ギター・エフェクトからシンセまで
60種類のユニークなプリセット
Zoiaの筐体は大まかに、下部にある3つのストンプ・スイッチ、左部のダイアル式ノブとユーティリティ・ボタン/スクリーン、右部にある8×5個のグリッド・ボタンがある。グリッド・ボタンは、この一つ一つにモジュールを設置し、システムを構築していく。白紙のキャンバスのような、いわばこのZoiaの心臓部に当たる。
Zoiaを起動させてみるとプリセット・パッチが60種類用意されている。まずは音を出してみたいので、プリセットを一つ一つチェックしていったのだが、これだけで既にかなり楽しい。いわゆるギター・エフェクト、シンセ、それにシーケンサーで演奏されるループ・サウンドなどもある。どのパッチもユニークさが際立っているが、エフェクトでは空間系が印象的。一般的なペダル・エフェクターと比べ伸びやかで独特なゆらぎが感じられるのはこのZoia特有であり、同社製品が評価されている部分であろうと想像した。特にリバーブはモジュール内の設定をのぞいてみるとリバーブ・テイルが約46,000秒(!)まで設定できるようになっている。これはもう1音鳴らすだけでドローン・トラックができてしまうレベル。ディレイやトレモロなどではテンポ・シンクも可能だ。
シンセはシンプルにオシレーターからの発音をコントロールしてグリッド・ボタンに音階を割り振ったモノフォニックから、そのモノフォニックを複数並べポリフォニックにし、幾つかのモジュールを組み合わせたシンセ・パッドのパッチなどもある。アナログ・オシレーターに比べるとやや細さを感じてしまうが、オシレーターのモジュール・オプションには“fm in”が選択できたりするので、オリジナルのパッチを作る上でも複数のオシレーターを組み合わせて音作りできる。また発音周波数も音階名で設定できるのもありがたい。
このように使用するモジュールに対してどのような機能を与えるかなどを選択していけることから、ハードウェアのモジュラー・シンセというよりもCYCLING '74 Maxなどに近い発想のものだと感じた。
手軽なパッチングで多機能を集約
グリッド・ボタンは最大64ページに展開
プリセットでZoiaについて理解を深めていったので、ネクスト・ステップとして自作ペダル・ボードを構築してみる。まずは空のグリッド・ボタンを押すとスクリーンには各モジュールのセレクト画面が映し出される。モジュールは大きく5つに部類分けされており、オーディオ・インプットやアウトプット、MIDI IN、OUT、キーボードなどの“インターフェース”、オシレーター、VCAなどオーディオ・プロセッシングのための“オーディオ”、LFOやADSRエンベロープなどの“コントロール”、エンベロープ・フィルターやピッチ検出などの“アナリシス”、そして“エフェクト”。全部で80以上のモジュールを一つ一つ選んでいきボタンにアサインする。
インターフェース・モジュールからオーディオ・インプットとアウトプットを選び、接続する。これで筐体に入力された音が出力されることになる。そしてこのインプットとアウトプットの間にひずみ系から空間系などを思いのままにつないでいく。
これまでは複数の単体エフェクターを並べて作っていた音が、Zoiaのパッチ一つにすべて集約できる手軽さは心地良い。そしてエフェクトやオシレーターなどのモジュールをつなぎ合わせていくと、グリッド・ボタンはあっという間に埋まってしまうのだが、ページ・ボタン(画面の下にある2つ)を押すとページ・リストが現れる。1つのパッチにつき64ページまで用意されているので大量につなぎ合わせても十分過ぎるくらいだ。またパッチは最大64個まで本体にストック可能で、microSDカードに保存することもできる。
MIDIコントローラーとエフェクトで
ライブの即戦力として使用
先日、ライブ前日にふと思いつき、ZoiaでMIDIコントローラーとテープ・ディレイのパッチを構築し、本番で使用してみた。MIDI信号はラップトップに送りABLETON Liveを操作するために。ディレイはミキサーのAUXセンドで各トラックとやり取りした。正直なところ、MIDI信号には多少のレイテンシーを感じたが、テープ・ディレイの質感は秀逸。今回はプリセットのパッチを元にしたが、ゆらぎが絶妙で好みであった。ちなみにディレイは“クリーン"“テープ”“オールド・テープ”“BBD”のモデル選択が可能。
またディレイのディレイ・タイムに“ストンプ・スイッチ・モジュール”を接続。これによって筐体下部のスイッチを押すことで、曲のテンポ変化にも対応できる仕様にした。このようにMIDIコントローラーとエフェクターという、用途の異なる機能を一つのパッチ内で作れることが重宝し、ライブ・パフォーマンスにおいても実用性を感じた。
このようにふと思いついたアイディアをすぐに実現し、実用できるのがZoiaの特徴であり、魅力的な部分であった。使っているうちに、これさえあればある程度のことは何でもできてしまうのではないか?と思わされてしまうほどだ。イメージした音像に近付けるために幾つものペダルやコントローラー、モジュラー・シンセを買い足す前に、まずはその組み合わせをシミュレーションしてみるツールとしても、Zoiaは使っていけるだろう。
制作やライブもコンピューターで行っている筆者としては、使い始めはコンパクトであるがゆえの操作のしづらさや、モジュラー・シンセへの苦手意識から継続性を懸念していたが、使用しているうちに次々とアイディアを試したくなり、のめり込んでいった。当然、どれだけ時間があっても足りなくなっていくのだが、Zoiaには盛り上がっているオンライン・ユーザー・コミュニティがあり、そこではユーザーがパッチを公開/シェアしていて、誰でもダウンロードして試すことができる。この風通しの良さもZoiaならではの魅力の一つであり、今後の発展にも期待できる。
今後のアップデートで、エフェクトを含むモジュールの追加もあるだろうし、さらに使い込み要素が増していき長い付き合いになりそうだ。何よりもこれだけの機能が備わっていて59,000円だというから驚きだ。アイディアをノートに記していく……そんな感覚で使えるのがZoiaだと言えるだろう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年9月号より)