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HERITAGE AUDIO Grandchild 670 レビュー:モディファイ版FAIRCHILD 670を元にしたAPI 500互換モジュール

HERITAGE AUDIO Grandchild 670 レビュー:モディファイ版FAIRCHILD 670を元にしたAPI 500互換モジュール

 今回チェックするのは、HERITAGE AUDIOからリリースされた“Variable Mu”方式ステレオ・コンプレッサーのAPI 500モジュール、Grandchild 670。同社のHerchild 670 The Ardent EditionのサウンドをAPI 500互換モジュールに移植するという、意欲的な挑戦です。

アタック&リリース・タイムの組み合わせをTIME CONSTANTでコントロール

 HERITAGE AUDIOには、FAIRCHILD 660と670を元に性能をブラッシュアップしたHerchild 660とHerchild 670という製品があります。それらが数々の歴史的なレコーディングで知られるアーデント・スタジオに認められ、アーデント・スタジオ仕様のHerchild 670 The Ardent Editionもリリースされました。そのAPI 500モジュール版と言えるのが、Grandchild 670です。フロント・パネル上部にはリダクション量を表示するVUメーター、オン/バイパス/オフ切替スイッチ、アタック/リリース・タイムを切り替えるTIME CONSTANTスイッチがあり、その下に電源LEDインジケーター、INPUT GAINノブ、AC THRESHOLDノブ、DC THRESHOLDノブが並びます。オン/バイパス/オフ・スイッチのオフ・ポジションでは本体の電源が完全に切れ、未使用時の不要な放熱や真空管の消耗を避けられるため、あると便利な機能です。内部をのぞくと、4本の6BA6(5749)NOS真空管、3つの専用設計トランス(各チャンネルとサイドチェイン用に1つずつ)が搭載されています。

 また、Grandchild 670は低域部分のリダクションを抑えるサイドチェイン・ハイパス・フィルターを搭載しており、その設定スイッチが本体底面にあります。OFF、-12dB/Oct@100Hz、-24dB/Oct@100Hzの3種類を選択できますが、シャーシにマウントする前に操作する必要があるので注意が必要です。

背面スロット部。赤丸の部分にカットオフ周波数100Hzのサイドチェイン・ハイパス・フィルターのスイッチがあり、底面の穴から切り替えが可能だ(OFF/−12dB/−24dB)

背面スロット部。赤丸の部分にカットオフ周波数100Hzのサイドチェイン・ハイパス・フィルターのスイッチがあり、底面の穴から切り替えが可能だ(OFF/−12dB/−24dB)

 Grandchild 670のパラメーターの中で一般的なコンプレッサーと異なるのは、AC THRESHOLDとDC THRESHOLDという2つのスレッショルドと、TIME CONSTANTです。AC THRESHOLDは通常のスレッショルドと同じくリダクションがかかりはじめるレベルのコントロールで、時計回りに回していくほどリダクションが増えていきます。一方、DC THRESHOLDはレシオとニーが連続的に可変するような効果を持ち、反時計回りに回し切るとハード・ニーかつリミッターに近い動作、時計回りに回していくほど低レシオかつソフト・ニーで滑らかな自然なリダクションが得られます。ちなみにFAIRCHILD 670で一般的に使われるDC THRESHOLDの設定は、1~2時(ミディアム・ニー&プログレッシブ・ミディアム・レシオ)あたりが多いです。

 TIME CONSTANTは、ポジションごとにアタック・タイムとリリース・タイムの組み合わせが割り当てられており、番号が大きいほど長いアタック&リリース・タイムになっています。ポジション1はアーデント・スタジオでモディファイされたFAIRCHILD 670と同じ設定で、アタックが0.1ms、リリースが125msという、オリジナルの670よりも短いタイムです。ポジション2と3には、FAIRCHILD 670で最も使用頻度が高いであろう設定(オリジナルFAIRCHILD 670のポジション1と2)が割り当てられています。筆者も、ストリングスなどのリリースが長いもの以外はFAIRCHILD 670のポジション1と2を使うことが多いため、この設定には納得です。

