「GOODHERTZ Mixing Bundle V3」Vulf Compressorなどを収録した6種類のプラグイン・バンドル

Vulf Compressorなどを収録した6種類のプラグイン・バンドル「GOODHERTZ Mixing Bundle V3」

フックアップが運営するオンライン・ストアのbeatcloudから、注目のソフトをピックアップする本コーナー。今回レビューするのは、ロサンゼルスに拠点を置くオーディオ・ソフトウェア・ブランドGOODHERTZのMixing Bundle V3です。Vulf Compressor、Tone Control、Midside、Panpot、Tiltshift、Faraday Limiterといったミックスに有用なプラグイン6種類を収録したバンドルとなっています。Mac/Windows対応で、AAX/AU/VST/VST3プラグイン(いずれも64ビット)として動作。早速レビューしていきましょう!

レトロな質感を再現できるコンプ Vulf Compressor

 GOODHERTZのプラグインはシンプルかつ、遊び心を感じさせるデザインで親近感が湧きます。いずれも日本語表示機能や、ライト・モード/ダーク・モード切り替え機能、URLでのパラメーター設定共有機能があるのも便利です。

●Vulf Compressor

 超個性的なコンプ。名前の通りロサンゼルスのミニマル・ファンク・バンド、ヴルフペックと共同開発されたということで、彼らの“パツッとしたコンプのかかり具合や、ざらっとしたレトロな質感”が再現できるでしょう。通常のコンプに見られるようなスレッショルドやレシオといったパラメーターは見られず、オート型のメイクアップ・ゲインを採用した音をつぶすためのコンプです。

画面① Vulf Compressorは、手軽にレトロなサウンドを再現できるコンプ。赤色のバーにある“…”アイコンをクリックすることで、バーの右側に“Advancedセクション”が展開する。ここでは、ワウのスピードを33.3/45/78RPMの3種類から選べたり、ローファイ・タイプをアナログ/90年代デジタル/80年代デジタルの3種類からセレクトしたりと、細かい設定が可能。サイド・チェイン・コンプも搭載している

Vulf Compressorは、手軽にレトロなサウンドを再現できるコンプ。赤色のバーにある“…”アイコンをクリックすることで、バーの右側に“Advancedセクション”が展開する。ここでは、ワウのスピードを33.3/45/78RPMの3種類から選べたり、ローファイ・タイプをアナログ/90年代デジタル/80年代デジタルの3種類からセレクトしたりと、細かい設定が可能。サイド・チェイン・コンプも搭載している

 注目すべきは“ワウ”や“ローファイ”といったパラメーター。ワウはレコードの回転ムラを再現し、ローファイは高調波ひずみやノイズの量を増幅することが可能です。ドラム・バスにデフォルト状態のVulf Compressorをインサートすると、パンチーで若干レトロな質感が味わえるでしょう。

 イン、コンプ、ワウ、ローファイ、原音〜vulf(ミックス)といったパラメーターだけでもかなりのサウンドを演出可能なのですが、赤色のバーにある“…”をクリックすることでバーの右側に“Advancedセクション”が展開します。

 このセクションではアタック/リリースの設定はもちろん、ステレオの位相の乱れによるフランジング効果、ひずみ成分のタイプと量などが調整可能です。これらのパラメーターは“どのように使っていこうか?”とユーザーのセンスを試されるような内容になっていると思います。エンジニアがミックスする用途にはもちろん使えますが、クリエイターが楽曲の方向性を提示したり、サウンド・メイクしたりする上で本領発揮してくれるのではないでしょうか。破壊的なコンプをかけたり、1970〜90年代フィルターを再現したり、ワウやフランジング効果で不思議な空間処理を施したりなど、さまざまな演出が行えるでしょう。個人的には、ルイス・コールが好きな人にもお薦めの名プラグインです!

