Studio Oneの付属音源、PRESENCE XTの「即戦力」|解説:宮野弦士

付属の音源PRESENCE XTその“即戦力”を掘り下げる|解説:宮野弦士

 はじめまして。新たに連載を担当する作編曲家/マルチインストゥルメンタリストの宮野弦士(みやの・げんと)と申します。音楽制作を本格的に始めた時期から今に至るまで、ずっとPreSonus Studio Oneを愛用してきたので非常にワクワクしております! 今回は、数ある魅力の中から、標準搭載のサンプルプレイバック音源PRESENCE XTの生楽器系ライブラリーについて掘り下げたいと思います。

“ベース”や“ギター”と言っても複数のタイプを収録

 Studio OneのProfessional版にはPRESENCE XT用の“コアライブラリー”が付属していて、何と15GBもの大容量。しかも一通りの楽器の音が入っていて、さまざまなジャンルに対応できるため“まだサードパーティのソフト音源を持っていない……”というビギナーの方も、すぐにハイレベルな制作がスタートできてしまいます。備えつけの音源って、あんまり大したことないんじゃないの?なんてお思いのあなた。侮るなかれ、単にさまざまな楽器がそろっているだけでなく、一つ一つがしっかりと作り込まれているからです。

 例えばベースのライブラリーを見てみると、標準的なベース(Contemporary Bass)はもちろん、6弦ベースやフレットレスベース、アップライトベースなども収録されています。

PRESENCE XT用コアライブラリーには、ベースだけでもこれだけのカテゴリーが用意されている。●Instrument+FXのフォルダーには、標準搭載のエフェクトで音作りされた各種ベースのサウンドがズラリ。ほかのカテゴリーフォルダーも、数多くの音色を収録している

PRESENCE XT用コアライブラリーには、ベースだけでもこれだけのカテゴリーが用意されている。●Instrument+FXのフォルダーには、標準搭載のエフェクトで音作りされた各種ベースのサウンドがズラリ。ほかのカテゴリーフォルダーも、数多くの音色を収録している

 一口にベースやギターと言っても、仕様や音の特徴はさまざまです。得意なジャンルも異なりますが、これだけそろっていればある程度どんなジャンルにも対応できるよ!という的を射たチョイスなのがさすが。さらに、ほとんどの楽器がキースイッチでの奏法のコントロールに対応しています。

PRESENCE XTにSteel Str Gtr Fullというギター音色をロードしてみると、画面下部に赤いライン(黄枠)の付いた鍵盤が現れる。これらは“キースイッチ”と呼ばれる鍵盤で、スライドやハーモニクスといった実際の奏法の効果を打ち込みの音に与えることができる。例えばA0の鍵盤(矢印)にはスライドがアサインされており、フレーズのノートと共にA0のノートを打ち込むと、スライドの効果が加わったサウンドになる

PRESENCE XTにSteel Str Gtr Fullというギター音色をロードしてみると、画面下部に赤いライン(黄枠)の付いた鍵盤が現れる。これらは“キースイッチ”と呼ばれる鍵盤で、スライドやハーモニクスといった実際の奏法の効果を打ち込みの音に与えることができる。例えばA0の鍵盤(矢印)にはスライドがアサインされており、フレーズのノートと共にA0のノートを打ち込むと、スライドの効果が加わったサウンドになる

 個人的には特に、Big Steel String Guitarという名で収録されている12弦ギターが非常にきらびやかで気持ち良い。しかも、チューニングは実際の12弦ギターと同様に、6〜3弦までは主弦と副弦がオクターブで重なっていて、2弦と1弦は主と副のユニゾンとなっています。何となくコードを鳴らしてみるだけで、カリフォルニアの夕焼けや宇宙の彼方(?)の景色が浮かぶようです。

 エレキギターも、Fender StratocasterやTelecaster、Gibson Les Paulなど、古くから愛されている特徴的なモデルを収録。標準搭載のアンプモデリング/ギター用エフェクトのAmpireと組み合わせて活用すると、さらに強力です。

