Digital Performerでオケ作りに欠かせない清書用チャンクの中身とは?|解説:sasakure.UK

オケ作りに欠かせない清書用チャンクの中身とは?|解説:sasakure.UK

 こんにちは! 音楽家のsasakure.UKです。ボカロPとしての活動のほか、楽曲提供やバンド“有形ランペイジ”のプロデュースも行っています。私の最新アルバム『未来イヴ』に収録している、「ÅMARA(大未来電脳)」の制作を題材にお届けしている本連載。第3回はオケ作りについてです。オケの作成においても、Digital Performer(以下DP)に備わる便利な機能がとても役立っています。ぜひ読者の皆さんも参考にしていただき、DPで音楽を制作してみてください!

「ÅMARA(大未来電脳)」は、スマートフォン用ゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ!』の2周年を記念した書き下ろし楽曲。7/8リリースのアルバム『未来イヴ』にも収録されている

“プラグインを適用”でコンピューターへの負荷を軽減

 第1回ではモチーフ作りのためのチャンクを用意するとお伝えしましたが、そこからすぐに完成形のプロジェクトで作業をするのではなく、各パートを清書するためのチャンクも用意しています。それぞれリズム・トラック、ベース、ピアノ……というような形ですね。

「ÅMARA(大未来電脳)」の制作に用いたチャンクの一覧。最上段の“@master(oke)”がオケのマスターとなるプロジェクト。そのほかに各パートの清書用としてさまざまなチャンクを活用している

「ÅMARA(大未来電脳)」の制作に用いたチャンクの一覧。最上段の“@master(oke)”がオケのマスターとなるプロジェクト。そのほかに各パートの清書用としてさまざまなチャンクを活用している

 例えば“add_bass+drum”というチャンクでは、各ドラム・パートの音色をチャンク内で作り込み、完成形のプロジェクトに移しています。こだわって作りたいパートは集中して取り組めますし、すべてを一つのプロジェクトで作業すると、ごちゃごちゃしてしまいますからね。

 ではその作り方についてもお話していきます。まずはドラム。それぞれのパートはサンプル素材を元にしていて、キックは高音成分が強いものと低音成分が強いものの2つを重ねて、アタック感と低域感を出しています。スネアやシンバル系も複数の種類を用いていますね。

ドラムのキックは、“kick_high”と“kick_low”の2つのトラックを用意。異なる素材を重ねることで、アタック感と低域の強さを共存させている

ドラムのキックは、“kick_high”と“kick_low”の2つのトラックを用意。異なる素材を重ねることで、アタック感と低域の強さを共存させている

 このチャンク内で音色作りだけでなく、音量のバランスやパンニングなど、ある程度ミックス的なところまで作業を行っています。ここで私が重宝しているのが、WAVES S1 Stereo Imager(以下S1)というプラグインです。これはL/Rへの振り方や広げ方を調整できるというもので、音の位置を視覚的に判断できるため、パンニングの調整にとても便利です。

WAVES S1 Stereo Imagerはパンニング調整としてよく用いているプラグイン。画面中央の三角形が音の位置や広がりを表しており、角度や形を調整可能。ゲインや位相反転機能なども備えている

WAVES S1 Stereo Imagerはパンニング調整としてよく用いているプラグイン。画面中央の三角形が音の位置や広がりを表しており、角度や形を調整可能。ゲインや位相反転機能なども備えている

 S1で一度パンニングを調整したらオーディオ・ファイルとして書き出すようにしているのですが、このときに役に立つのが、DPの“プラグインを適用”という機能。これは、選択したサウンドバイトに直接、プラグイン・エフェクトの効果を加えることができるというものです。プラグインを挿したままにしなくてもよいため、コンピューターへの負荷を軽減することができます。

