FINAL FANTASY Ⅶ REBIRTH〜チーム一丸で作り上げたサウンドトラック 鈴木光人、土岐望、新保正博が語る制作術

FINAL FANTASY VII REBIRTH_Main

スクウェア・エニックスによるRPGシリーズ『FINAL FANTASY』の最新作、『FINAL FANTASY VII REBIRTH』が2024年2月末にリリースされた。PlayStation®5の性能を駆使した圧倒的なボリュームで、多くのファンを魅了する今作の音楽を手掛けた1人が、スクウェア・エニックス所属のコンポーザー、鈴木光人(写真右)。今回取材を実施した下北沢のジャズ・バー、No Room For Squaresなど、さまざまな場所でレコーディングが実施されたという今作の制作について、共同作曲者で同じくスクウェア・エニックス所属の土岐望(同左)、多くの楽曲においてレコーディング/ミックスを担ったMIXER’S LABのエンジニア、新保正博(同中央)にも同席いただいたので、詳しく話を聞いていこう。

FINAL FANTASY VII REBIRTH (スクウェア・エニックス)

FINAL FANTASY VII REBIRTH

ⒸSQUARE ENIX CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA / ROBERTO FERRARI LOGO ILLUSTRATION:© YOSHITAKA AMANO

 2024年2月29日に発売されたPlayStation®5用ゲーム・ソフト。1997年に発売され、全世界で売上累計が1,100万本を超える『FINAL FANTASY VII』のリメイク・プロジェクトが、2020年の『FINAL FANTASY VII REMAKE』より展開されている。その2作目となる今作で描かれるのは、オリジナルでユーザーに衝撃を与えた“忘らるる都”まで。新たなストーリーやバトル・システム、グラフィックやサウンドも大きな進化を遂げている

シーンに合わせた状況でレコーディング

 ——今作で鈴木さんは多数の曲を手掛け、そのジャンルも多岐にわたっています。まずは制作の始まりから伺えますか?

鈴木 作品全体を取りまとめているCo.ディレクターと、ミュージック・スーパーバイザーがいて、その2人から音楽の発注書が届きます。どんなシーンかなどいろいろと書いてあって、ジャンルを細かく指定した曲もあれば、全く指定のない曲もあります。最初に目を通したときにはあまり深追いせずに、大体の曲数と、生音系、オケ系、打ち込み系というふうに、自分の中で分けるところからスタートしています。制作方法もさまざまですが、例えばDAW上で完璧なデモを作って、Co.ディレクターのOKが出てから生楽器に差し替える場合と、先に素材を録るパターンとケースバイケースです。

——土岐さんとはどのように役割分担を?

土岐 私が関わるのは、歌ものや言葉が入った曲が多いです。鈴木が作った土台に、まだ歌詞が乗っていない簡単なメロディが入っていて、そこにCo.ディレクターが作った歌詞で仮歌を当てていきます。その過程で歌いやすいように変更したり、コーラス・アレンジを加えたりして仕上げていく形が多いです。あとはノイズやアンビエントのギターが得意なので、私が弾いてはまるような楽曲では録音もしています。

鈴木 このパートは土岐に自由にやってもらおうと思ったら、ガイドだけ作ってデータを渡します。もらったものをこちらでまた変えて戻すとか、割と2人ともドライに容赦なくやっています。音のやり取りで遠慮しても仕方がないですから。あと一番大きいのは、女性が歌う曲が多いから、土岐が仮歌を歌ってくれることで表情が見えてくる。それでメロディが変わることも多いです。イメージしているボイス・サンプルを土岐の声で作ってもらったり、この“1音”が大事というパートを任せています。

——事前にいただいた資料や写真を見ると、スタジオだけでなくあらゆる場所でレコーディングが行われています。

鈴木 発注書に“どのシーンで使うか”が書いてあるのが理由かなと。例えば、ゲーム内のChapter 5“狂乱の船旅”の連絡船は、背景にお酒がずらっと並んでいるシーンで、それが僕の中にずっと残っていて。だったらバーで録ったら面白いなと思っていたんですよ。それで、プライベートでNo Room For Squaresに来てライブを見たときに、イメージがピッタリとハマって、“ここで録ろう”となりました。

No Room For Squares

今回の取材場所として協力していただいた、東京都世田谷区下北沢のジャズ・バー、No Room For Squares。バーとしての営業のほか、週末にはジャズ・ライブも実施している。また店内にはマスターの好みという多数のシンセが用意されているのも特徴的だ(*)

——そのシーンに合わせて、場も含めた音を録ると。

鈴木 そうですね。あとFFVII REBIRTHサウンド・チーム全体として見たときの差別化というのもあります。どれも同じ質感になっていてもつまらないし、だったらいろいろな場所で録ったものが混じっていたら面白いかなと。もちろん前後の流れを考えていますが、割とほかとはやり方が違うのも特徴と言えます。

——スタジオ以外でのレコーディングと聞いて、新保さんはどう感じましたか?