Fender Telecaster系のギターライブラリー。それぞれの名称にレガートやミュート、スライドなどと書かれている通り、特定の奏法がアサインされた音色もある。使いたい奏法が決まっている場合はこちらも便利だ

Fender Telecaster系のギターライブラリー。それぞれの名称にレガートやミュート、スライドなどと書かれている通り、特定の奏法がアサインされた音色もある。使いたい奏法が決まっている場合はこちらも便利だ

 続いてはエレクトリックピアノ。エレピと言えばRhodes系、WURLITZER系、FM音源系の音色が代表的だと思います。それぞれ1種類ずつあればひとまずOKという感じですが、コアライブラリーのRhodesは“MK1”と“Suitcase”の2種類を収録。当然、同じRhodes系と言えどサウンドの質感は随分と異なります。単に“エレピ”と想像したときに、これらを使い分けたい人はどれだけいるか?というマニアックさではありますが、Rhodesの音があまりにも好き過ぎて、常日頃そのことで頭がいっぱいな筆者は大喜びです。

 コアライブラリーには現在、FM系のエレピ音色が収録されていませんが、無料のStudio One Primeを含む全グレードに付いてくるStudio One InstrumentsのE-Pianos and Organsライブラリーには入っているので、ご安心を。余談ですが、Studio One InstrumentsにはPRESENCE XTのコアライブラリーが追加される以前……つまりStudio Oneバージョン2の頃に純正音源として用意されていたものが受け継がれています。当時を知るユーザーは“あのときのやつや!”と懐かしさで目頭を熱くすることでしょう。

 鍵盤つながりということで、オルガンにも触れておきます。オルガンの相棒と言えばLeslieのロータリースピーカーですが、これを思わせるシミュレータープラグイン=ROTORがオルガン音色に効果的。

Leslieのロータリースピーカーをほうふつさせる標準搭載のエフェクト、ROTOR。モジュレーション系エフェクトのように、音量やピッチの揺らぎを与えられる。細かい設定を追い込んだり、揺らぎのスピードをSLOW/FASTで切り替えたりすることも可能。オルガンだけでなく、ギターのアルペジオなどに使っても効果的だ

Leslieのロータリースピーカーをほうふつさせる標準搭載のエフェクト、ROTOR。モジュレーション系エフェクトのように、音量やピッチの揺らぎを与えられる。細かい設定を追い込んだり、揺らぎのスピードをSLOW/FASTで切り替えたりすることも可能。オルガンだけでなく、ギターのアルペジオなどに使っても効果的だ

 コアライブラリーのOrganフォルダーを見てみると●Instrument+FXというフォルダーがあり、その中にはROTORを含む幾つかのエフェクトでサウンドメイクされた音色が入っています。Studio Oneには、インサートエフェクトの設定&接続順を保存できる機能“FXチェーン”が装備されていて、そのFXチェーンが音色に活用されてプリセットになっているわけです。

マリンバやカリンバなどの鍵盤打楽器も面白い ストリングスはポップス向けの“速い音”にも対応

 Percussionフォルダー内のLatin Perc Kitには、コンガやトライアングル、カウベルなど、一般的な歌モノポップスでも非常によく使われる楽器がそろっています。

Latin Perc Kitというプリセットには、さまざまなラテンパーカッションが収録されている。コンガ、ボンゴ、ティンバレスなどをはじめ、どのような楽器の音が含まれるのか表示されるのもうれしいところ

Latin Perc Kitというプリセットには、さまざまなラテンパーカッションが収録されている。コンガ、ボンゴ、ティンバレスなどをはじめ、どのような楽器の音が含まれるのか表示されるのもうれしいところ

 もちろん、そのどれもが複数の奏法で演奏されたサンプルを用意。マリンバ、シロフォン、グロッケンシュピールといった鍵盤打楽器のクオリティも非常に素晴らしく、特にマリンバは、筆者もいろいろな楽曲で活用しています。

 ブラスやストリングスも充実。Brassフォルダーにはトランペット、トロンボーン、フリューゲルホルン、フレンチホルン。Windsフォルダーには各種サックス、クラリネット、フルートなど。Stringsフォルダーにはバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスが独立して存在しており、組み合わせて本格的なアンサンブルを組むことも可能です。