任意のサウンドバイトを選択した後、メニューから“プラグインを適用...”をクリック。ここから使用するプラグインを選びパラメーターを調整すれば、エフェクトが反映されたサウンドバイトが完成。プラグインを挿すことによるコンピューターへの負荷を軽減できる。選択したサウンドバイトに上書きする形でエフェクトが付与されるので、元のデータをバックアップとして残しておくのもよいだろう

任意のサウンドバイトを選択した後、メニューから“プラグインを適用...”をクリック。ここから使用するプラグインを選びパラメーターを調整すれば、エフェクトが反映されたサウンドバイトが完成。プラグインを挿すことによるコンピューターへの負荷を軽減できる。選択したサウンドバイトに上書きする形でエフェクトが付与されるので、元のデータをバックアップとして残しておくのもよいだろう

 元のデータを残してはいますが、“ここからもう変えることはないな”と思う場合は、プラグインを適用をどんどん使っています。私はトラックやプラグインの数が多くなってしまいがちなところがあり、なるべく負荷を減らそうと考えていたらこの方法にたどり着きました。

ピアノに手弾き感を加えるクオンタイズのランダマイズ機能

 続いてピアノについて。この曲ではピアノ音源プラグインとして、SYNTHOGY Ivory 2を本チャン用に使い、MIDIを打ち込んでいきました。その際、発音のタイミングがグリッドから若干ずれている箇所があります。これは、人が手弾きしているようなヨレた感じを出すためのものです。

ピアノのMIDIトラックの一部。青矢印をはじめとする和音の構成部分は、よく見ると縦のグリッドに対して発音タイミングがバラバラになっている

ピアノのMIDIトラックの一部。青矢印をはじめとする和音の構成部分は、よく見ると縦のグリッドに対して発音タイミングがバラバラになっている

 和音など音が重なっているところでは、すべての音を同時に鳴らすと打ち込みっぽい硬い音になってしまいます。アタックを前に出すためにあえてそうしている部分もありますが、この曲では少し人間味を出したかったので、全体的にずらしている部分が多いです。最終的には耳を頼りにしながら、“こっちの方がかっこいいな”と思ったら採用するようにしています。

 その方法として、すべてのMIDIノートを手作業でずらすのは大変なので、クオンタイズのランダマイズ機能を使います。

ランダマイズは、クオンタイズの中のオプション(青枠)から選択可能。パーセンテージを設定することで、ランダマイズのかかり具合の強弱を調整できる。なお、クオンタイズ画面はショートカットのcommand+0(WindowsではCtrl+0)で呼び出すことが可能

ランダマイズは、クオンタイズの中のオプション(青枠)から選択可能。パーセンテージを設定することで、ランダマイズのかかり具合の強弱を調整できる。なお、クオンタイズ画面はショートカットのcommand+0(WindowsではCtrl+0)で呼び出すことが可能

 ランダマイズのパーセンテージは3〜10%ほどです。この曲は音符が細かいので、あまりかけすぎると逆にグルーブに合わなくなってしまいます。あくまでも味付け程度というニュアンスですが、それでもかけることでアタック感がまろやかになるので、大きな効果が得られていると思います。

 ランダマイズはベロシティで活用することもあります。部分的にピアノの強弱を付けたいときにはベロシティの調整を手作業で行いますが、その後にランダマイズを加算しています。自分が意図したベロシティを基準としながら、さらに独特なグルーブを作成可能ですよ。

ベロシティを変更画面。赤枠で“加算...“を選択し、黄枠の“ランダマイズ”にチェックを入れることで、現在のベロシティにランダム性を加えることができる。デフォルトではショートカットが設定されていないため、筆者はファンクション・キーのF7でアクセスできるようにしている

ベロシティを変更画面。赤枠で“加算...“を選択し、黄枠の“ランダマイズ”にチェックを入れることで、現在のベロシティにランダム性を加えることができる。デフォルトではショートカットが設定されていないため、筆者はファンクション・キーのF7でアクセスできるようにしている