新保 意外と驚いていなくて、二つ返事で“いいですね”って(笑)。光人さんがイメージして良かったなら、うまくいくだろうと。機材は録音を進める中で少しずつ変えています。 鈴木 何か面白そうな場所があったら、その場ですぐ新保さんに連絡しています。もちろん闇雲に振っているわけじゃないですよ。また新保さんにはミックスもお願いしていて、生楽器のレコーディングは録った人がミックスまで行うのがいいと考えていて、曲によってそうでないものもありますが、基本的には最後まで面倒を見てもらっています。

演奏者の位置でバランスを取る

——ではここから各楽曲について伺います。先ほどおっしゃっていたように、連絡船の場面で流れる「QBセッション」のラウンド1~3はNo Room For Squaresで録音されたと。

鈴木 ゲーム内のカード・ゲーム「クイーンズ・ブラッド」はビッグバンド形式の曲をスタジオで録りましたが、そのカード・ゲームを題材にしたイベントで流れる「QBセッション」は、ここで録ったほぼそのままを音源化しています。

——まさに“セッション”が収録されているのですね。

鈴木 バンマスと、アレンジをお願いした渡辺翔太さん(p)を中心に、多くても3テイクくらいで、その場でどれがいいかをみんなで決めていました。すごく速かったですね。

渡辺翔太

写真手前が「QBセッション」ラウンド1~3においてバンマスを務めた、ジャズ・ピアニストの渡辺翔太

——渡辺さんとはどういったきっかけで?

鈴木 現役のジャズ畑の人とご一緒したかったので、翔太さんのライブをここに見に来て、ライブ後に声をかけたところ興味を持ってくれたんです。メンバー編成も翔太さんに任せました。曲を使うシーンのことと、ゲームなのでループしていればOKくらいの情報だけ出して、あとはもう好きにやってくださいと。あまり細かいことを言って難しい印象を持たれるのも嫌だし、そのときに見たライブのイメージ……ここで鳴っている音をそのまま録りたかったから、制限を加えたくないというのが念頭にありました。デモもMIDIで5パートくらいの、あまり作り込んではいないものを渡して、あとは当日相談しましょうと言っていたんですが、弾いてもらったら、もう一発で良かった。しかも翔太さんから、“実はテンポ違いのバージョンを考えてるんですよ”といった提案もしていただけて、それもうれしかったですね。

——録音時のマイクは何を?

新保 アンビエンスとしてB&K 4012×2本や各パートにもマイクを立てていますが、実はアンビエンスに使ったZOOM H3-VRでのバイノーラル録音がかなり重要な役割を担っています。客席側の一番良く聴こえる位置に立てたんですが、最初にいつものライブと同じ位置で演奏してもらったところ、ウッド・ベースが小さくてホーンが大きい、というようにバランスが悪くて。それもそのはずで、ライブと違ってPAを通さないレコーディングだと聴こえ方が変わってしまっていたんです。だから、ウッド・ベースは前方に、ホーン・セクションは一番奥に、というふうに移動してもらい、ライブではありえない状況で演奏してもらいました。

ZOOM H3-VR

ZOOM H3-VR。ステレオ、バイノーラル、Ambisoni csの各録音フォーマットに対応するポータブル・レコーダー(*)

——演奏する場所で音量バランスを取ると。

新保 それで聴いてみたら初めの出音からバッチリでしたね。H3-VRはコロナ禍のときに試しに買ってみたら結構面白くて。基本的にバイノーラルはヘッドホンで聴くものだけれど、スピーカーで聴いても面白い。位相が少しずれて、スピーカーから若干はみ出る印象になるんです。このセッションではメイン・マイクと言ってもいいくらいです。

