AUSTRIAN AUDIO HI-X65 レビュー:独自開発の44mmドライバーを備えるウィーン製の開放型ヘッドフォン

AUSTRIAN AUDIO HI-X65 レビュー:独自開発の44mmドライバーを備えるウィーン製の開放型ヘッドフォン

 AUSTRIAN AUDIOは2017年にオーストリアのウィーンで創業した比較的新しいメーカーです。もともとAKGで働いていた人たちが立ち上げた会社、ということを知れば興味が湧いてきませんか? 今回はAUSTRIAN AUDIOの開放型モニター・ヘッドフォンHI-X65をレビューします。僕は普段から同社の密閉型モデルHI-X55を使っているので、それとの比較も含め書いていきたいと思います。

解像度が高くクリアで自然なサウンド。リバーブなどの切れ際までよく見える

 僕は基本的にスピーカーで音楽を聴く方が好きですし、作業もしやすいので、ヘッドフォンはこれまでノイズのチェックや“ヘッドフォンだとどう聴こえるか”を確かめるためにしか使っていませんでした。しかし近年、Dolby Atmosなどの立体音響をバイノーラルで聴くために必須だったり、スピーカーに比べてユーザー数が多い印象を受けたりと、その重要性を感じています。

 

 それで、性能や価格を考慮した末にたどり着いたのがHI-X55。自分の求める点がすべてクリアされていたので即購入し、ミックスに使っていく中で“この価格で、よく作っているな”とコスト・パフォーマンスの優秀さを実感しています。定位や奥行き、周波数などを調整したときにちゃんと“ついてくる”感じで、特に音の距離感のコントロールがやりやすい。それにレスポンスが良いので、スピーカーで追い切れなかった部分までよく分かります。そこが購入の決め手でした。

 

 今回チェックするHI-X65は、ミックス/マスタリング用に設計されたという開放型の機種。メーカー独自開発のHigh Excursion Acoustic Technologyを採用した44mm径のHi-Xドライバーを備え、極上の空気感と新次元の解像度を提供するとのことです。イア・パッドには低反発素材が使われており、強度が求められるパーツは金属製。回転機構を有し、片耳モニタリングも可能です。

 

 音の方向性はHI-X55と同様に解像度が高く、クリアで自然。リバーブの余韻など、音の切れ際まで本当によく聴こえます。先の“極上の〜”という触れ込みは、大げさではないですね。高域は、HI-X55のはっきりと近い感じに比べてナチュラル。中域に関しては、声の太い部分などもしっかりと感じ取れます。低域はHI-X65の方がHI-X55よりタイトさが少なく、自然な余韻が残る感じで良いかも。故にベースと左右のディストーション・ギターなど、一緒くたに聴こえてしまいがちな音が個々に聴き取りやすかったり、位相感も分かりやすいです。

 

 HI-X55と大きく違うのは、ハウジングがメッシュになっていて音がたまらないので、さらなる空気感があり、スピーカーで作業しているような感覚になれる点。SONYのモニター・ヘッドフォンMDR-CD900STみたいに張り付いた感じの音ではないので、近い音が好きな方は“低域の音量感が少ない”などと最初は違和感を覚えるかもしれませんが、実際はちゃんと低域も出ていますし分かりやすいので、すぐに慣れるかと思います。ちなみにHI-X55は金属製のハウジングを採用した密閉型なので、装着した瞬間に少しだけ箱鳴りのような、金属特有のこもった印象を受けます。これもすぐに慣れるのですが、HI-X65の方がタイトさ控えめで、自然な余韻が残る感じがします。

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HI-X65は開放型なので、ハウジングはメッシュ構造になっており音が中にたまらない。ヘッドフォンながらスピーカーを鳴らしているような聴感を得られる

 聴いていて楽しいのはHI-X65の方でしょうか。対して、一つ一つの楽器の調整はHI-X55の方がやりやすいと思います。悩ましいですね。ミックスのディテールを確かめたり持ち運んで使ったりするヘッドフォンとしてHI-X55、リスニングやミックスの全体感を作るときのためにHI-X65というように、2台持っておいてもよいかもしれません。

耳がどこにも当たらず痛くならない。ホールド感があり片耳使用時も安心

 音はもちろんですが、ヘッドフォンは装着感が大事ですよね。僕はヘッドフォンをしているとすぐに耳が痛くなるのですが、HI-X55もHI-X65もハウジングが長円形で深く、耳を包み込んでくれる感じです。耳がどこにも当たらないし、低反発のイア・パッドも手伝って痛くなりません。メガネをかける方も大丈夫でしょう。

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イア・パッドには低反発素材が使用され、快適な装着性となっている

 重量は両機種共に300gくらいで、それほど重くなくて良いです。ホールド感がしっかりとあるため、さらに重さを感じにくいと思います。長時間着けていても疲れず、可搬性にも優れていて、ハウジング部をヘッド・バンドの内側に折り畳んだりフラットにしたりして持ち運べます。先述の通り片耳モニタリングができるため、ライブ・レコーディングで試してみたところフィット感が良くズレ落ちなかったので好印象です。可動部が金属で作られている点やイア・パッドなどが交換可能なのは、やはりプロ・ユースを意識してのことでしょうか。なおHI-X65には、交換式のケーブルが3mと1.2mの2種類付属しています。

 

 あえて言うなら、付属ケースの素材が薄いので、持ち運びする機会が多い方は頑丈なケースを見つけて別途購入する方が安心かもしれません。それにしても、最近はヘッドフォンで音楽を聴くのが楽しいです。AUSTRIAN AUDIOのヘッドフォンのように、新しいお気に入りを手にするとこれまでに無かった発見があって面白いですね。

 

渡辺修一
【Profile】ワーナーミュージック〜東芝EMIを経て、現在はフリーランスのレコーディング・エンジニア。GARNiDELiAやSyrup16gらに携わる。MADIやDanteなどにも精通し、ライブ録音もこなす。

 

AUSTRIAN AUDIO HI-X65

オープン・プライス

(市場予想価格:49,500円前後)

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SPECIFICATIONS
▪形式:開放型 ▪ドライバー:44mm径Hi-Xドライバー ▪周波数特性:5Hz〜28kHz ▪全高調波ひずみ率:0.1%以下(@1kHz) ▪入力電力:150mW ▪感度:110dB SPL/V ▪インピーダンス:25Ω ▪外形寸法:170(W)×200(H)×85(D)mm ▪重量:310g(ケーブルを除く) ▪付属品:ケーブル(3mと1.2m)、ステレオ・ミニからステレオ・フォーンへの変換アダプター、他

製品情報