 そのほか、ピアノのリバースもよく行う手法で、この曲でも結構使いました。オーディオをリバースする際には、DPに付属しているReverseというプラグインを用いています。リバースさせたいサウンドバイトを選択して、先述した“プラグインを適用”を使えば、簡単に作成できます。このときに同じく先述したS1で、位相反転させています。ピアノはL/Rのどちらかに寄せている場合が多いのですが、位相を逆にすることで別次元感を出すと言いますか、少し不思議な空間で鳴っているような印象を出すことができるので、リバースの仕上げとして多用していますね。また、この曲のピアノのリバースには使用していないのですが、DP付属プラグインのEchoを併用することも多いです。

DP付属プラグインのEcho。黄枠のゲインで、フィードバックするエコーごとに音量を調整できる。また赤枠では、エコーごとの長さを音符やディレイ・タイムなどから設定可能。右上の黒い画面上には設定したパラメーターが棒グラフのように表示され、エコーのかかり具合を視覚的に判断できる。長くDPを使用する筆者が、特に愛用しているプラグインだ

DP付属プラグインのEcho。黄枠のゲインで、フィードバックするエコーごとに音量を調整できる。また赤枠では、エコーごとの長さを音符やディレイ・タイムなどから設定可能。右上の黒い画面上には設定したパラメーターが棒グラフのように表示され、エコーのかかり具合を視覚的に判断できる。長くDPを使用する筆者が、特に愛用しているプラグインだ

ピッチ機能を使ってボーカルのサンプル素材を加工

 さらに、ボーカルのサンプル音源も加工して、サビの展開部分で使用しています。オペラ風の女性ボーカルで、伸びのある高い歌声を素材として使いました。前回ボーカロイドの調声でお伝えしたDPのピッチ機能を使い、似たような手法で調整しています。元はワンノートをずっと伸ばしている素材だったのですが、途中でピッチを上げてメロディを付けて、疑似的に歌っているようにしました。あらかじめ素材へピッチシフターのAPPLE AUPitchというプラグインをかけて、ピッチを変えたりもしています。声ネタなどのサンプル素材をそのまま使うことはあまりないです。

オペラ風女性ボーカル・サンプル素材の、ピッチ調整画面。細かくピッチの間を上下しているのは、元の素材にビブラートがかかっているため。部分的にE♭からB♭にピッチを上げている部分は筆者の手によるもので、元はワンノートだった素材にアクセントを加えている

オペラ風女性ボーカル・サンプル素材の、ピッチ調整画面。細かくピッチの間を上下しているのは、元の素材にビブラートがかかっているため。部分的にE♭からB♭にピッチを上げている部分は筆者の手によるもので、元はワンノートだった素材にアクセントを加えている

 冒頭で、完成形のプロジェクトだけで作業すると混雑してしまうとお伝えしましたが、ピアノの清書用チャンクにはこのオペラ風女性ボーカルをはじめ、ベースやグロッケンなど、ほかのパートも入っています。ピアノの制作をしながらも、割とほかのパートを同時に思いつくこともあり、その場で打ち込んでいるからです。それもやはり、一つのプロジェクトだけで作業するのではなく、チャンクとして分けることで、視覚的にすっきりしているからこそできることだと思います。思考が散らからないようにするのは大事ですね。

 文字数が尽きてしまいましたので、今回はここまで。次回は楽曲の仕上げで使用するDPの便利な機能などについてお届けします!

 

sasakure.UK

【Profile】インターネット上で自身のサイトを拠点に、オリジナルのインスト楽曲を発表する活動の後、初音ミクなどの音声合成ソフトYAMAHA Vocaloidにインスピレーションを受け、作詞にも挑戦。これらの楽曲を動画サイトに公開すると、その作品性の高さから一躍注目を集める。時代を越えて継承されてゆく寓話のように、物語の中に織り込められた豊かなメッセージ性を持つ歌詞と、緻密で高度な技術で構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立する。

【Recent work】

『未来イヴ』
sasakure.UK
(ササクレイション)

 

 

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):79,200円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

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