鈴木 撤収する前に、新保さんが録ったそのままの音を聴いていたら、プレイヤーの方たちや店のマスターが、“今までで聴いた音源の中で、一番ここの箱鳴りがしてる”と。

新保 “いつものライブの音が聴こえる”と言ってくれたのが最高の褒め言葉でした。スタジオでは絶対実現できなかったことなので、うれしかったです。

No Room For Squaresでのレコーディングの模様

No Room For Squaresでのレコーディングの模様

MIDAS XL48×2台

No Room For Squaresで使用した録音機材。DAWはAVID Pro Toolsで、プリアンプはMIDAS XL48×2台を使用している。また写真には写っていないが、右側のラックにはオーディオ・インターフェースとして用いたANTELOPE AUDIO Orion 32 HDが格納されている

空気感を捉えるAUSTRIAN AUDIO OC818

——「ルーファウス歓迎式典 -新社長の歌-」は、ブラス・バンドと合唱から構成された楽曲です。

鈴木 オリジナルの『FFVII』にある曲を、生楽器にして歌を入れたいというオーダーでした。京都橘高等学校の吹奏楽部に協力してもらうことになり、収録は大人数で行ったためスタジオではなくホールで収録しています。人数的なこともありますが、オーバーダブじゃなくて一発録りにしたかった。演奏のクオリティよりも、彼らが普段通り演奏しているグルーブを大事にしたかったんです。「ルーファウス歓迎式典」はより豪華なバージョンもあり統一感が少し心配でしたが、「新社長の歌」に関してはミニ・ゲームの中で使われるものだし、カッチリしたものよりも空気感を優先しようと考えました。

——そこでの機材は何を?

新保 そのころのレコーディングから、AUSTRIAN AUDIO OC818を導入しました。録音後に指向性を変更できるなど、とても魅力的な機能を持ったマイクです。ブラス・バンドの録音では、アンビエンス・マイクとして200Hz以下を単一指向性にして、それより上の帯域は無指向性にしています。

AUSTRIAN AUDIO OC818×2本

「ルーファウス歓迎式典 -新社長の歌-」のブラス・バンド録音は、京都市右京ふれあい文化会館のホールで実施された。ステージ上の各楽器のマイキング以外に、客席の中央付近にAUSTRIAN AUDIO OC818×2本をセット

PolarDesigner1

OC818の指向性をコントロールするプラグイン、PolarDesigner。画面はブラス・バンド録音に対しての設定で、200Hz以下を単一指向性にして低域の膨らみを抑え、それより上の帯域を無指向性にしている

AVID Pro Tools | CarbonとPro Too ls | Carbon Pre

オーディオ・インターフェースのAVID Pro Tools | CarbonとPro Too ls | Carbon Pre。Carbonは、今作の制作が進む中で導入したそう

——合唱パートの録音はどのように行いましたか?

新保 合唱はスタジオで録っています。AKG C451 Bを4本、パートごとに立てて、OC818をアンビエンス・マイクとして使いました。ブラス・バンドとは指向性を逆にして、低域を無指向性に、2kHzより上を単一指向性にしました。こちらは低域に厚みが欲しかったからですね。音像の調整としてH3-VRも使っていて、バイノーラル録音した音も入っています。

PolarDesigner2

「ルーファウス歓迎式典 -新社長の歌-」の合唱録音に対するPolarDesi gner画面。こちらは2kHz以下を無指向性に、2kHz以上を単一指向性にしている

——この曲は、海外ユーザー向けに歌が英語のバージョンもありますね。

土岐 英語にすると“この言葉とメロディが合わないな”といった部分が出てきますが、メロディを変えすぎて日英版で印象が変わってしまうのも良くない。ローカライズ・バージョンとして制作する場合はなるべくそのままを基本にしつつ、例えば“ここは1拍目から始まってるけど、食って入った方が英語としてかっこいい”といったことを鈴木と相談しながら、オケとのバランスが取れた歌いやすいメロディを模索しました。さらに、「The fun DON’t stop」という曲は4言語版(日英独仏)あり、オプションで切り替え可能です。こんなに歌ものの曲が多いゲーム自体、珍しいと思いますね。

——「ギはマテリアを求めたり」のボーカルは、教会で録音されています。教会独特のリバーブを録るためでしょうか?

