AVID Mbox Studio レビュー:専用ソフトで詳細な入出力設定も可能な21イン/22アウトのオーディオI/O

AVID Mbox Studio レビュー:専用ソフトで詳細な入出力設定も可能な21イン/22アウトのオーディオI/O

 10月に開催されたAES New York 2022にて発表されたオーディオ・インターフェース、AVID Mbox Studio。2002年に初代Mboxが登場してから4世代目、前世代から約10年の時を経て、満を持しての登場となりました。ネイティブ環境のパーソナル・スタジオ用途として、本格的な機能とクオリティの提供をうたっている本機。ルックスも特徴的で、一目見たところ使い勝手も良さそうです。特に、我々エンジニアにとっては信頼度抜群のAVIDなので、サウンド、作業しやすさなどの実用性において、期待が高まらずにはいられません。

Pro Tools Studioのサブスクリプションのほか多数のソフトウェアを付属

 まずは仕様から見ていきましょう。Mbox Studioは最大21イン/22アウトの同時入出力可能なUSB接続のオーディオ・インターフェースでありながら、モニター・コントローラー、マイクプリ/ライン・アンプでもあり、すべての音楽制作過程が一台で完結できるようになっています。

 主なアナログ入力は、まず前面にマイク/ライン/インスト入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)が2系統、背面にマイク/ライン入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)が2系統あり、これらはインピーダンス可変のVariable-Z(Hi-Z入力にも対応)機能を備えています。そのほかライン入力(TRSフォーン)を4系統搭載。最高24ビット/192kHzに対応します。Pro Toolsはもちろんのこと、他社のDAWでも使えるのがうれしいところです。また、スタンドアローンで起動すれば、単体のモニター・コントローラーやスタジオ機材を連携するハブとしても活用できます。

リア・パネル。上段左からUSB-C端子、MIDI入出力、下段左からADAT入出力(オプティカル)、S/P DIF入出力(コアキシャル)、モニター出力L/R×2(TRSフォーン)、FXセンド×2(ライン/Hi-Z出力:TRSフォーン)、FXリターン(ライン入力:TRSフォーン)、ライン入力×2(TRSフォーン)、Variable-Z(インピーダンス可変)対応のマイク/ライン入力×2(XLR/TRSフォーン・コンボ)、フットスイッチ/エクスプレッション・ペダル入力×2(フォーン)

リア・パネル。上段左からUSB-C端子、MIDI入出力、下段左からADAT入出力(オプティカル)、S/P DIF入出力(コアキシャル)、モニター出力L/R×2(TRSフォーン)、FXセンド×2(ライン/Hi-Z出力:TRSフォーン)、FXリターン(ライン入力:TRSフォーン)、ライン入力×2(TRSフォーン)、Variable-Z(インピーダンス可変)対応のマイク/ライン入力×2(XLR/TRSフォーン・コンボ)、フットスイッチ/エクスプレッション・ペダル入力×2(フォーン)

 付属品は、電源アダプター、長さ約1.5mのUSB-C to Cケーブル(紫色!)とUSB-C to Aの変換アダプターとなっています。同梱ソフトウェアの方を見ると、まず目玉なのがPro Tools Studioと楽譜作成ソフトSibelius Artistの年間サブスクリプション(1年分)。前者は115種類以上のプラグインもセットになっているほか、ピッチ補正プラグインのCELEMONY Melodyne 5 Essential、ワークフローを構築するアプリケーションのSOUNDFLOW SoundFlow Cloud Avid Edition、サンプル・ループ集のAVID Loopmasters Sample Packも含まれています。加えてPro Tools Inner CircleやMbox Studio Ignition Packといった豊富なプラグイン・ライブラリーも付属。本体価格から考えると、相当お得に感じます。

 さらに、コンピューター上から本体をコントロールするソフトウェアMbox Controlも用意。低レイテンシーのレコーディングやルーティングの管理を快適に行えます。モニター用のディレイ、リバーブのほか、かけ録りのエフェクトとしても使用できる4バンドEQといった内蔵エフェクトも搭載し、パラメーター調節が可能です。Mbox Controlについては、後ほど詳述します。

