Ableton認定トレーナーの宮川です。遂にAbleton Live 12がリリースされます。Live 11から3年ぶりのアップデートで待ちに待っていた方も多いのではないでしょうか。昨年より提供が開始されたベータ版では、多様な新機能が確認できます。ここでは、僕がLive 12に触れた中で特に注目すべき新機能や新要素をピックアップして紹介します(レビュー時は発売前のベータ版を使用しているため、リリース版とは機能が一部異なる可能性がございます)。
ノートの形を多様な手法で変えるMIDI変形ツールでアルペジオや各種奏法を手軽に表現
最初にご紹介するのは“スケールモード”です。Live 12では、プロジェクトでスケールの選択が行えるようになりました。
このモードをアクティブにすることで、作成したMIDIクリップのスケールがデフォルトで適用されるため、スケールの構成音だけが着色されるハイライト表示や、ノートが入力されているキーだけ抽出して表示するフォールド機能を手軽に使用できます。さらに注目すべき点は、ArpeggiatorやChordなどノートのピッチを制御するMIDIエフェクトがスケールに連動して動作することです。特にChordでは単音のノートをルートに設定してダイアトニックコードを生成できるため幅広い場面で活用が期待されます。
Live 12のアップデートの中で僕が最も革新的と感じたのがMIDI関連の機能です。MIDIクリップの編集画面では、“ピッチとタイミングのユーティリティ”“MIDI変形ツール”“MIDI生成ツール”の3つのツールでワークフローの効率化を図ることやフレーズのアイディアを模索することが可能です。
ピッチとタイミングのユーティリティでは、設定したスケールにノートを移動させるFit to Scale、ノートの発音タイミングをランダムに変化させるHumanize、複数のノートを選択してタイムストレッチができるStretchノブなどが追加されました。
選択したノートに対して特定の和音を生成して追加するAdd Intervalでは、クリップのスケール設定がなされている場合、半音単位ではなくスケールに沿った和音が生成されるのでアイディアを素早く形にできます。
続いては新機能の“MIDI変形ツール”です。
入力したノートを変形させる機能で、MIDIプログラミングの効率化や、自作したフレーズが予想外の形に置き換わることによって創造性を高める効果も望めます。対象のノートを選択し、モードに応じたパラメーターを操作した後にTransformボタンをクリックすると、ノートエディターの入力内容が変形します。この機能の素晴らしい点は、変形が実行された状態でパラメーターを動かすと、ノートエディターに内容が即座に反映されるため、フレーズをプレビューしながら好みの形に調整できることです。幾つかモードを紹介します。
●Arpeggiate:入力した和音が分散和音(アルペジオ)に変化します。繰り返されるアルペジオフレーズの2周目以降に対してピッチを変更できるDistanceはスケールにも連動するので、入力した和音構成に、アルペジエイターの枠を超えた新しい響きを加えることも可能です。
●Connect:ノートの隙間を埋めることができるモードで、加えるノートの音価を設定するRateやピッチの幅を設定するSpread、ノートの密度を設定するDensityを併用することで、思いがけないフレーズに変化させることができます。
●Ornament:フラム奏法やグレースノートなどの装飾的な効果を加えるモードです。追加ノートのタイミングやベロシティの調整に加え、グレースノートではピッチの制御もできます。ドラムパターンはもちろん、メロディフレーズに使用することで、演奏にニュアンスを加えることができます。
●Recombine:ノートタイミングを固定したまま、音価やピッチをほかのノートと入れ替える面白い機能です。例えば、フレーズ制作に使用したいピッチは決まっている状態でほかのパターンを模索したい場面などで活用できそうです。
●Span:音価に変化を与えるモードで、Legato、Tenuto、Staccatoの3種類から選択できます。Offsetでは複数ノートに対して一斉に細かな音価調整が行えるので、ノートとノートの間を重ねたい場面で活躍しそうです。またVariationは音価をランダムに変更することができるので、ヒューマナイズ的に使用するのも効果的です。
●Strum:入力した和音に対してギターなどの弦楽器に代表されるストラム奏法を表現できます。発音タイミングのずれ方を視覚的に確認しながら始点、終点、カーブが調整できるので、いつもストラム奏法を手動で調整されている方が非常に作業効率を向上できる機能といえます。
●Time Warp:手動で入力するのが大変な、ノートのタイミングを徐々に速めたり遅くしたりする表現ができるモードです。始点と終点のほか中間点も設定できます。
ドラムパターンからハーモニーまでMIDIフレーズをゼロから作り出すMIDI生成ツール
3つ目の“MIDI生成ツール”はMIDIフレーズをゼロから生成する機能を持ち、フレーズのアイディアを模索する際に役立つさまざまなモードが備わっています。
●Rhythm:単一のピッチでパターンを生成することができます。一定間隔のノートだけでなく、フレーズの周期を変更するSteps、ノートの密度を調整するDensity、そしてパターンを変更するPatternを使用して、さまざまなリズムパターンを作り出すことが可能です。また、Split機能では近年のエレクトロニックミュージックでよく用いられる、部分的に細かい音符で連打を行うラチェット効果が生まれ、より現代的なリズムアプローチを生成することができます。
●Seed:指定した条件に基づいてランダムなフレーズを生成できるモードです。ピッチの幅、音価、ベロシティ、Densityによるノートの密度といったパラメーターを設定可能です。結果として完全にランダムなフレーズではなく、ある程度意図したフレーズを作り出すことができるので、さまざまなシーンで活躍すると感じられます。さらにVoicesでは生成されるフレーズの最大和音数を指定でき、メロディだけでなくハーモニーのアイディアを求める際にも役立ちます。