鈴木 まさにそれが大きいです。洞窟的なシーンの曲だけど、洞窟で録るのは現実的じゃない。とにかく広いところで録ってみたいと思って、教会を提案したんです。さまざまな候補から新宿の淀橋教会で録ることになったのですが、天井が独特で、天然の、すごく奇麗な響きでした。

新保 下見に行ったときに、入ってすぐにここだなと思いました。このときもOC818を使っていて、ここで初めて360°を拾うAmbisonics録音として用いています。

淀橋教会で行われた、オペラ歌手/俳優のPaolo Andrea Di Pietroによる「ギはマテリアを求めたり」のボーカル録音

淀橋教会で行われた、オペラ歌手/俳優のPaolo Andrea Di Pietroによる「ギはマテリアを求めたり」のボーカル録音。1mほど離れた位置にAKG C460 B×2本を、奥にはC414も見える

OC818

教会での録音にもOC818を活用。ここではAmbisonics方式で録り、ミックス時に専用プラグインのAmbiCreatorを使用している

——「ギはマテリアを求めたり」など、“ギ族”のシーンでの楽曲には、共通したトライバルな音色が印象的です。

鈴木 ドラマーの陶山“Jackson”央和さんにありとあらゆるパーカッションをスタジオに持ってきてもらい、単音からループまでサンプルとしての素材を1日かけて収録しました。やっぱり生で録ると質感が全然違いますからね。いろいろなパターンを素材として録音していて、それらはギ族だけでなく、プロジェクト全体に用いています。

スタジオファインでのパーカッション録音の模様

スタジオファインでのパーカッション録音の模様。陶山“Jackson”央和(写真右)がバラフォンを演奏している。オンマイクにはC414を使用

——事前にいただいた写真には、同じスタジオで土岐さんがギターやテルミンを弾いている様子もありましたが、これらも素材としての録音でしょうか?

土岐 そうですね。テルミンはスタジオで急に振られて、だんだんうまくなってきたと思ってきたころに“もう結構です”と(笑)。ほかにカリンバやスレイベルも演奏しています。

鈴木 自分が演奏してしまうと、ある程度形になるのが見えてしまうから、つまらないんですよね。少しでも別の人が入ることによって曲が壊れるというか、予期しない要素を取り入れることができるんです。なので基本ワンテイクです(笑)。

スタジオファインでテルミンを演奏する土岐

スタジオファインでテルミンを演奏する土岐

——「無垢なる願い」には、後半のバイオリンで斎藤ネコさんが参加されています。

鈴木 ネコさんの一発録りです。レコーディングの1週間前に、ネコさんのバイオリンとパーカッションのみというライブを見たときに、“あそこにネコさんのバイオリンがばっちり合うな”と思い、既にできていた曲の尺を少し伸ばしました。ネコさんにお願いしたら引き受けてくれて、その際“マイクはSONY C-38Bで”という指定があったんです。それでC-38Bを手配してもらってレコーディングに臨んだら、ネコさんがマイクを指定されたこととかを全部忘れていて(笑)。

新保 でも、C-38Bで録った音がとても良かったです。すごくバイオリンに近い位置に立てていて、ネコさんが言ってくれたからこの位置ですけど、本来なら演奏の邪魔になるため、もう少し離していました。ただ、C-38Bはオンにした方がいいマイクなので、ネコさんの方からご提案いただけて理想の音を収録することができました。音量だけバランス取ってから“じゃあ”って演奏しはじめたら本当にすごい演奏で、みんな感動していましたよ。

斎藤ネコのバイオリン録音の模様

「無垢なる願い」後半に収録されている、斎藤ネコのバイオリン録音の模様。SONY C-38Bをバイオリンの近くと、アンビエンスのL/Rとしても使用。ZOO M H3-VRも用意されている。こちらはNo Room For Squaresとは別のバー、BAR iCHi。ほかにトランペットやボイス・サンプルの録音も行ったとのこと

頭の中の音色を現実にして突破口に

——資料を見て、「The fun DON’t stop」ではブレイクビーツのスクラッチのためだけにアナログ盤をプレスしているという記述があり、とても驚きました。

土岐 既存の楽曲だと、各所の確認、許諾が必要になってきます。そういった点も考えて、鈴木が音源を用意して、自由に使えるものを作ろうということで制作しました。

鈴木 アナログ盤をこすっているDJがいるシーンなので、その時点でまずソフトを使うという選択肢はなかったです。

——スクラッチはDJ IZOHさんによる演奏ですね。

鈴木 DMC世界大会でチャンピオンにもなられている方で、“映画『ブレイクダンス』のスクラッチの感じを”とお願いしたら、何倍も良いものを演奏してくれました。レコーディングでスクラッチを録らせてもらうのは初めてでしたが強烈で、デジタルでやるのとは全く別物でしたよ。