トークバック・マイクによるギターのチューニングも可能

 本体装備を見ていきます。まずは上部手前から。一見DJ機器のような外観の2つの大きなノブは、左側がインプット系、右側がアウトプット(モニター)系を操作できるようになっています。ノブは回すだけでなく押すこともでき、左側はインプットのch1〜6の選択、右側は4種類のスピーカー・アウトプット(Main/Alt/Digital/Bluetooth)を選択できます。左奥には表記通りの機能を持つ6つのボタン群。

本体上部の左奥のボタン群はインプット側の制御を行う。左上から時計回りに、48Vファンタム電源(チャンネルごとに入力可)、Bluetoothペアリング(入力)、ステレオ・リンク、−10dBのPAD、インピーダンス可変機能のVariable-Z(選択しているインピーダンスによって色が変化)、マイク/ライン/楽器から入力形式を選択、といった機能を備える

本体上部の左奥のボタン群はインプット側の制御を行う。左上から時計回りに、48Vファンタム電源(チャンネルごとに入力可)、Bluetoothペアリング(入力)、ステレオ・リンク、−10dBのPAD、インピーダンス可変機能のVariable-Z(選択しているインピーダンスによって色が変化)、マイク/ライン/楽器から入力形式を選択、といった機能を備える

 Bluetoothマークのボタンを押すと、スマートフォンと簡単にペアリングし音楽を再生できました。左下のINPTで、各チャンネルの入力形式を選択します。その右のZは、Variable-Zによるインピーダンスの切り替えで、楽器入力だけでなくマイク入力でも数パターン選べるところがよくできています。

 右側の6つのボタンはアウトプット関連で、基本的なモニター・コントローラーの機能が備わっています。

右奥のボタン群はアウトプット側に対応。左上から時計回りに、Main/Alt/Bluetoothの出力レベルをそろえるモニター・リンク、Bluetoothペアリング(出力)、モノラル出力への切り替え、トークバック(本体にマイクを内蔵)、ディム、ミュートといった機能を備える

右奥のボタン群はアウトプット側に対応。左上から時計回りに、Main/Alt/Bluetoothの出力レベルをそろえるモニター・リンク、Bluetoothペアリング(出力)、モノラル出力への切り替え、トークバック(本体にマイクを内蔵)、ディム、ミュートといった機能を備える

 左上のLINKをオンすれば別のスピーカーに切り替えても(Main→Altなど)同じ音量で再生し、オフにすると、例えばMainは大きい音量のまま、Altは小さい音量と異なる音量で出力でき、個人的にはミックス時にとてもありがたい機能です。同時に、右上のMONOボタンも、トラックのチェックやミックスの確認にうれしいポイント。MBox Studioの本格仕様が感じられます。こちら側のBluetoothボタンは、APPLE Air Pods ProなどBluetooth機器でのリスニング用です。TALKは録音用のトークバックなのですが、入力チャンネルとしてDAWにインプットが表示され、即録音可能なのには感動しました。

 中央にある4つのカラフルなUser Action Buttonは、付属のMbox Controlと連動で、ショートカットしたい機能をお好みでアサインができます(色も選択できます)。TUNEボタンはチューナーです。トークバックのマイクも生かせるので、アコースティック・ギターのチューニングも簡単に行えますね。

 前面左側にはVariable-Z機能を備えるマイク/ライン/楽器入力が2系統(XLR/TRSフォーン・コンボ)。その右のHi-Z OUT TO AMP出力(フォーン)からギター・アンプなどに接続すれば、リアンプも行えます。右側にはヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)が2系統あるのも安心です。

 背面の入出力には、フット・スイッチ/エクスプレッション・ペダル入力やFXセンド/リターン、MIDI入出力も備わっており、多様な場面が想定され隅々まで行き届いた仕様になっていることが、ここでも感じられます。