●Tone Control

 1950年にピーター・バクサンドールというエンジニアが、高域と低域を調整するのに最適な回路を考案しました。Tone Controlはこの回路をモデルにしつつ、現代的にブラッシュアップしたEQプラグインです。ローカット/ハイカット・フィルターを備えており、攻めたEQ処理というよりも全体的なトーン調整に向いています。堅実な効果を提供してくれるので、ミックス/マスタリング・エンジニアからも重宝がられるでしょう。イメージ通りの変化をもたらしてくれます。

画面② Tone Controlは、ピーター・バクサンドール考案の回路をモデルにしたEQ。ローシェルフ/ハイシェルフEQとローカット/ハイカットEQを搭載し、動作モードはステレオ、Lch、Rch、ミッド、サイドの5種類を備えている。マスター・セクションには、主に高域の周波数帯域を調整するパラメーターの“エア”を装備

Tone Controlは、ピーター・バクサンドール考案の回路をモデルにしたEQ。ローシェルフ/ハイシェルフEQとローカット/ハイカットEQを搭載し、動作モードはステレオ、Lch、Rch、ミッド、サイドの5種類を備えている。マスター・セクションには、主に高域の周波数帯域を調整するパラメーターの“エア”を装備

 水色のバーの中段には“ステレオ”という文字が表示されていますが、この部分をクリックすると動作モードが“Lch→Rch→ミッド→サイド→ステレオ”と変化。これに従い、エフェクトを施す成分を切り替えることが可能です。

 またAdvancedセクションの右下にある“HQアイコン”をオンにすることで、Tone Controlは“HQモード”になります。このモードではCPU負荷は大きくなるものの、スペクトルの分解能が向上。高音質にこだわりたいときや、マスタリング時などでも活用できるでしょう。

画面③ Tone ControlのAdvancedセクションの右下には“HQアイコン”を搭載(赤枠)。これをオンにすると、Tone Controlは“HQモード”となり、スペクトルの分解能が向上する。また“リニアフェーズ機能”が使用できるようになる

Tone ControlのAdvancedセクションの右下には“HQアイコン”を搭載(赤枠)。これをオンにすると、Tone Controlは“HQモード”となり、スペクトルの分解能が向上する。また“リニアフェーズ機能”が使用できるようになる

 さらに、HQモードではAdvancedセクションの中央にある“リニアフェーズ機能”が使えるようになります。パラメーター値は0〜100%まで連続可変の仕様です。0%に近づくにつれてミニマム・フェイズEQに、100%に近づくにつれてリニア・フェイズEQになるので微細な調整が行えるでしょう。

 もう一つ面白いなと思ったのが、マスター・セクションに用意された“エア”。ボーカルにインサートして値を100%に設定すると、ボーカルをオケ中でもグッと前に出すことができます。逆に値を−100%に設定するとボーカルの音量感は変わらず、オケに埋もれる感じに。リニア・フェイズ機能のパーセンテージと組み合わせることにより、エッジ感や前後の定位感のコントロールが可能になります。

MidsideでM/S処理やステレオ幅を調整

●Midside

 M/S処理やステレオ・イメージのコントロールが行えるプラグイン。画面中央には“幅モード”があり、ステレオ幅の変化の仕方を6種類から選択可能です。Advancedセクションでは、ミッド/サイドそれぞれにチルトEQが用意され、しかもそれらには自動/普通/高域/低域といった4種類のラウドネス設定を選べる“ラウドネスモード”が搭載されています。全体的にとても上品な効果をもたらしてくれるプラグインで、より自然に、かつ細かく設定できる仕様になっているのがポイントです。マスタリングにも向いていると思います。

画面④ MidsideはM/S処理に特化したプラグイン。ステレオ幅の変化の仕方を選べる6種類の“幅モード”や、設定した周波数帯域よりも低いステレオ信号をモノラル化する“低域モノラルフィルター”などを搭載している

MidsideはM/S処理に特化したプラグイン。ステレオ幅の変化の仕方を選べる6種類の“幅モード”や、設定した周波数帯域よりも低いステレオ信号をモノラル化する“低域モノラルフィルター”などを搭載している

リアルな空間演出が可能なPanpot

●Panpot

 DAW上でパンニングとは、L/Rの音量バランスを変えることによって音が鳴る水平方向の位置を設定することですが、現実世界ではそれに加えて“時間差”“前後左右の聴こえ方(スペクトラル・キュー)”“音源からの距離”などが影響しています。それを再現しようというプラグインが、Panpot。“レベル”“ディレイ”“スペクトラル”“フェイズ”という4つのパラメーターを操作することによってリアルな定位感を再現でき、極端な設定にすると逆相や、ダブリングのようなエフェクトを作り出すことも可能です。シンセやコーラスに使用してリアルな空間の広がりや、奥行きを演出するのも良し。ここぞというときのギミック的な使い方もいいかもしれません。ユーザーのクリエイティビティが刺激されるプラグインです。