鈴木制作のブレイクビーツを収録したアナログ盤

「The fun DON’t stop」のためにプレスした、鈴木制作のブレイクビーツを収録したアナログ盤(12インチ、33回転)。世界に3枚しか存在しない

DJ IZOHによるスクラッチの録音

 「The fun DON’t stop」でのDJ IZOHによるスクラッチの録音は、MIX ER’S LABのスタジオで実施された

——「スピードスクエア -シューティングスター-」はDÉ DÉ MOUSEさんによるリミックス楽曲です。

鈴木 原曲は「Welcome Dance -ハダカノココロ-」です。デモの土岐の仮歌バージョンの完成度が高く、使わないままで終わるのがもったいないと思っていたところ、ちょうど使えるシーンがあるからアレンジ・バージョンにしようと。ただ原曲のクセが強すぎてアレンジしてもあまり面白くないから、元がないくらいにリミックスしたほうがいいと考えていました。その頃DÉ DÉ君に会う機会があって、そのことが頭にあったのか、DÉ DÉ君の曲を映像に仮当てしたらばっちり合ったんですよ。線と線がつながり、DÉ DÉ君にリミックスをお願いして、土岐のボーカル・トラックだけを渡しました。

土岐 感動しました。“私の声がDÉ DÉさんにカットアップされてる!”って。

鈴木 あの感じはDÉ DÉ君にしかできない。200%再構築されて帰ってきました。

——その「Welcome Dance -ハダカノココロ-」の本テイクのボーカルは、ロンドンのメトロポリス・スタジオでの録音です。

鈴木 メイン・ボーカルとラップを歌っているのがロンドン在住の2人で、リモートでもできるけど可能なら現地で直接話して録りたかったんです。

——ダンス・シーンの映像とリンクして展開が変わり、1曲の中に何曲分も詰め込まれている印象です。

鈴木 ダンスのシーンは最初から最後まで構成がビシッと決まっていたので、そこに合わせて作っています。ちょっといい話を思い出しました。イントロのシンセ・ブラスを、最初にソフトで作っていたのですが、全く気持ちが乗らなくて。頭の中に鳴っているのがハードのOBERHEIMで、ソフトだとイメージと一致しなかったんです。そこで、社内のスタッフに歩く80’sみたいなシンセ博士がいるので、彼に相談したら“差し替えるからMIDIちょうだい”と。そしたら翌日くらいにはいろいろなOBERHEIMで録ったテイクが、写真付きで届きました(笑)。確かXpanderのテイクを使ったかな。突破口が開いてすいすいできました。音色はとても大事で、まだ頭の中で鳴っていない音色ならいいですが、既に鳴っている場合はその音色にたどり着かないと作業が進まないんです。

メトロポリス・スタジオでの一枚

「Welcome Dance -ハダカノココロ-」のボーカル録音が行われたメトロポリス・スタジオでの一枚。写真左がエンジニアのDuncan Fuller、左から2番目がボーカル・ディレクションを務めたChristian Gulino、左から3番目がボーカリストのAbbie Osmon 

どのレコーディングにもちゃんと意味がある

——ミックスではテープ録音を行ったと伺っています。

鈴木 2ミックスを青葉台スタジオのSTUDER A820に通しました。以前から新保さんと“いつかテープに録りたいね”と話していて、土岐とも“予算の調整がつけばやりましょう”と話していたところ、後半で調整ができて。だったらNo Room For Squaresで録った曲(「QBセッション」など)はどうかと新保さんに相談して、実施することになりました。

新保 既にミックスは出来上がっていたのですが、作業中もアナログにしたい気持ちがずっとありました。AVID Pro Tools内蔵プラグインのハーモニック・エンハンサー、HEATやCRANE SONGのテープ・エミュレーターPhoenix IIを使ったり、結構アナログっぽく作っていたんです。そんなときにテープの話をいただいて、それはありがたいなと。僕の夢でもありましたから。

——夢というと?

新保 自分が作った2ミックスをテープ録音することです。アシスタント時代、テープに通したらこんなに変わるんだというのを散々見てきて、自分がエンジニアになったらどのテープを使おうかな、と夢見ていたのが、Pro Toolsの時代になってなくなっちゃった(笑)。だから何となくこうなるだろうというイメージは持っていました。

——実際に聴いてみていかがでしたか?

