Zoia Euroburo レビュー:90種のモジュールを組み合わせて作るデジタル・モジュラー・システム

Zoia Euroburo レビュー:90種のモジュールを組み合わせて作るデジタル・モジュラー・システム

 カナダのエンジニア集団EMPRESS EFFECTSが、2019年にリリースしたペダル型モジュラー・システムZoiaをユーロラック・モジュール化。このたびZoia Euroburo(以下、Zoia)として登場です。

3段階のボルテージ・レンジを備える4つのCV入力/出力を搭載

 Zoiaはオシレーター、LFO、ビット・クラッシャー、ディレイなど、90種類以上のモジュールを内蔵。これらのモジュールをユーザーが自由に組み合わせ、オリジナルのシンセ/エフェクト/シーケンサーなどを作成することができます。内部処理では32ビット、AD/DA変換では24ビット/48kHzという高音質仕様もうれしいところです。

 

 筐体は34HPで奥行きは28mm。トップ・パネル中央に位置するのは、縦5列×横8列のグリッド・ボタンです。ユーザーはここに好きなモジュールを配置していくことができます。また最上段一列目にある8つのボタンは、シフトを併用することでコピー/エディット/削除/保存などを実行する“アクション・ボタン”としても機能します。

 

 トップ・パネル左側には、数値入力やパッチ、モジュール切り替えなどに使用するダイアル式ノブとスクリーン、ページ切り替えやシフト機能などをつかさどる4つのユーティリティ・ボタンを搭載。その下部には、ユーザーが好きな機能を割り当てられる2つのクイック・アクセス・ボタンがあります。

 

 一方のトップ・パネル右側にはオーディオ入力/出力(ミニ・フォーン)、ヘッドフォン出力(ステレオ・ミニ)、MIDI入力/出力(TRSミニ)、それぞれに対応するボタンを装備。そしてトップ・パネルの最下段には、ユーロラック・モジュールの特徴とも言える4つのCV入力/出力とそれぞれに対応する8つのボタンが並んでいます。ボルテージ・レンジは±5V、0〜5V、0~10Vに設定可能です。

 

 EMPRESS EFFECTSと言えばギター用エフェクト・ペダルの印象が強いため、Zoiaが手元に届くまではマルチエフェクターのような先入観を持っていたのですが、実際に触ってみるとこれは全くの間違い。むしろ、手で触れるCYCLING '74 Maxのような印象です。ユーザーは既に用意されたモジュールをグリッド上に配置し、自分が作りたい機能を構築していくのですが、この用意されているモジュール・コレクションが秀逸で初見でもやりたいことをすぐに実現できました。

 

 例えば、Interface ModulesセクションからAudio InputモジュールとAudio Outputモジュールを好きなグリッドに配置します。それぞれをオーディオ入力/出力にルーティングしたのち、両者を直接接続した場合はZoiaに入力された音声信号がそのまま出力されるのですが、この2モジュール間にTremoloモジュールを挟めばトレモロがかかるようになります。

 

 さらにCV ModulesセクションからLFOモジュールを追加し、LFO OutputをTremoloモジュールのRateにルーティングすると、LFOの周期に従ってトレモロのかかる速さが増減します。この際のルーティング方法は、接続したいモジュールやパラメーターに該当するグリッド・ボタンを同時に押すだけ。この操作感がまさに触れるMaxといった印象で、感覚的に作業を進めることができます。またこのように一度構築したモジュラー・システムは、“パッチ”として本体内に64種類まで記録可能です。

モジュラー・シンセならではの機能も内蔵。オプションの専用ケースで単体使用が可能

 実際にZoiaを使用して思ったのは、モジュール・リストのカテゴライズがとても的確なこと。そのときに自分が必要とする機能をすぐに探し当てることができます。また一般的なモジュールに加えて、ComparatorモジュールやSlew Limiterモジュールなど、モジュラー・シンセならではの機能がしっかり搭載されているので、ベーシックな機能から複雑なパッチまでユーザーのやりたいことをしっかりとサポートしてくれるでしょう。Zoiaの具体的な使い方として考えられるのは以下の5つです。

  • オーディオ・エフェクト:オーディオ入力した信号にZoiaでエフェクトをかけて、オーディオ出力する。例:ディレイ
  • CVエフェクト:入力したCV信号にZoiaでエフェクトをかけて、CV信号を出力する。例:CVクオンタイザー、クロック・ディバイダー
  • オーディオ信号の生成:オシレーターやフィルター、エンベロープなどZoia内蔵モジュールを組み合わせ、オーディオ信号を生成/出力する。例:シンセサイザー
  • CV信号の生成:Zoia内蔵モジュールを組み合わせ、CV信号を生成/出力する。例:シーケンサー、LFO
  • 上記を組み合わせた、複合的な使用方法

 Sequencerモジュールでピッチを生成し、そのCV出力を使って外部のオシレーターを鳴らして、さらにそのオーディオ信号をZoiaに戻してエフェクトをかけるなんていうことも簡単に行えるでしょう。なお、オプションで専用ケースのDesktop Enclosureが用意されているため、単体でも使用可能です。

f:id:rittor_snrec:20211126212048j:plain

専用ケースのDesktop Enclosure(12,980円)が用意されているため、この写真のように収めることで、単体でも使用することができる

 各モジュールはベーシックな機能をしっかりまとめて作られているため、一通りモジュラー・シンセを触ったことのある方やMaxユーザーの方はすぐ使いこなせると思いますし、ビギナーの方にとっては電子音楽制作におけるさまざまな機能を把握するとても良いステップになると思います。

 

 僕がモジュラー・シンセを始めた当初は、あるアイディアをひらめいても“必要な機能を持つモジュラーが手元に無くて実現できない”ということが多々ありました。しかし一通りの機能がそろったZoiaがあれば、すぐにアイディアを試してみることが可能です。これはコスト・パフォーマンスに優れているだけでなく、ユーロラックの省スペース化にも大きく貢献すること間違いなしです。EMPRESS EFFECTSならではの高品位エフェクトが一通りそろうだけでなく、モジュラー・シンセにおけるさまざまな機能や要素をカバーしたZoia。ぜひ読者の皆さんも体験してみてください!

 

Yuichiro Kotani
【Profile】米バークリー音楽大学で学び、近年はAll Day I Dreamなど人気レーベルからディープ・ハウスを発表。国内では広告音楽制作や楽曲提供の傍ら、モジュラー・シンセを取り入れたライブを展開。

 

EMPRESS EFFECTS Zoia Euroburo

81,400円

f:id:rittor_snrec:20211126211710j:plain

SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:1MΩ以上 ▪出力インピーダンス:100Ω ▪周波数特性(−3dB):10Hz〜23.4kHz ▪全高調波ひずみ率:0.22% ▪ダイナミック・レンジ:105.5dBA ▪消費電流:300mA ▪サイズ:34HP、28(D)mm ▪重量:約500g ▪付属品:電源用リボン・ケーブル(10Pin-16Pin)、MIDI-TRS変換ケーブル×2、ユーロラック・マウント用スクリューねじ、SDカード

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp