名機を元に開発したGau-AMT搭載の2ウェイ・モニター「AVANTONE PRO Gauss 7」レビュー

名機を元に開発したGau-AMT搭載の2ウェイ・モニター「AVANTONE PRO Gauss 7」レビュー

 AVANTONE PROと言えば、かのクリス・ロード=アルジが開発にかかわったYAMAHA NS-10Mの実質的クローンとなるモニター・スピーカー、CLA-10Aで有名なメーカーです。今回レビューするGauss 7は、1960年代から1980年代にかけて人気のあったGAUSS SPEAKER COMPANYの製品が持つ古き良きモニター・スピーカーの“鳴り”がコンセプトで、現代的にアレンジしたという製品。何かのレプリカというわけではなく、オリジナルのアクティブ・スピーカーとなっています。

リアにバスレフ・ポートを搭載。ひずみの少ないリボン系ツィーターを採用

 見た目はオーセンティックな2ウェイ・タイプのニアフィールド・モニターですが、内蔵のパワー・アンプはバイアンプ仕様と気合いの入った作りです。ツィーターとウーファーを別のアンプで鳴らすことで、互いの干渉を避けながら最適化したスピーカー・ユニットの駆動を実現。クラスDアンプを搭載し、その出力は低域が120W、高域が60Wですが、最近のクラスDアンプは効率の良さだけでなく音質もあなどれません。

 

 近年の流行でもあるリアにバスレフ・ポートを設けているタイプなので、壁にピッタリとくっつけて設置することは望ましくないスピーカーとも言えます。しかし大き過ぎず小さ過ぎず、ミックス作業などにちょうど良いサイズ。ホーム・スタジオにも適した製品と言えそうです。

 

 ツィーターが特徴的で、カスタム・デザインのGau-AMTというものを搭載しています。言ってみれば“リボン系ツィーター”のジャンルに当てはまるツィーター。この構造のものを各社がこぞって採用していることからも分かる通り、ひずみや位相の乱れが少なく透明感のあるサウンドが特徴です。

 

 そしてウーファー・ユニットは同社のAV10 MLFに見た目がそっくりなため流用かと思いきや、これまた一から設計し直したとのこと。スペシャルな仕様のものが付いています。

 

 リア・パネルにはバランス仕様のXLRとTRSフォーン入力のほか、トーン・コントロール用のスイッチがあります。低域の調整にあたるAcoustic Placementスイッチは0dB/−2dB/−4dBの3パターン。高域にあたるHigh Trimスイッチにも+2dB/0dB/−2dBの3パターンがあります。筆者のスタジオではフラットの状態が一番バランス良く聴こえました。設置する環境によっては多少の調整が必要なこともあると思うので、積極的に試してみることをお勧めします。

f:id:rittor_snrec:20210907135618j:plain

リア・パネル。入力端子はTRSフォーン、XLRの2種類を装備する。±6dBのボリュームを調節できるGainつまみ、低域を3段階に音量調節できるAcoustic Placementスイッチ、高域を3段階に音量調節できるHigh Trimスイッチも搭載

 Gainつまみは、12時にあたる“Unity”を中心にして±6dBのボリューム・コントロールができます。ただセンター・クリックが無く動きがかなりスムーズなため、裏に手を伸ばしたときなどに不意に触ってしまうことが無いよう注意しましょう。

 

 また本体底面は珍しくゴム足付き。インシュレーターを使いたい人には邪魔かもしれませんが、この状態でチューニングされているはずなのでゴム足付きでテストしました。

小音量でも高い再生能力の高域。素直でタイトな低域はミックス向き

 さて肝心の音質ですが、まず感じるのがGau-AMTが生み出す抜けの良い高音。ひずみが全く感じられず、ザラつきの無いトランスペアレントな高域が出ている!というのが一聴して分かる、とても特徴的な音が出ています。スカーっとシンバルが抜ける感覚はこれまで聴いてきたリボン・ツィーターともちょっと違った印象。トップ・エンドがどこまでも伸びているイメージです。普段聴き慣れているスピーカーはここまで奇麗な高音が出ないので、最初はちょっと高域が強過ぎるかなという印象もありました。ですが耳が慣れてくるとそういうこともなく、特に小さな音量で鳴らしたときの再生能力の高さ、トランジェントの正確さ、定位の明りょうさはこの価格帯としてはかなり優秀と言っていいのではないでしょうか。

 

 ただスタジオ・モニターとして特化しているので指向性はやや強め。スウィート・スポットが狭いためか、ちょっと頭の位置を動かしただけで聴こえ方は大きく変わります。その分、定位感の分かりやすさが優れているのでしょう。

 

 ウーファーは近年のニアフィールド・モニターにありがちな、“サイズを超えたド迫力の低音!”みたいな低域のブースト感が全然無く、非常にタイトで素直なローエンドが印象的。この辺りのフィーリングが、Gauss 7のビンテージ・モダンな部分なのかもしれませんね。ミックスのときもこういう特性の方が断然やりやすいでしょう。最新鋭のスタジオ・モニターにあえて手を出さないできた筆者にも、受け入れやすいニュアンスのある製品だと思いました。

 

 誇張の無いローエンドだから、どちらかと言えば物足りない感じなんじゃないかと想像される方がいらっしゃるかもしれません。ただ、“しっかり低域が出ている”とほとんどの方が思えるようなボリューム感はちゃんとあります。どこまでも元気に動き回るツィーターとうまくバランスを取れている引き締まった低音感、というところでしょうか。結果的に、トータルでは現代の音楽ソースに合わせたモダンなサウンドになっていると思います。

 

 Gauss 7はダンス・ミュージック、ロック、ポップスにも対応できるプロフェッショナルなモニター・スピーカー。ぜひ試してみてください。価格を超えた音質に驚くと思います。

 

林田涼太
【Profile】いろはサウンドプロダクションズ代表。録音/ミックス・エンジニアとして、ロックからレゲエ、ヒップホップとさまざまな作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、9dwのサポート(syn)としても活動。

 

AVANTONE PRO Gauss 7

オープン・プライス

(市場予想価格:89,760円前後/ペア)

f:id:rittor_snrec:20210907135500j:plain

SPECIFICATIONS
▪スピーカー構成:178mmウーファー(フェライト・モーター)+65mmツィーター(Gau-AMT) ▪周波数特性:30Hz〜22kHz ▪アンプ動作方式:クラスDバイアンプ ▪アンプ出力:120W(LF)+60W(HF) ▪最大音圧レベル:103dB ▪全高調波ひずみ率:0.5% ▪消費電力:0.5W以下(スタンバイ)、250W(フル出力) ▪外形寸法:235(W)×381(H)×212(D)mm(1台) ▪重量:8.2kg(1台)

製品情報

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp