BLACK LION AUDIO Bluey レビュー:クリス・ロード=アルジ氏所有の1176を忠実に再現したコンプ

f:id:rittor_snrec:20211117193154j:plain

 シカゴに拠点を置くオーディオ・メーカーBLACK LION AUDIOより、新製品のBlueyが発売されました。その名が示す通り、名匠クリス・ロード=アルジ氏の所有する有名なUREI 1176のブルー・ストライプ、通称“Bluey”を氏と共同開発で再現、製品化したのが本機です。筆者も愛用していたクロック・ジェネレーターのMicro Clockシリーズをはじめ、優れたコスト・パフォーマンスかつ個性的なサウンド・デザインで、業界内で確固たる評価を得ているBLACK LION AUDIOだけに期待が高まります。

パラレル処理用COMP MIXを搭載

 UNIVERSAL AUDIO/UREIの創始者ビル・パットナムによって開発され、50年以上の長きにわたり世界中で愛され続けている1176。ナチュラルなレベラーから過激にクラッシュする使い方まで、万能かつ個性的な機材です。エンジニアによって使い方はさまざまですが、ソースを選ばずいろいろな場面で活躍する機材なので、日本でもほぼすべてのスタジオで常設していると言っても過言ではないでしょう。それだけにリイシュー機も数多く存在し、プラグイン化も多数のメーカーが行っています。

 

 そんな中、1176の中でも特に希少価値の高いブルー・ストライプと呼ばれる初期型のユニットを再現したのがBluey。個人的な感触としてブルー・ストライプはリリースが速く、ハーモニック・ディストーションが多く付加され、ミッドレンジのパワー感が増すようなイメージを持っています。比較的がっつり大胆にかけることが多く、常設してあるスタジオに行くと、エレキベースや、ロックものの場合は歌にも使用することが多いです。もちろんビンテージ故に個体差も大きく、一概にその限りではないでしょう。

 

 まずはデザイン面や操作子をチェック。オリジナルのブルー・ストライプをほぼ再現したデザインでありながら、ブランド・ロゴと“BLUEY”の刻印がモダンで印象的です。そして何よりBlueyの売りは中央に配置されたCOMP MIXつまみでしょう。文字通り、コンプレッションした信号とドライの信号がミックスでき、いわゆるパラレル・コンプレッションを単体で行うことができる機能。これの有無で音作りの幅ががぜん広くなりますし、使う前から早くも期待大です。なお、オリジナルではUTC製トランスが使用されていますが、BlueyはCINEMAG製トランスによってリメイクされています。

f:id:rittor_snrec:20211117193333j:plain

フロント・パネル中央にCOMP MIXつまみを装備。原音とコンプレッションした音をミックスすることで、パラレル・コンプレッションを行うことができる。オリジナルのUREI 1176には搭載されていない機能だ

f:id:rittor_snrec:20211117193346j:plain

リア・パネル。左からバランス出力(XLR)、LINK端子(RCAピン)、バランス入力(XLR)を搭載する

 ではサウンド面をチェックしていきましょう。最初は歌にインサート。レシオはひとまず4:1に設定し、ピーク時に4〜5dBほどリダクションされるようにインプットを調整……と思いながら触っていると、どうも想定よりもかかる印象。それもそのはず、本機はINPUTつまみが絞り切りでも入力が−∞にならない仕様とのこと。絞り切りから12時(つまみの24)辺りまでは大きくインプット・ゲインが変わらず、そこから先は加速度的にコンプレッションが増していく仕様になっています。この仕様は、クリス・ロード=アルジ氏所有のオリジナルBlueyのモディファイを忠実に再現しているようです。どうやら本機の基本的な使い方としては、COMP MIXを生かして“がっつりかけて適度にミックスする”という形なのでしょう。

1176では得られない独特なアグレッシブ・サウンド

 いろいろと把握したところでチェック再開。ミックスを100%にして、リダクション・メーターをガンガン振りながらアタック/リリース・タイムを調整します。一聴してハーモニック・ディストーションが付加され、押し出しの強い音になる印象です。もちろんソースにもよりますが、ファースト・インプレッションとしてはリリース・タイムを速めで使う方が本機の魅力が出てくると感じました。概ねかかり方を決めたところでドライ音をミックス。大体50:50に設定すると、あんばいの良い仕上がりに。リリース・タイムを速めに設定することで、音像が近くて前に張り出したボーカルができました。

 

 一点注意したいのが、ミックスを0%、つまり100%ドライの状態にしても、元の信号よりもレベルが5.6dBほど大きくなります。ドライ信号にはOUTPUTつまみは作用しないので、DAW上でハードウェア・インサートして使用する際はリターンのデジタル・クリッピングに注意したいところです。

 

 次に、このままレシオを筆者の好きな20:1と8:1の2つ押しに変更。結論から言うと、これが個人的には一番ヒットでした。4:1と比較すると明らかに倍音が増加し、程良いひずみ感を伴ったヒリヒリしたボーカル・サウンドが作れます。分厚いギターの壁や、押し出しの強い打ち込みキックにも負けない強いボーカルが欲しい場合にはもってこいでしょう。

 

 続いてはエレキベースにインサート。予想通りこれもバッチリです。ここでもメーターをガンガン振って、ウェット/ドライを6:4ほどにミックスします。低域にブリっとしたアタック感が出て、アグレッシブかつ安定したベースに。アタックの強いドラムなどの打楽器系よりも、ボーカル、ベース、エレキギターなどと相性の良い機材だと感じました。

 

 通常の1176の感覚で触り始めたので、最初は多少使い勝手に困惑しましたが、手になじんでくると自分の感覚も多少ロックになり(?)、気付けば普段作らないようなアグレッシブなサウンドができていました。筆者の所属するスタジオ・サウンド・ダリが所有するブラックやシルバーの1176ととっかえひっかえしてチェックしましたが、明らかにBlueyでしかできないサウンドがあります。

 

 この価格帯の製品にありがちな“何に使ってもそこそこ良いけど、別にこれじゃなくても良いかなぁ”といった機材ではなく、ワン&オンリーな魅力を放つBluey。1176のリイシュー機としてだけでなく、ダイナミックに使えるコンプレッサーを探している方にお薦めしたい一品です。

 

大野順平
【Profile】スタジオ・サウンド・ダリ所属のエンジニア。中田裕二、福原美穂、SUGIZOらの作品を数多く手掛けるほか、baroqueや榊いずみ、浜端ヨウヘイ、叶和貴子といったアーティストにも携わる。

 

BLACK LION AUDIO Bluey

オープン・プライス

(市場予想価格:121,000円前後)

f:id:rittor_snrec:20211117193154j:plain

SPECIFICATIONS
▪アタック:20〜800μs ▪リリース:50〜1200ms ▪レシオ:4:1、8:1、12:1、20:1、および任意の組み合わせ ▪動作電圧:115/230V ▪外形寸法:438(W)×88(H)×250(D)mm ▪重量:8kg

製品情報