好みの機能をアサインできるUser Action Button

 ここからは、同梱するMbox Controlについて。第一印象では何だか複雑そうに思ってしまいましたが、実際はシンプルかつソフト自体も軽く、すぐに立ち上がります。

Mbox Controlのメイン画面。フェーダーの列が3段に分かれており、上からHardware Input(本体からの入力)、Software Input(DAWからの入力)、Hardware Output(本体への出力)に分かれている。左下のMonitor(黄枠)では、Mbox Controlから各出力の音量調節やトークバックのオン/オフ切り替えなども行える。左上のChannel Focus(赤枠)では、選択したチャンネルの細かな調整が可能。画面上では入力のLine 5が選択されている

Mbox Controlのメイン画面。フェーダーの列が3段に分かれており、上からHardware Input(本体からの入力)、Software Input(DAWからの入力)、Hardware Output(本体への出力)に分かれている。左下のMonitor(黄枠)では、Mbox Controlから各出力の音量調節やトークバックのオン/オフ切り替えなども行える。左上のChannel Focus(赤枠)では、選択したチャンネルの細かな調整が可能。画面上では入力のLine 5が選択されている

 3段に分かれているフェーダーの列は、上段からHardware Input、Software Input、Hardware Outputという構成。画面左下の円部分のMonitorで、Mbox Controlからのモニター・コントロールも可能にしています。左上部分のChannel Focusでは選択したフェーダーの細かい操作が可能で、フェイズ、HPF、ソフト・リミットのオン/オフ・スイッチや、FXセンドも搭載。4バンドのEQは“EQ to DAW”スイッチがあるので、モニターだけのEQにするか、録り音にも反映させるかを選べるのも大変親切な機能です。

 左上のChannel Focusの右にAvid FXという項目があり、そこでリバーブやディレイを細かく設定できます。

Channel Focusの隣にあるタブのAvid FX(青枠)を選ぶと、リバーブやディレイのコントロール画面に切り替わる。各チャンネルのフェーダーも色が変わり、エフェクトのかかり具合の調節に変更する

Channel Focusの隣にあるタブのAvid FX(青枠)を選ぶと、リバーブやディレイのコントロール画面に切り替わる。各チャンネルのフェーダーも色が変わり、エフェクトのかかり具合の調節に変更する

 注意点として、中段のSoftware Inputは、デフォルトでは8chすべてPANがセンターになっているので、ステレオで聴きたいチャンネルはL/Rに開くのをお忘れなく。

 最上部にあるツールバーには、プリセットの作成やリコール、User Action Buttonの色や機能のアサイン、チューナー、ループバック、右端にはPreferenceなどがあります。

Mbox Studio本体の中央にある4つのボタンUser Action Buttonの色やアサインする機能は、Mbox Control画面上部にあるツールバーから設定できる

Mbox Studio本体の中央にある4つのボタンUser Action Buttonの色やアサインする機能は、Mbox Control画面上部にあるツールバーから設定できる

チューナーはツールバー右側にあるTuneを押すと表示される。またチューナー使用時は、Mbox Studio本体のレベル・メーター上にアルファベットがドット表記され、本体のみでもチューニングできるようになっている

チューナーはツールバー右側にあるTuneを押すと表示される。またチューナー使用時は、Mbox Studio本体のレベル・メーター上にアルファベットがドット表記され、本体のみでもチューニングできるようになっている

ツールバー右端の歯車マークはPreferenceボタンで、クロック・ソース、サンプリング・レートなどの設定を変更可能

ツールバー右端の歯車マークはPreferenceボタンで、クロック・ソース、サンプリング・レートなどの設定を変更可能

幅広く音を作り込めるVariable-Z機能

 それではPro Toolsを立ち上げてサウンド・チェック。まずは出力からです。最近の洋楽曲や、先日自分が録ったバンド・レコーディングの音で確認。全体に大きい音像でワイド・レンジ、現代のサウンドになっており好印象です。ほんの少しだけ中高域が多い感じもしますが、気にならない程度なので、むしろ中高域の解像度が高いとも言えます。サウンドのキャラクターも作りやすさがありました。