 ブラスは、オーケストラや吹奏楽でも使われることを想定しているのか、柔らかめの音色。ファンクなどのド派手なサウンドを作るにはやや物足りないかもしれませんが、ひずみやEQなどのエフェクトで音作りしていくことでカバーできそうです。ただ、ブラス/ストリングス共に専用の単体音源のような仕様ではないため、実際の楽器をあまり知らない人にとっては、それっぽく鳴らすのに少々訓練が必要になるかもしれません。実際にセクションを組む感覚で、4パート、5パートのオーケストレーションをしてみましょう。

 ストリングスは、フィルターやエンベロープジェネレーターで音色を調整することで、立ち上がりの速いポップス向けのフレーズに対応します。Filterセクションをオンにして、フィルターの種類をLP 12dB Ladderに設定し、カットオフは開き切りに(音がこもらないように)してみましょう。

ポップミュージックのストリングスと言えば、ドラムやエレキギターなどの大音量楽器にも埋もれないアタッキーなサウンド(立ち上がりの速い音)が特徴。PRESENCE XTのフィルターにはPunchというトランジェントコントロールが付いており、これを上げていくと音の立ち上がりが速くなるため、プリセットのストリングスをポップス制作で使いたいときにお勧め。ちなみに、PRESENCE XTのストリングスにはSolinaというカテゴリーがあって、1970年代のストリングスシンセB.V. EMINENT solinaを意識したものと思われる。その機械的な音をあえて使うことで、シンセポップやハウス、プログレッシブロックなどのアレンジが面白くなりそう

ポップミュージックのストリングスと言えば、ドラムやエレキギターなどの大音量楽器にも埋もれないアタッキーなサウンド(立ち上がりの速い音)が特徴。PRESENCE XTのフィルターにはPunchというトランジェントコントロールが付いており、これを上げていくと音の立ち上がりが速くなるため、プリセットのストリングスをポップス制作で使いたいときにお勧め。ちなみに、PRESENCE XTのストリングスにはSolinaというカテゴリーがあって、1970年代のストリングスシンセB.V. EMINENT solinaを意識したものと思われる。その機械的な音をあえて使うことで、シンセポップやハウス、プログレッシブロックなどのアレンジが面白くなりそう

 この状態でPunchノブを上げていくとアタックが持ち上がっていくので、MIDIでトリガーした瞬間から発音されるマルカート奏法のような音が得られます。これを駆使すれば、華やかな駆け上がりフレーズや、ディスコ的な細かい16分音符のフレーズもしっかりと聴こえるようになります。お試しあれ!

 PRESENCE XTの魅力を掘り下げてみましたが、いかがでしたでしょうか。次回もほかの機能やプラグインの魅力をお伝えしようと思いますので、よろしくお願いいたします!

 

宮野弦士

【Profile】1994年生まれの作編曲家/サウンドプロデューサー。ダンスミュージックを得意とし、強固なグルーブ+綿密な和声を生み出す。これまでにフィロソフィーのダンス、MORISAKI WIN、鞘師里保などへの楽曲提供/編曲を担当。キーボード全般を奏でるマルチ奏者としても知られ、フィロソフィーのダンス、MORISAKI WINらのツアーサポートを務める傍ら、ロックバンド“7セグメント”ではギター/キーボード/ソングライトをこなす。“宮野弦士”名義で、2023年に2nd EP『Behind The Nightscape』を発表。AOR、ドラムンベース、ハウス、ボサノバなどを昇華した独自の世界を提示する。

【Recent Works】

『Behind The Nightscape』
宮野弦士

 

 

 

PreSonus Studio One

Studio One 6.5

LINE UP
Studio One 6 Professional日本語版:52,800円前後|Studio One 6 Professionalクロスグレード日本語版:39,600円前後|Studio One 6 Artist日本語版:13,200円前後
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降(64ビット版)、intel Core i3プロセッサーもしくはApple Silicon(M1/M2/M3チップ)
▪Windows 10(64ビット版)、intel Core i3プロセッサーもしくはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBのハードドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPIを推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要

製品情報

関連記事