画面⑤ Panpotは“レベル”“ディレイ”“スペクトラル”“フェイズ”という4つのパラメーターが特徴のパンニング・プラグイン。Advancedセクションでは、エフェクトがかかる前段でのL/Rにおけるゲイン値の変更や極性の切り替えなど、より細かいコントロールのためのパラメーターが用意されている

Panpotは“レベル”“ディレイ”“スペクトラル”“フェイズ”という4つのパラメーターが特徴のパンニング・プラグイン。Advancedセクションでは、エフェクトがかかる前段でのL/Rにおけるゲイン値の変更や極性の切り替えなど、より細かいコントロールのためのパラメーターが用意されている

●Tiltshift

 高域をブーストすると低域が減衰、低域をブーストすると高域が減衰するという、Midsideにも搭載されていたチルトEQをメインとしたプラグインですが、用意されたパラメーターの設定次第ではクリエイティブ・ツールにもなるでしょう。

 EQカーブのスロープは、6.0〜48.0dB/Octの範囲で調整可能。ハイカット/ローカット・フィルターを搭載し、それぞれにはレゾナンスが備わっているため、ラジオ・ボイス・エフェクトを簡単に作り出すことができます。出力段ではラウドネス・タイプを4種類から選べるため、極端な設定にしてもボリューム調整が必要なく、とても扱いやすい仕様になっています。

画面⑥ Tilltshiftはチルト・タイプのEQプラグイン。オーディオの位相、周波数、トランジェント・レスポンスを変化させることなく、音作りが行える。任意のチルト設定に対して自動的にラウドネスがマッチングされる“自動”のほか、“普通”“高域”“低域”といった4種類のラウドネス・モードを装備

Tilltshiftはチルト・タイプのEQプラグイン。オーディオの位相、周波数、トランジェント・レスポンスを変化させることなく、音作りが行える。任意のチルト設定に対して自動的にラウドネスがマッチングされる“自動”のほか、“普通”“高域”“低域”といった4種類のラウドネス・モードを装備

●Faraday Limiter

 デジタル・リミッターは音量を淡々と制御することを念頭に開発されているものも多いのですが、このプラグインは違うようです。特徴的なのは、メイン画面の中央にある“バイブ”セクション。“カラー”はアナログライクな飽和感を増幅でき、“ウォーム”はリミッティングする周波数帯域を調整可能です。このプラグインはどちらかというと、ハードウェア・リミッターのような感覚でドラムやボーカル、カッティング奏法のアコギなどのアタックを止める用途に向いているでしょう。

画面⑦ Faraday Limiterハードウェアをモデルに開発された、アナログライクなリミッター・プラグイン。サチュレーション具合を制御する“カラー”や、リミッティングする周波数帯域を調整する“ウォーム”などのパラメーターが特徴的だ。ゲイン値を自動補正する“オートゲイン”も搭載している

Faraday Limiterハードウェアをモデルに開発された、アナログライクなリミッター・プラグイン。サチュレーション具合を制御する“カラー”や、リミッティングする周波数帯域を調整する“ウォーム”などのパラメーターが特徴的だ。ゲイン値を自動補正する“オートゲイン”も搭載している

 Mixing Bundle V3に含まれる6種類のプラグインは、それぞれ単体購入も可能です。特にVulf Compressorは必ずチェックしてほしいのですが、ほかにもGOODHERTZは個性の光るプラグインを多数リリースしているので、一度beatcloudをのぞいてみてください。beatcloudから購入すれば、日本語マニュアルが付いてくるのもうれしいですね。分かりやすい説明が載っているので大いに役に立つことでしょう。

 

GOODHERTZ Mixing Bundle V3

beatcloud価格:
Mixing Bundle V3:49,500円|Vulf Compressor:19,050円|Tone Control:12,150円|Midside:10,100円|Panpot:6,250円|Tiltshift:6,250円|Faraday Limiter:12,150円

 Requirements 
■Mac:macOS 10.9以降(64ビット)、AU/AAX/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション
■Windows:Windows 7以降(64ビット)、AAX/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション

 

星野誠

【Profile】ビクタースタジオを経てフリーで活動するエンジニア。クラムボンの楽曲を多数手掛けたことで知られ、近年もsumika、toconoma、MIMiNARIなど一線のアーティストに携わる。

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