 同じAVIDのPro Tools | HD I/Oと比べると、Mbox Studioの方が音像が大きく、倍音のある派手めなサウンドに感じました。当然ながら今っぽいサウンド・イメージです。ヘッドフォンの音は高域が若干多めに感じましたが、この価格帯においては十分なサウンドと言えるでしょう。

 次にMbox Controlも使いながら歌、ギター、ベース、鍵盤を録ってみました。歌はMbox Studioのマイク入力に接続してそのまま録りましたが、全く違和感なく録れました。試しに、筆者がいつも使っているビンテージ系のマイクプリでゲインを上げてからMbox Studioのライン入力に接続して録った音と比べてみましたが、どちらかに圧倒的な優劣があるということもなく、好みでどちらでもありかなと。想像していたよりも良い印象でした。

 レイテンシーの問題も、Mbox Controlから音を返せば何の問題もありません。4バンドEQ、リバーブとディレイも使えるので、Pro Tools | HDXシステム環境でレコーディングしているときと同じように作業できます。

 ベース、ギター、鍵盤各種をMbox Studioのインスト入力に接続したもの、外部DIからMbox Studioのマイク入力に接続したもの、外部DIから外部マイクプリ→MBox Studioのライン入力に接続したもので録ってみました。これも三者で大きな差異はなく、お好みでよいでしょう。トランジェントもしっかり残っている印象があり、癖なく好印象です。楽器を入力する場合は、ZボタンのVariable-Z機能を使えば通常のHi-Zから上は1MΩまで、たくさんのインピーダンス値が選べ、そのチョイスで結構音が変わるので、追い込んで音作りできそうです。ただ、ひとつ惜しかったのが、インピーダンスを変える際に、切り替えに少しだけタイムラグが出て無音になるため、音の変わり方がちょっと分かりづらい、という点はありました。

 実際に使用してみて、しっかりした筐体でどんな環境でも使えそうな耐性があると思いました。底面のゴム足もグリップ力があり、ケーブルの抜き差しなども行いやすいです。

 Mbox Studioは音楽制作に必要な機能だけでなく、“あると便利だな”という機能も多く備わっていて、さすがの使い勝手の良さです。音質も今日のシーンに合ったもので、価格以上の音に感じました。オーディオ・インターフェース、モニター・コントローラーをお探しの方にはぜひ使ってみてほしいです。これから初めてPro Toolsを使用してみたい、という方にも絶好のシステムではないでしょうか。

 

福田聡
【Profile】フリーで活動するレコーディング・エンジニア。ファンクやR&Bなどグルーブ重視のサウンドを得意とし、最近では、ENDRECHERIや佐藤竹善、オーサカ=モノレール、賽などを手掛ける。

 

AVID Mbox Studio

116,600円

AVID Mbox Studio

SPECIFICATIONS
▪接続方式:USB-C(USB 2.0) ▪最大同時入出力数:21イン/22アウト ▪ビット/サンプリング・レート:最高24ビット/192kHz(10イン/10アウト使用時)、96kHz(21イン/22アウト使用時) ▪最大入力レベル:14dBu(マイク/ライン/楽器入力共通) ▪入力ダイナミック・レンジ:112dB(マイク/ライン入力)、108dB(楽器入力) ▪出力ダイナミック・レンジ:110dB(モニター出力)、102dB(ヘッドフォン出力)、103dB(Hi-Z出力) ▪付属品:USB-C to Cケーブル、USB C to A変換アダプター、電源アダプター ▪外形寸法:288.0(W)×105.2(H)×225.3(D)mm ▪重量:2.8kg

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15.7以降(10.13以降でドライバー使用可能)、INTEL Core I5以上のプロセッサー(Apple M1を含む)
▪Windows:Windows 10/11、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪共通:8GB以上のRAM

製品情報

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