TIME CONSTANTのアタック&リリース・タイムを示した表。ポジション(1〜5)によってアタック・タイムとリリース・タイムの組み合わせが決まっており、それぞれ元になったモデルが存在する(最右列)

TIME CONSTANTのアタック&リリース・タイムを示した表。ポジション(1〜5)によってアタック・タイムとリリース・タイムの組み合わせが決まっており、それぞれ元になったモデルが存在する(最右列)

ワイド・レンジかつ上品なサウンド ソースを一歩前に押し出すような倍音がある

 Grandchild 670の使用例を簡単に紹介します。まずはリミッター的な使い方です。INPUT GAINをノミナル値となる10の位置に合わせ、DC THRESHOLDは反時計回りに、AC THRESHOLDは時計回りに回し切ります。同時に、適用したいタイムをTIME CONSTANTで設定しましょう。そしてリダクション・メーターを見ながらDC THRESHOLDを時計回りに回し、INPUT GAINと合わせて微調整します。

 次はソフト・ニー・コンプレッサー的な使い方です。INPUT GAINを10の位置に合わせ、DC THRESHOLDは時計回りに、AC THRESHOLDは反時計回りに回し切ります。適用したいタイムをTIME CONSTANTで設定し、リダクション・メーターを見ながらAC THRESHOLDを時計回りに回していき、INPUT GAINと合わせて微調整しましょう。

 最後は1つ目と2つ目の中間のような、スタート・ポイント的な使い方です。INPUT GAINを10に合わせて、TIME CONSTANTはポジション1か2に設定。AC THRESHOLDを12時、DC THRESHOLDを1〜2時方向に設定します。AC THRESHOLD、またはDC THRESHOLDを調整して、INPUT GAINノブと合わせて微調整しましょう。もちろん、これらの手順が正解というわけではないですが、素早く設定を探す際には役に立つと思います。

 2ミックス、ボーカル、ピアノ、オルガン、ドラム・ミックス、ベース、ストリングスなどでGrandchild 670をチェックしました。同社のほかの製品と同様、ワイド・レンジかつ上品な音でSNも良く、現代的なサウンドで、リダクションしない状態でもソースを一歩前に押し出すような倍音があって気持ち良いです。また、モディファイされたTIME CONSTANTのおかげでソースを選ばないコンプレッサーになっていると感じます。少し時間をかけて前述の3通りの音作りを試したところ、アグレッシブなコンプレッションから自然なリダクションまで、どのソースに対しても“アナログ・マジック”と呼ばれるような、一言では表現できないサウンドが生まれる瞬間がありました。

 Grandchild 670は少ないパラメーターでバラエティに富んだ設定を作ることができるコンプレッサーです。操作に慣れるまではとっつきづらいと感じる人もいるかも知れませんが、同じリダクション量でも異なるトーンやトランジェントを1台で作ることができるため、ソースにうまく合う設定が作れたときの“ほかでは得られないサウンド”が魅力的です。API 500モジュールとしてはお手軽な価格ではないかもしれませんが、ステレオ仕様であること、さまざまなソースで万人受けしそうなトーンが手に入ることを考えると、むしろコスト・パフォーマンスに優れた製品であると感じました。

 

中村フミト
【Profile】Endhits Studioを拠点に活動するエンジニア。GOOD BYE APRIL、Leinaなどの作品に携わる一方、近年はゲーム音楽のミックスやマスタリング、ボイス収録/整音にも力を入れている。

 

 

 

HERITAGE AUDIO Grandchild 670

335,500円

HERITAGE AUDIO Grandchild 670

SPECIFICATIONS
▪タイプ:真空管コンプレッサー ▪パラメーター:POWERスイッチ(OFF/BYPASS/ON)、TIME CONSTANTスイッチ(1〜5ポジション)、INPUT GAIN(−20〜0dB)、AC THRESHOLD、DC THRESHOLD、100Hzハイパス・フィルター・スイッチ(OFF/−12dB/−24dB) ▪ラック・スペース:2U(API 500互換) ▪外形寸法:75(W)×133(H)×180(D)mm ▪重量:1.12kg

製品情報

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