改善できるかもしれません。一度使うと戻れなくなるかもしれません。音響補正機能付きの高価なスピーカーはもちろん素晴らしいですが、今あるスピーカーをそのまま使える、コストパフォーマンスの素晴らしい製品です。

 

西川文章
【Profile】大阪を拠点に活動するPA/レコーディングエンジニア。大小さまざまな会場を回り、豊富な経験を持つ。かきつばたやブラジルなどのプロジェクトで、ギタリストとしても活躍している。

 

 

 

IK Multimedia ARC STUDIO

52,800円

IK Multimedia ARC STUDIO

SPECIFICATIONS
▪オーディオ変換と内部処理サンプリングレート:96kHz ▪オーディオ変換解像度:24ビット ▪内部処理の解像度:32ビットフロート ▪レイテンシー:1.4ms(ナチュラルフェーズ・モード)、42ms(リニアフェーズ・モード) ▪外形寸法:144(W)×45(H)×120(D)mm ▪重量:465g ▪付属品:ARC測定マイク、マイククランプ、ARC 4ソフトウェア(ダウンロード)、USB-C to A ケーブル(1.5m)、電源アダプター

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15以降(Apple Siliconプロセッサーの場合はmacOS 11以降)、Apple M1またはIntel Core i5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、Intel Core i5以上のプロセッサー
▪共通項目:4GB以上のRAM、測定時にサンプリングレート44.1/48kHzをサポートするCore Audio互換のオーディオI/O(ファンタムを電源供給可能なXLR入力とステレオ出力を備えるモデル)、AAX/AU/VST2または3プラグインとして動作、インターネット接続環境

製品情報

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