●Shape:シェイプレベル内に描かれたカーブに従ってノートが生成されます。このモードを使用すると、ピッチの高低のニュアンスを指定するだけでフレーズを具体化できます。ピッチ幅の設定や4つのノブを調整することで、ニュアンスを細かく変更することができます。
●Stacks:複数のコードを生成できるモードです。それぞれのコードのルート音や転回系を指定し、手早くコード進行のアイディアを形にできます。コードセレクター・パッドを上下にドラッグすることでコードタイプの変更もできますし、クリップのスケールが設定されていれば、スケールに沿ったコードの生成も可能です。手早くさまざまなコードパターンを試せるので、特に普段マウスを使用してコードを入力している方にとっては、その手軽さとスピードから、大いに魅力を感じる機能と言えるでしょう。
ミキサー表示に対応したアレンジメントビュー
ここまでご紹介してきたMIDI機能のほかにも、MIDIノートエディタにはさまざまな機能が追加されました。ノートを選択後、右クリック(Macはcontrol+クリック)のメニュー内に表示される“グリッド値でMIDIノートを分割”を選択すると、設定中のグリッド幅でノートを一斉に分割できます。同様の流れで、ノートを選択しないでタイム位置を選択してからメニューを表示すると“ノートを分割”が選択でき、指定したポイントでノートが分割されます。
また、アレンジメントビュー上では、表示できる項目が大幅に追加されました。従来のクリップビューやデバイスビューのほか、ミキサーの表示にも対応し、これらは同時に表示することも可能です。表示、非表示の切り替えは、画面右下の各アイコンをクリックすることで行え、ミキサーには入出力やセンドなど、詳細表示の設定が可能です。
そのほか、オーディオ波形の垂直ズームが可能になりました。倍率も指定でき、ズーム表示のオン、オフはボタン一つで切り替えられます。その隣の“H”“W”ボタンではトラックの高さと幅の表示を最適化できます。ボタン一つでズームと下の表示が切り替わるのは、ユーザーへの気遣いを感じます。
ブラウザでは類似サンプルを検索可能に
ブラウザは探しやすさが向上しました。フィルター機能が追加され、タグ検索が行えます。Liveに付属するコアライブラリ内のコンテンツはもちろんのこと、Editボタンからユーザー自身がタグの変更や追加を行うこともできます。さらに類似ファイルの検索機能が追加され、Liveデバイスのプリセットやサードパーティのものを含めたサンプルに対し、選択したサンプルに類似したファイルを探すことが可能です。対象の項目を選択後、“類似ファイルを表示”ボタンをクリックすると類似ファイルがリストで表示され、その類似度をファイル名の横に表示されたバーで確認できます。
柔軟にルーティングできる新たなシンセ&エフェクト
インストゥルメントには、多彩なサウンドが生み出せるマルチ合成方式のシンセサイザーMeldが追加されました。
マトリクスにより自由にパッチング可能なオシレーター、フィルター、エンベロープジェネレーター、LFOがそれぞれ2系統搭載されています。Meld最大の特徴は、オシレーターにノイズや環境音などの非楽音的なサウンドが多数含まれ、サンプルではなく合成によりサウンドをコントロールできる点で、これは斬新かつ個性的です。SEの制作に最適なのはもちろんのこと、オーソドックスなシンセサウンドにスパイスとして加えるなど、ほかとは一味違うサウンドをデザインしてみたい方に非常にお薦めです。
オーディオエフェクトには、多彩なルーティングが可能で、LFOやエンベロープによるモジュレーションに対応するシェイパーエフェクトのRoarが加わりました。
2つのステージを直列、並列、M/Sで並べるルーティングや、High/Mid/Lowの3バンドでのルーティングに対応します。モジュレーションソースには、2基のLFOや、オーディオ入力に同期するエンベロープ、ランダムに動作するNoiseを用意。これらのモジュレーションを各パラメーターへ自由にルーティングできるマトリクス機能も備え、シェイパーの枠に留まらないシンセさながらのクリエイティブなサウンドを得られます。
チューニングシステムで多様な音律を扱える
またLive 12では、チューニングシステムが導入されました。アラビアやヨーロッパ古典音楽などの民族音楽に適した調律や、純正律など平均律以外の調律を用いた音楽制作が行えます。平均律では表現が難しい民族楽器とのアンサンブルを楽曲に取り入れる場合や実験音楽など、多様な音律を探求した音楽制作をさらに手軽に行うことができます。
ここまでLive 12のアップデートにおける新機能を厳選して紹介しましたが、お伝えできなかった追加要素も多数あります。このことから、このアップデートでどれだけ多くの機能が追加されたかお分かりいただけるのではないでしょうか?ぜひ革新的な新機能をご自身でも体感してみてください!
宮川智希
【Profile】Ableton認定トレーナー。これまでにプレイヤーや作編曲家、ボカロPなど、多岐にわたる活動を展開。現在は制作業と並行し、DTMスクール・メディアサイトSleepfreaksで講師を務めている。
Ableton Live
Live 12 Intro:11,800 円、Live 12 Standard:52,800円、Live 12 Suite:84,800円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降、intel Core i5もしくはApple Silicon、Core Audio準拠のオーディオインターフェースを推奨
▪Windows:Windows 10(バージョン22H2)/11(バージョン22H2以降)、intel Core i5(第5世代)またはAMD Ryzen、ASIO互換オーディオハードウェア(Link使用時に必要)
▪共通項目:3GB以上の空きディスク容量(8GB以上推奨、追加可能なサウンドコンテンツのインストールを行う場合は最大76GB)