新保 僕がいつも通り卓前に、光人さんが後ろに座ってプレイバックして、最初の1音が出た瞬間振り向いて、何を言うでもなく“うん”と。温かくなって、余分なトゲが取れてまろやかになって、すごくギュッとしたいい感じのまとまり方をしてくれました。聴き比べてみて初めて分かる、というようなレベルではなかったです。

鈴木 本当に3人ともびっくりしましたね。面白いのが、マスタリングのときにオレンジの小泉(由香)さんがテープを通した曲に対して、“これめちゃくちゃやばいね”と。実はテープなんですって答えたら、“やっぱり。これだけちょっと異様な鳴りしてる”と言っていて、この人すげえなと(笑)。

STUDER A820

青葉台スタジオにあるテープ・レコーダー、STUDER A820。写真中央は2ミックスを通した2インチ仕様のもので、奥にあるのは1/2インチ仕様のもの

——さすが小泉さんですね。新保さんはこれだけ多彩な楽曲をミックスでまとめるのは大変ではなかったですか?

新保 そんなことはなくて、いろんなジャンルがあるほうが楽しいです。今回は特に生でいっぱい録らせてもらっているから、録りの段階でほぼできているんですよね。新たなマイクを導入して音像感が既にできていたので、ミックスでそんなに迷うこともなかったです。

——土岐さんは出来上がった曲を聴いていかがでしたか?

土岐 どの曲にも思い出があって、“これはこの人にやってもらったな”とか、何十人もの人が関わってくれた曲もある。だからみんなで作り上げた満足感というか、その場その場で作る音楽を鈴木が大事にしていて、それが一貫性につながっていると思います。一つ一つがキラキラしていて、良い楽曲が出来上がったなという気持ちです。

鈴木 新保さんも土岐も、“また鈴木が何か変なこと言ってるよ”って思っているだろうなって(笑)。でも、どれもちゃんと意味があることなんです。次はあの国に行ってあの音を録りたいとか、2人にはまだ言ってないけど、アンテナを張り巡らしています。

新保 できたら、もうちょっと早めに聞きたいかな(笑)。

鈴木のプライベート・スタジオにあるシンセ

鈴木のプライベート・スタジオにあるシンセ。今作ではこれまでに紹介したレコーディングだけでなく、「オモイノカタチ」(※通常盤未収録曲)などのように宅録をベースに制作された楽曲もある。主に用いられたシンセは写真中央下のROLAND Juno-106、SEQUENTIAL Prophet-5と、STUDIO E LECTRONICS Midimini V30で、鈴木は「この3つは替えが効かないですからね」と語る

 

鈴木光人

鈴木光人(すずき みつと)

【Profile】スクウェア・エニックス サウンドディビジョン コンポーザー。音楽専門誌での機材レビュー執筆や舞台音楽の制作にも携わっており、多方面で才能を発揮している。(*)

 

土岐 望

土岐 望(とき のぞみ)

【Profile】スクウェア・エニックス サウンドディビジョン プロジェクトマネージャー。『FINAL FANTASY VII』リメイク・プロジェクトではマネージメント業務に加え、メロディ・メイクやコーラス・アレンジなどのBGM制作にも関わっている。(*)

 

新保 正博

新保 正博(しんぼ まさひろ)

【Profile】MIXER'S LAB所属レコーディング・エンジニア。GACKT、JO1、内田雄馬、にじさんじ、iKON、劇伴など、幅広い作品を手掛ける一方、日本工学院八王子専門学校にて非常勤講師も務める。(*)

 

Release

FINAL FANTASY VII REBIRTH Original Soundtrack

ⒸSQUARE ENIX CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA / ROBERTO FERRARI LOGO ILLUSTRATION:ⒸYOSHITAKA AMANO

『FINAL FANTASY VII REBIRTH Original Soundtrack』
SQUAER ENIX MUSIC
スクウェア・エニックス:SQEX-11110-6

4月10日に発売されたオリジナル・サウンドトラック。植松伸夫作曲によるテーマ・ソング「No Promises to Keep LOVELESS Ver.」を含む、厳選された楽曲をCD7枚組で収録している。鈴木は収録曲のうち、「クイーンズ・ブラッド」「ルーファウス歓迎式典 -新社長の歌-」「ろ・ろ・ろ・ローチェ!」「無垢なる願い」「The fun DON’t stop」「サボテンダー・カーニバル」などの作曲/編曲を手掛けている

収録楽曲の試聴も可能なオフィシャル・サイトはこちら

関連記事